[Inst-04] ROLAND LAPC-N (ミュージ郎Jr.BOARD)

パソコンを購入して暫くして、パソコン雑誌なども買って読むようになった。それらの雑誌にたまにMIDIについての記事があった。
パソコン雑誌なので、MIDIと言えばDTM(デスクトップミュージック)である。パソコンとシーケンスソフトとMIDI音源の3つを揃えると、自分のパソコンでオーケストラを演奏させたり、自分1人でバンドが組めたりしちゃいます、なんて書かれている。

そうした記事を読んで、音楽をかじり始めていた自分は、DTMとやらをやってみたいと思うようになった。だが、高校生にとってDTMはなかなかに敷居の高い趣味であった。というのも、MIDI音源とシーケンスソフトのセット(ローランドだとミュージ郎、ヤマハだとHello! Musicなど)を買おうと思ったら5万円からの出費が必要だったのだ。

それでもやってみたいという思いはくすぶり続け、冬休みにバイトをして得た3万円を握りしめて秋葉原へと出向いた。そう、3万円である。足りないじゃん、というなかれ。あわよくば体のいい中古品がお手頃価格で売られていることを期待しての訪問である。
だが、中古品でも3万円で売られているものはなかった。


何店かそうした中古ショップを見て歩いているうちに、とある店でワゴン売りされているミュージ郎を見つけた。箱にはミュージ郎jr. BOARDと書かれていて、妙に小ぢんまりとした箱に収められているのが気になるが。それが3万円でギリギリ買える値段で売られていた。しかも新品である。

これを買えば憧れのDTMが始められるのだろうか。だが、パッケージを見る限り、Cバスボードのようなものが入っているらしいのだが、音源らしきものが入っている気配が無い。そのパッケージにはこれを買えばご家庭で気軽にDTMが楽しめます、的な一文が書かれている。本当に?なんか別に買わないとならないものがあるとかはないよな。何しろ3万円である、通常のミュージ郎の半額以下でそんなものが手に入るのだろうか?

何度となく手にとっては再びワゴンに戻して、という行為を繰り返した。その度にパッケージに穴が開くほど説明書きを読み込んだ。何度チェックしても、このパッケージがあればDTMが始められると書いてある。そう書いてあるならきっとできるのだろうと信じて、それを購入してみることにした。


はやる気持ちを抑えながら箱を抱えて帰宅し、期待に胸膨らませながら開梱すると、中から説明書と、フロッピーと、Cバスの拡張ボードが1枚出てきた。説明書を読むと、そのCバスボードに音源が内蔵されていて、ソフトウェアをインストールすることでDTMが始められると書かれていた。

言われるがままにそのボードを本体に装着して、ソフトをインストール。アプリを起動すると、美しいミキサーの画面が出てきた。あ、これは雑誌で見たことある画面だ!

サンプルで入っているデモソングを流してみたら、まぁ、ちょっと作り物臭いがそれなりにオーケストレーションされている。これで憧れのDTMが始められるぞーと小躍りした。


早速、手元にあったT-SQUAREのスコア集を引っ張り出してきて、曲を打ち込んでみた。
トラックの音色を選び、テンポやキー、拍子を設定して、パレットから楽譜と同じ音価を選んで五線譜上にペタペタと貼り付けていく。

それをたまに再生して、間違っているところを修正して。。。最初のうちは楽しかったが、まだ音楽の基礎を良く知らなかったので、楽譜に書いてあるものをDTM上でどうやって入力したらよいか分からないところがあったり、間違って入力してしまったものを何度も修正しているうちにどこが変なのか分からなくなってしまったり、音色が微妙に違ってて、どうやればオリジナルの雰囲気に近づくのか、何度もトライアンドエラーを繰り返したり。。。途中、何度もめげそうになったが、数か月かかってどうにか1曲仕上げることが出来た。


もちろんアルバムに入っている物とは音色も雰囲気も全く違っているのだが、自分で入力したものがちゃんと演奏されることにとても感動した。その達成感をばねに他の曲にも手を付ける。同じようにめげそうになりながらどうにか完成させて、、、の繰り返しで、30曲くらいは作ったかな。

パッケージの謳い文句のとおり、これ一枚でDTM環境を構築することが出来たので、それなり満足して使っていたのだが、それから暫くして、自分が持っているこの音源が一昔前のローランドの代表的な音源であったMT-32と呼ばれる音源の互換音源で、当時主流となりつつあったGM規格には準拠していないものだということを知った時には、少なからずショックを受けた。

音色のマッピングもGMとは違うし、保存されているファイルフォーマットもSMF(Standard MIDI File)とは互換性のない独自のものだし、なんなら、MIDI音源対応と謳われていたゲームのBGMを鳴らすことも出来ないのである。なるほど、これが3万円の正体か。

このことは、せっかく作った作品が同じ音源を持っている人以外とは共有できない、単なる自己満足の世界でしかないことを意味する。


それでもめげずに更に何曲か作品を作ったりもしたが、知れば知るほど潰しの利かなすぎる音源であることを否応なしに突き付けられるので、だんだんちゃんとGM規格に対応した他の音源を入手したいと思うようになっていった。

数年後、ひょんなことからGM対応の音源を手に入れることが出来たので、そこでこの音源は引退となった。


引退と言っても、これまで作り貯めた曲データをどうにかしなければならない。これらのデータはGM音源上では鳴らすことはできないので、音源を本体から撤去するとその時点でこれまでのデータは思い出の1ページと化してしまう。それではあまりにも悲しすぎるので、どうにかコンバートする方法を調べた。

フリーウェアでミュージ郎のSNG形式ファイルをSMFにコンバートするツールを探したのだが、LA-32時代はまだDTM前夜だったせいか、ツールが殆ど存在していなかった。あれこれ探しまくった末にようやく見つけて、それでコンバートをかけてやったら、後継の音源でも鳴らすことが出来るようになった。

だが、そのツールの仕様なのか、あくまで最低限のデータがコンバートされただけで、細かいニュアンスのデータまでコンバートしてくれなかった。

それらのパラメータをもう一度入れ直す気力はなかったので、もう、データとして活用することは諦めて、音源にオーディオを繋いで、シーケンサーで再生させたものをカセットに録音しておしまいにした。

それで、心置きなくご勇退いただいた次第である。

Posted by gen_charly