[読み物-03] 住まいで振り返る半生記【14】
【Episode 4 – 15歳~18歳】
家出の末、1年ほど一人暮らしをすることになった。
この辺から自ら不動産に赴き、住む部屋の選定に口を出すようになったので、悲喜こもごものエピソードのみならず、部屋の思い出も織り交ぜてゆきたい。
部屋番号12 - 埼玉県鶴ヶ島市某所(その1)
後妻の家を飛び出したのは12月の年の瀬だった。家を出たからと言っても行くアテがない。いつもなら前に住んでいた家を解約せずに残しているに、今回に限って10.の家は既に解約済みだった。なんでこういう時に限って解約しちゃってるかなー。。。
その日は車で夜を明かして、翌日父の知り合いの家に転がり込んだ。自分は冬休みだったので、学校のことは考えなくてよかったが、その家にいたら新学期から通学できなくなるので、いつまでも居候しているわけにもいかない。
新しい年を迎えて数日後、父はその知り合いから思い直すよう説得されて、家に戻ると言い出した。
だが自分にとって後妻はアントラストリストの筆頭格である。戻ったところでまた振り回されるのは目に見えている。絶対に戻りたくない、と拒否した。
父は暫く思案した末、「それなら、少し1人で暮らしてみるか」と提案してきた。それは自分にとって渡りに船。さすが父ちゃん。
ま、自分がいなければ、揉め事の種が一つ減るわけで、何かとやりやすくなる、ということを考えていたフシがないでもないことは感づいていた。疎ましい自分を厄介払いしたい後妻の思いまで慮れば、まさに三方良し、である。
自分は小学生の頃からカギっ子だったので、1人で家にいることは慣れている。家事もそれなりにはこなせるので、1人暮らしに何ら不安はない。
むしろ憧れの1人暮らしである。この先、誰にも束縛されない日々を晴れ晴れと過ごせるのだと思ったら、ものすごく気持ちが軽くなった。
ということで、不動産へ物件を探しに。新学期まであまり時間が残されていなかったので、じっくり選んでいる時間はなかったが、自分が住む部屋なので、ある程度自分の希望も聞き入れて貰うことが出来た。とはいっても、家賃は父の財布が頼りなので、どこでもいい、というわけではない。
とある不動産で見つけたのが、6畳+3畳にキッチンという2Kの部屋だった。家賃は3万1千円。駅からは徒歩20分程かかる場所だったので遠いが、当時の生活は駅との往復を考慮する必要がなかったので、学校に通える範囲であれば場所は別にどこでもよかった。
唯一の希望は6畳一間ではないこと。部屋が2つあるとか、ロフトがあるとか、そういう間取りに変化のある部屋が良かった。
その点ここはおまけの3畳であるが2部屋ある。価格見合いではあったが、ここならそれなりに満足して生活できそうだ、と考えて選んだ部屋である。
で、間取りはこんな感じ。今思えばこれと言って特徴のない部屋ではあるが、狭い部屋は書斎のようにして使おうと思っている。
ところで、上記間取り図の下の方に壁が描かれているのが分かるだろうか。
そう、この部屋は南面の窓の目の前、1mほどのところに隣戸が建っており、日当たり皆無の部屋だった。なので広さの割に安かったのだ。
立体的な図面だとこんな感じ。良くこんな環境の悪い部屋を作ったものだ。
昼間でも電気をつけないと本も読めないほど日当たりの悪い部屋だったので、今なら絶対に選ばない部屋だが、当時は日当たりの重要性など考えていなかったので、間取りオンリーで決めたような格好だ。
まだ中学校は3年生の3学期を残していて、高校受験も控えていた。そんな中での一人暮らしである。
高校受験に向けて万全の態勢づくりをしていかなければならないタイミングなのに、誘惑には自ら打ち勝たなければならない。
いや、誘惑に打ち勝てるわけがない。というか、以前から自宅で勉強するという習慣がなかったので、受験勉強など殆ど手に着かなかった。
まぁ、どうにかなるだろう、と舐めてかかっていたのだ。
そんなテンション感で臨んだ高校受験。いざ当日になったら、セーフティネットのない崖っぷちでの受験という事実が急に重くのしかかってきた。周りの子たちは皆一生懸命受験勉強をして臨んでいるかのような真面目な表情で受験している。果たして自分は彼らを出し抜いて合格できるのか。。。受験勉強をしてこなかったせいで、間違いなく受かる、という裏打ちがなかったので、急に不安になってしまったのだ。
試験中はそのプレッシャーに押しつぶされそうになりながらの受験だった。
幸い、志望校には無事合格したが、合格発表されるまでの数日間は不安で仕方がなかった。
で、その間勉強もせず何をしていたかというと、専ら創作活動である。小学生の頃にワープロを買って貰うほど文章を書くのは好きだったが、その頃SFモノを読むのが好きで、自分でもそれっぽいものを書いてみたくなったのだ。なので、放課後は部屋に籠って駄文を書き散らかしていた。
3畳の洋室に置かれた机はよく使うものが全て手の届く範囲に置けて、まさに書斎である。執筆はこの上なく捗った。公開はしないが。
というか、この集中力を受験勉強に振り向けていたらねぇ。。。