[読み物-03] 住まいで振り返る半生記【23】
部屋番号16 - 埼玉県川越市某所(その1)
再び独立を決意。とはいえ、後妻になけなしの給料から家賃を徴収されていたので、あまり貯金が出来ていなかった。今の懐具合では独力での引っ越しは出来なかったので、例によって初期費用は父に借りた。つまり間接的に後妻に借りたわけだが。。。
で、家を探し始めて数日、父からいい物件がある、と間取り図を見せられた。そのアパートはメゾネット式の物件だった。
これまで一軒家というものにあまり住んだことがなかったので、階段のある部屋に憧れがあった。
メゾネットやロフトなど、フロアが分かれた物件は、平屋とは別次元の空間の広がりがある。それによって生活空間を複数に区切って使うような暮らしをしてみたかったのだ。
ということで、現地に見に行くことにした。
外見はどこにでもありそうな2階建ての古い木造アパートだが、向かって右端と真ん中の部屋はメゾネットで、左端の部屋だけが1階と2階に分かれた一般的なアパートの形態という不思議な作りになっている。
入居者を全て退去させてリフォームを行ったようで、自分が見学に行ったときにはすべての部屋が空き部屋となっていた。
室内は畳などが交換され、古びた外見とは裏腹に室内はそこそこ快適そうだった。
何よりメゾネット式、というのが面白い。最寄駅から20分ほど歩かなければならないが、家賃はどの部屋も4万6千円とお手頃である。
ということで一番右側のメゾネットの角部屋にすることに決めた。父の知り合いの不動産からの紹介ということで契約は父に任せた。
数日後、父から衝撃的な報告を受ける。
父がその後の手配をすっかり忘れていて、昨日慌てて不動産に連絡したらしい。が、そのメゾネットの部屋は別の入居者に取られてしまっていた。。。相変わらず何してくれてんねん!
残っているのは左側の何の変哲もない部屋だけである。それなりに長く暮らすであろう部屋の部屋選びなので、出来るだけ妥協をしたくない。
ただの平屋ならもっと他にマシな部屋があるので、父には違う所を探したいと伝えたが、不動産と何か握っていたのか、そこに住むべき、と強く説得された。
あの部屋に住みたかったんだよなぁ、と言う思いを毎日抱きながら暮らさねばならない苦痛を分かっているのだろうか。釈然としない気持ちがくすぶったが、一方で一刻も早く実家を早く出たい、という思いもあったので結局その部屋に決めてしまった。
間取りは6畳間が2つとキッチン、風呂、トイレ。恐らく築30年くらい。ザ・昭和のアパートである。リフォーム済とはいえ、水回りには手を加えられていなかったので、風呂はバランサー釜、トイレは和式。給湯もなく、キッチンには瞬間湯沸かし器が取り付けられていた。まぁ、平たくいえばボロアパートである。
メゾネットタイプという物珍しさがあればこそ、ボロアパートとか、駅から遠いとかのデメリットを補って有り余るメリットが享受できるのだが、この部屋は平凡でボロくて駅から遠い、いいことなしの部屋である。
強いていい所を挙げるとしたら、角部屋で三方に窓があり開放的だったこと、和室の一つには縁側がついていて実質的に7.5畳として使えたこと、部屋が広めなので、友達を呼んでワイワイやるのには丁度いいサイズの家だったこと、あたりだろうか。。。
自分が高校生の頃から父が経営していた川越のスナックが少し前に店じまいとなった。で、この家の最寄り駅の近所に新たに居抜きの店舗を借りて再起を図ることになった。
父は昔からカラオケが大好きで、店にもカラオケを設置していた(そしてもちろん件の採点機も)。ただしレーザーカラオケだったので、最近の曲はあまり入っていなかった。
新たに開業した店にもカラオケが設置された。しかも、今度は最新の通信カラオケだそうだ。それは使いたい。
父と交渉したところ、閉店後なら使ってよいと許可をもらった。
友達を呼んで家でワイワイやったあと、店のスタッフが帰宅する25時過ぎを狙って自転車にまたがる。各々コンビニで飲み物や菓子を買い込んで店にむかい、あとは朝まで夜通しカラオケ。接待じゃないから好きな歌が歌えるし、歌いなれない曲の練習をするのも自由。親の店だから無料。
カラオケが終わったら、黄色い太陽に目を細めながらガラガラの喉で自宅に戻り、めいめい好きなところで死んだように眠る。そして起きた順に解散。実に楽しかった。