[読み物-03] 住まいで振り返る半生記【31】

部屋番号19 - 東京都調布市某所(その1)

狭いアパートでの父との共同生活は早々に行き詰まり(息詰まり)、今後どうするつもりなのか改めて確認したところ、父の決意は固くもう2度と実家には戻らない、ということだった。

今の部屋は1Kなので、2人で暮らすにはプライバシーもへったくれもなく、身内とはいえ流石に息がつまる。一時的な秘匿ならそれまでの辛抱と我慢を続けるつもりだったが、もし父が本気で居座るのだとしたら、このままこの部屋に暮らし続けるのは無理だ。

というわけで、折角手に入れた自分にとっての理想の地を手放すことには後ろ髪惹かれる思いもあったが、最低限2部屋以上ある部屋に引っ越すことを決意した。


2部屋ある家に引っ越そうと思ったら、この近辺で今と同じ家賃で、という訳にはいかない。父の手持ち資金はゼロなので、自分がどうにかするしかない。さしあたって色々切り詰めれば今の家賃にもう少し上乗せできそうではあったが、あまりギリギリな生活を続けていたら破綻のリスクが上がってしまう。

父と相談し、まず父から譲り受けた車を売却し、軽自動車に買い替えてコストダウンを図ると同時に手持ち資金を増やす事にした。また、父の方でも、もう少し回復したらアルバイトなどをやっていくらか協力したい、といっている。であればそれも多少は考慮してもよいか。

本当に働ける状態になるかは未知数だったが、仮に働けなかったとしても、極限まで切り詰めればどうにか支払えるだろう、という線で、上限を10万円に設定した。

もちろん、そうなったらもはやじり貧だが、いくら父が固い決意でことに臨んでいると言っても、これまでの経験上どこかのタイミングで再び実家に戻る、と言い出しそうな気もする。もしそうなったらまた家賃の安い部屋に引っ越せば破綻することはないだろう、と言う風にも考えていたからというのもある。


で、新しい部屋を探すことにしたわけだが、できるだけ烏山から離れたくないという思いがあったので、まず烏山近辺の不動産からあたった。だが、この辺で10万円以内で2部屋以上あるアパートといったら、日当たりが最悪とか、建物が極端に古いとか、駅からやたら遠いとか、我慢しなければならないことが多すぎる物件しか見つからなかった。


やっぱり烏山にこだわるのは無謀だったようだ。そこで今度は近隣の駅も含めて探してみた。京王線で千歳烏山駅の次の駅は仙川駅だ。仙川駅は調布市になる。23区外だし、各駅停車しか止まらない駅なのでお手頃物件が見つかることを期待したが、周辺に音大や女子大が点在しており、街の雰囲気がこじゃれている。そのせいか、相場的には烏山と大差ない感じだった。

さらにもう一駅行くと、つつじヶ丘駅である。千歳烏山の次に急行が停まる主要駅だ。
北口は甲州街道に面しており、ロータリーや商業施設などもあっていくらか発展しているが、反対の南口は駅を出ると果樹園に出迎えられるような駅である。その長閑さたるや新宿から20分そこそこの主要駅にはとても見えない。


つつじヶ丘まで来ると相場は幾分落ち着いた感じになり、手ごろな物件が複数見つかった。ただし、そういう物件があるのは南口側に限られる。まぁこの際、駅前の不便さは我慢するしかない。
南口を出て右手側、方角で言うと南西の方は住宅地として開けているのだが、左手側となる南東方向は、目抜き通りの品川通も行きどまりとなり、農家なども点在するなんとなく鄙びた印象の街並みとなっている。

条件に当てはまる物件は2DKがほとんどだったが、一軒だけ3DKの物件を見つけた。2部屋でも最低限プライバシーを保てるが、3部屋あれば、更に快適な暮らしが約束されよう。


当然、その物件は駅の南東側にある。家の周辺は鄙びているが、それ自体は別に気にならない。急行停車駅だから通勤も便利だし、新宿からの距離を考えたらこれより遠くへは行きたくない。ということで、その物件を契約することにした。
場所は、数年前に外環のトンネル工事で陥没騒ぎがあった場所のあたりである。

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もちろん築浅物件であるわけがない。多分築年数は30年くらい。RC造のアパートの2階の部屋である。築30年なので、設計は流石に古臭いがボロくはない。ここが木造のボロアパートだったら違う家を選ぶところだが、見た目は昭和の団地か社宅みたいな感じだった。
室内もそれに準じていて、お風呂はバランサー釜に逆戻り。トイレが和式じゃないだけましかw


父は1部屋あればよい、というので、北側の洋室が父の部屋となった。自分は南側の部屋を使わせてもらうことになった。
これでお互いのプライバシー確保はバッチリだ。

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家の周辺は農家を営んでいるか、あるいはかつて営んでいた地主さんが多く住んでおり、屋敷林のある家なども点在している。だが、そういう場所なので、駅までの道のりは昔の地割のままの入り組んだ暗くて細い路地を通らなければならなかった。男である自分でも夜道を歩くのは少々不気味に感じた。


駐車場は家の道向かいの駐車場を借りることが出来た。賃料は驚きの月8千円である。地主さんが余った土地に作ったような駐車場なので、商売っ気がない。これは有難かった。

自宅から30分程度で新宿に出られる場所にも関わらず、この長閑さはなんだ。だが元々埼玉の人間なせいか、案外この自然豊かな環境は住み心地が良かった。

Posted by gen_charly