[DigiItem-12] IBM Parm Top PC110 (初代:黒)
(Spec : [CPU]i486SX 33MHz / [HDD]なし(RAM Drive 4MB) / [MEM]4MB)
1997年購入:
職場の同僚がウルトラマンPC買ったんだー、と言って見せてくれたのがこのPCとの出会いだった。ノートパソコンをそのまま限界まで圧縮したようないでたちをしている。とても面白そうなPCだがその人曰くWindowsではなくDOSベースのPIMソフトを使っていると言っていた。
なので最初の印象は惹かれるけど手に入れたいほどでもないな、だった。だが調べてみると標準状態こそDOSかWindows3.1しか選択肢がないが、ある程度の増設を行うことでWindows95が動くPCであることを知った(IBM公式ではWindows95は非対応なのだが、ドライバ類を個別に入手することでインストールできるらしい)。
このちっこいPCでWindows95が動くのか。それはちょっと所有してみたい。
自分がこのPCを知ったのは1997年頃だったが、発売は1995年で既に中古品がそこそこ流通していた。上述のとおりこのPCは同僚が購入したDOSモデルと、Windows3.1がインストールされたモデルがあり、DOSモデルは内蔵フラッシュRAMにDOSとPIMがインストールされて、Windows3.1モデルはHDDが搭載されていた。
Windows3.1モデルはまだ中古でもそれなりの価格で手が出せないが、DOSモデルは意外にもあちこちで5万円以下で売られていた。5万円以下であれば衝動買いでも手が出せる。まぁ今時DOSが起動したところで大した使い道を見出すことはできないし、内蔵のPIMもあまり使い道がなさそうだったが、Windows95化は将来的な目標としてとりあえずDOSのモデルを購入した(我慢できなかったとも言うw)。
という訳で入手したPC110。同僚がウルトラマンPCと言っていたのは、ウルトラマンがCMキャラクターだったからだ。
写真だと大きさが分かりづらいと思うが、これ文庫本を少し大きくしたくらいのサイズしかない。紙の大きさで言えばハガキより一回り大きいくらいのサイズ感だ。そんなに小さいのに一般的なノートPCに搭載されているような機能は一切妥協せずに搭載されている。
開発者が限界にチャレンジした形跡がこの写真からでもありありと分かると思う。実際このサイズにそうした機能を詰め込むために、多くのデバイスが専用に開発されている。その点、割り切り設計だったLibrettoとはずいぶんと違う。
そうした様々な機能についてどこから語り始めればよいのか困ってしまうが、順を追って説明したい。
本体のカバーはジュラルミンが採用されていて、金属の質感が心地よい。重さは600g程度とノートPCの重さとしてはかなり軽量である。
本体に標準で装着されるポートについては、PCMCIAスロットが2スロットと、コンパクトフラッシュ(CF)スロットが1スロット、他にキーボード/マウス端子やヘッドフォンジャック、更にはモデムや赤外線ポート、なんなら受話器まで内蔵されており、本体のみで最低限の外部接続が可能となっている。といってもまぁ赤外線は殆ど使い道がないし、モデムはたかだか2.4Kbpsなので、せいぜいテキストベースのBBSに繋げるくらいが関の山であるが。
さらにドッキングステーションがオプションで用意されており、これを接続すればプリンタポートや外部モニタ、FDDなんかも使うことが出来る。
CFスロットは世界初の実装だそうだ。面白いのはここに挿したCFカードをブートドライブにすることが出来るようになっていたことだ。何が面白いのかというと、CFにOSをインストールすることでゼロスピンドル環境を構築することが可能なのだ。
標準仕様ではOSは内蔵フラッシュRAMドライブに格納されている。だから元々ゼロスピンドルではあるのだが、この領域は4MBしかなくWindowsを入れることが出来ない。そこで一般的にはPCMCIAスロットに装着するHDDを増設して、そこにWindowsをインストールして使うことになる。ところがPCMCIAスロット用のHDDはスロットを2つ消費してしまうので、元々2スロットしかないこのPCにそれを設置してしまうとそれ以外の拡張カード類が一切使えなくなってしまう。それではLibrettoと同じことになってしまう。
このPCのWindows3.1モデルはそのHDDが予め実装されている。購入状態でWindowsが使えることは魅力だが、高いお金を出して拡張性が犠牲になってしまっては元も子もない。
そこでCFスロットである。ここをブートドライブに設定してOSをインストールすればPCMCIAスロットを一切消費することなくWindowsをインストールすることが可能となる。それにCFカードにインストールすることで自動的にゼロスピンドル環境となるメリットもある。小さなノートPCほどうっかりと落下させたりする危険がある。HDDならその時点でクラッシュする可能性もあるが、ゼロスピンドルであればその心配はいらない。まさに先見の明である。
ただし、肝心のCFカードは当時まだまだ高価なメディアだった。Windowsが動かせるほどのサイズとなると5万円近い価格でおいそれとは手が出せない。
というわけで当面はDOSのまま使わざるを得ない。で、その内蔵フラッシュRAMドライブにインストールされているPIMソフトというのはParsonawareというものだ。このツールはDOSベースでありながら結構頑張ってGUI環境を提供している。上の写真のとおりトラックポインタが搭載されていて、Parsonaware上でもマウスオペレーションをすることが可能。
キーボードは流石に小さいので、ブラインドタッチなど望むべくもないが、立ったまま操作できることを目標に開発されたらしく、本体を両手で持って親指で操作する前提の設計であるという。まぁ、このくらいの軽さなら両手で持ちながら作業しても大して疲れないだろう。画面が小さいのでラップトップで使ったら字が見えないっていうのもあるかもしれないが。
Parsonawareはメモやアドレス帳、FAX送信ツールやメールソフトなどがその機能だが、残念なことにすべて英語である。日本語だったらもっと使い道が有ったように思うのだが、英語しか入力できないとなると流石に使い道がない。
そのParsonawareで使うことが出来る面白い機能として、手書きパットと電話機能がある。
まず手書きパッド機能だが、キーボードとディスプレイの間にタッチパッドのような部分があるが、これが手書きパッドである。Parsonawareの手書きメモを起動しこの手書きパッドでなぞると、書いたものがそのまま画像ファイルとして格納できるようになっていたのだ。とりあえず思いついたものなどをさっと手書きして素早く保存できるというのは便利そうではあるが、まぁほとんど使わなかった。
このパッドはものとしてはタッチパッドと同じ物なのだが、IBMはWindows用のポインティングデバイスドライバを提供しなかったのでWindows上でタッチパッドとして使うことが出来ない。トラックポインタがあるからなくても別段不自由はないのだが、やはり物があるなら使いたい、ということで有志がドライバを作って公開しているらしい。
もうひとつ、このPCには受話器が内蔵されている。本体手前側にある丸い部品がそれだ。パソコン通信が出来るPCは星の数ほどあるが、電話機として使えるPCはこれ以外に聞いたことがない。
モデムに電話線を接続し、Parsonaware上のダイヤラーを使うことで電話をかけることが出来る。着信はPCの電源がOFFでも使える。丸いパーツは片方が受話器、もう片方がマイクになっている。どっちについていたかは忘れたが、この丸い所がスライドスイッチを兼用していて、それをスライドさせることでオンフック状態に切り替わるようになっている。
かなり出色の機能だが残念ながらダイヤラーが日本の回線網に対応しておらず国内では利用不可となっていた。夢のある機能だがまぁ現実的にはこのPCを耳に当てて電話をすること自体が絵面的に相当異質なので、使えたとしても使わなかったとは思う。
ちなみに上述のとおり受話機能はダイヤラーを経由せずとも使えるということなので、折角だから物は試しに通話にチャレンジしてみた。
PCにモジュラーケーブルを接続し、友達に頼んで電話をかけて貰った。かかってくるとピョロロロ・・・というしょぼいコール音が鳴った。フックをオンにして受話器を耳にするが、相手の声は殆ど聞き取れなかった。かすかに何か言っているのは分かったので機能が死んでいる訳ではないがスピーカーの音量が聞き取り不能なレベルで小さい。ボリュームの調整が出来ないのでどうすることもできない。またマイクのゲインもかなり低いらしく、こちらの声も相手に届かなかった。
まぁ、これは開発段階から実用性は度外視だったのかもしれない。もしかしたらダイヤラーを起動した状態だったら音量調整が出来たかもしれないが、後で気づいたので試していない。
もっとも、日本においては電話回線を通信専用で引いている家やオフィスなんて殆どなかっただろうし、あってもその回線は相当特殊な用途で使われるものだと思うので、そんな回線に電話機を繋いで勝手に通話したらそれはそれで問題になりそうな気がする。なのでいずれにしても電話機能が一般化することはなかったような気もする。携帯も普及しちゃったしね。まぁこの小さなPCにその機能を奢ったことに意義があるのだ。
画面は小さい。640×480ドットのSTN液晶が採用されていた。当時の液晶は大きく分けてTFT液晶とDSTN液晶の2種類があった。
TFT液晶は発色や応答速度がよく、非常に見やすいものだったが高価だった。一方DSTN液晶はその反対で決して見やすいものではなかったが価格は安かった。なので比較的安価なPCではDSTN液晶が採用されることが多かった。
それでもDSTN液晶はSTN液晶のスキャンを上下2分割することで高速化したものであり、このPCはSTN液晶なのでそれすらも実装されていない。そのせいで表示はとにかくショボかった。表示速度は遅いし発色もかなり悪い。ちょっとでも素早くポインタを動かすとすぐに見失ってしまうし、寒い時に電源を入れると画面が暗くなってしまう。PCが温まってくるとだんだんマシな感じになってくるのだが。
なのでお世辞にも褒められたスペックではないが、価格との見合いを考えたらこれが背一杯だったのだろう。まぁ、このPCだからしょうがないかと我慢できるスペックである。
あともう一つ、面白い機能というか設計だが、このPCのバッテリはPanasonicのビデオカメラ用のバッテリと共通の設計になっていて、カメラ用バッテリがそのまま使えるようになっていた。
カメラ用のバッテリは一般的な家電量販店ならどこでも取り扱いがあるし、よく出るものなので価格も安い。予備のバッテリを複数用意して予め充電した状態で持ち歩けば、バッテリ切れに直面してもすぐに入れ替えて使うことが出来るようになっていた。本当によく考えられている。
よく考えられていると言えば、このバッテリーケースのフタ部分にはスピーカーが内蔵されてた。とにかく小さいPCなのでこうした細かいところまで活用しきる設計になっていた。
さて、上述のとおり自分はこのPCをWindows95が動くPCに仕立てるために購入したのだが、CFのメディアの入手もそうだが、メモリも4MBしか搭載されていなかったので、少なくとも8MBまで増設しなければならない。だが、そのメモリもこのPC専用の特別品になっているのでまぁ高い。なかなか気軽に買えるものではなく、結局暫く買ったままで使わざるを得なかった。
そうこうするうちにひょんなことからもう1台入手することになった。結局Windows95化はそっちのPCで実施することになったので、その時点でこのPCは予備機となった。暫く店晒しになっていたが知り合いから使っていないなら欲しいと言われたことがきっかけで手放してしまった。
Windows95化の話は2号機のエントリの方で。