[Inst-17] Atelier Z 5弦ベース

19990627_102232

当時、自分がお付き合いをしていた女性は、自分と同じフュージョンファンでありベーシストだった。とはいっても彼女はミーハーの粋を出なかったので、目が欲しくなって入手したは良いものの、結局使いこなせずに眠らせてしまうということが多い人だった。

ある日、新宿の楽器屋でアトリエZのベースをセミオーダーしてきたことを知らされた。セミオーダーということは、材の種類やパーツの種類をひとつひとつ指定したということである。まだあまり楽器に対する知識がなかった自分は、その話を聞いてそんなことができるなんて凄いなと思った。

 

ところが、暫くして完成品を店に受け取りに行った際に店員と揉めてしまった。重量を軽くしたいのでそれに合わせた材を選んでほしいとオーダーしたのに、できあがったものが想定以上に重かったというのだ。そのうえボディとヘッドの色合いが微妙に異なっていて、それも気に食わなかったらしい。

楽器が重たいのはアトリエZの特徴で、その中では比較的軽量な材を選んだのだと店員は言い訳したが、彼女的にはこんなに重くては持ち運べないし、肩から提げて演奏もできない。それでは注文した意味がないので受け取れないと主張したのだが、結局すったもんだの末、値引きを条件に矛を収めて持ち帰ってきたのだった。

重たい楽器を作っているメーカーだって分かっているのだから、始めから軽さをウリにしているメーカーにオーダーすればよかったのにと思わなくもないが、そもそもミーハーなので、端からアトリエ一択だったらしい。世の中ままならぬものである。

 

というわけで彼女の家にやってきた楽器なのだが、どうやったって気にいらないものに愛着を持つことができず、弾こうという気になれないといって、ほとんどギグケースにしまわれたままとなってしまった。彼女は車を持っていないので重くて持ち歩けないと言って、スタジオに持っていくこともほとんどなかった。

自分はそんな話をなんだかもったいないなぁと思いながら聞いていた。楽器自体は定評のあるメーカーのものなので作りがしっかりしている。そんな楽器をしまったままにしておくなんて宝の持ち腐れといわずになんという。一度楽器を借りてスタジオに持ち込んで弾いてみたことがあったのだが、これが自分が所有しているJJ-5とは全く違うサウンドで、芯がしっかりとした、いかにもボトムを支えますという存在感のある音が鳴った。この楽器はアクティブサーキットにバルトリーニのXTCTが搭載されており、そのあたりが違いの理由ではないかと思う。

そのうえ、ネックとボディの結合部分の形状が、自分の指に妙によく馴染んだ。スラップ奏法の際のプリングが空振らないのだ。まるで自分の腕が上達したのではないかと錯覚するような弾きやすさだ。見た目は似たようなジャズベースなのに、楽器の構成や構造が違うとこうも音のキャラクターが変わるのかと衝撃を受けた。

ただし、重量は掛け値なしに重い。JJ-5よりも1、2キロは重いのではないだろうか。左の肩にかけたストラップからずっしりとした重さが伝わってくる。男の自分でも長時間立奏するには体力作りが必要だなと思うくらいに重かったので、確かに彼女の体力ではキツいだろうなと思った。いくら重いのが特徴のメーカーとはいえ、本当に彼女の要望をくみ取った構成で作ったのだろうか、彼女が疑うのも無理はない気がする。

彼女がこの楽器を引っ張り出すことは今後もほぼなさそうだ。でも見た目と重さに目をつぶれば素性は非常に良い楽器なので、ケースに眠らせておくのはもったいなさ過ぎる。使わないのなら自分がほしい。使っていないのだからタダで譲ってほしいのが本音だが、流石にそんなこと口が裂けても言えない。かといって手元のキャッシュが寂しいので、オーダー価格で買い取るよとも言えない。

この分だと恐らく近いうちに、彼女はこの楽器を下取りに出して手放すだろう。それをもったいないなぁと思いながら見届けるしかないのか・・・。ところが、自分のそんな秋波が彼女に伝わったのか、それから2年くらい経った頃に買わないかと打診を受けた。もちろんすぐさま購入を了承した。

こうして晴れて自分の楽器となり、以来、こんにちまで自分のメインのベースとなっている。

 

この楽器の面白いギミックのひとつにサーキットのバイパス機能がある。Bassのコントロールノブがプルスイッチになっていて、つまみを引き上げるとサーキットがバイパスされるのだ。もちろんバイパスしたらダイナミックなコントロールはできなくなるのだが、アクティブサーキットを経由しないので、いわゆるパッシヴベースと同等となり、それはそれでウォームなサウンドが得られる。

もちろん、アクティブサーキットの電池が急に切れたとしても演奏を続行できるというメリットもある。まぁそんな機会は滅多にないが。

かように自分的に最も気に入っている楽器ではあるのだが、ピックガードに「AtelierZ」のステッカーが貼られているのだけがイケてない。スラップをやりまくっていたらだんだん剥がれてみっともない感じになってしまった。なので今は綺麗に剥がしてある。流石にそこはプリントにするか、せっかくピックガードを貼ってあるのだからその下に貼ってくれたら良いのに。

 

それから20年ほど弦と電池の交換以外はほぼノーメンテナンスで使った。ネックの反りも少なく非常に安定して使えているのだが、流石にフレットがだいぶ削れてきた。

ぼちぼちフレットの打ち替えが必要かなと思っていたところ、島村楽器でフレットを削り直すサービスをやっていることを知り、一度預けて調整してもらった。その際に弦高を低めにしても音がビビらないようにと注文したら、実に素晴らしい仕上がりとなってさらに弾きやすくなった。

その際、ついでにいい加減曇っていたペグ一式も交換したので、見た目新品のように生まれ変わりますます愛着がわいたことはいうまでもない。

多分、この楽器は自分がベースを弾けなくなるまで一生使い続けるだろう。

Posted by gen_charly