[DigiItem-02] NEC PC-9801VX41
(Spec : [CPU]80286 10MHz + v30 8MHz / [HDD]20MB SASI / [MEM]640KB)
1992年入手:
中学生の頃、自宅の押入に父親がかつて使っていたパソコンがしまってあったが、パソコンは仕事の道具だと思っていたので、特に意識することもなかった。
ある日、友達が「パソコン買ったから見に来いよ」というので、お前みたいなやつがパソコンなんか買って何に使うんだよ?と思いながら遊びに行って見ると、パソコンでゲームを動かしていた。
パソコンでゲームが出来るのか。そんなこと知らなかった当時の自分にはそれはもう衝撃だった。と、同時に押入に眠っているアレでもゲームできるのかな?と気になってきた。
帰宅後に押入にしまってあったパソコンの形式をチェックしてみる。なんか茶色くて、友達の家の物とは似ても似つかないけど、一応PC-9801と書かれている。
お、じゃあ、同じ機種だから使えるじゃん、これ!ってことで、使ってみたくなった。とはいえ父親の持ち物だから、許可を取らなければならない。
「あの押入に入ってるパソコン、使ってなかったら貰ってもいい?」
と聞くと、
「そうだな、これからは情報化の時代だから、情報系の学科に進学したらくれてやる。」
と言われた。
すぐに使わせてくれなかったのはちょっとがっかりだったが、そういう学科に入れば貰えるというなら頑張って入学しちゃうぞ、僕。ということで、近所の情報処理学科のある高校に進学した。
パソコン欲しさに進路を決めるって、ちょっとどうかと思わないこともないが、まぁ、当時にしては賢明な判断だったと思う。
もちろん、当時はコンピュータは誰でも気軽に使えるものではなく、専門的なスキルが必要だったので、知っておけば役に立つだろう、という思いがあっての進学だったことは言うまでもない。
で、約束どおり進学したので、入学祝い?として譲り受けた。はやる気持ちを抑えながら押入から一式を引っ張り出す。
だが、出てきたセットは友達の家で見たそれとはなんか様子が違う。
そもそも、なんでこんなに日焼けしてるの??
友達の家で見せてもらった機種は、当時最新のRシリーズ(AかSかXかは覚えていない)。目の前にあるのはVX。PC9801はRシリーズ以降、全体的に丸みを帯びたデザインを採用し、色も明るい白に変更されたのだが、それを知らなかったから、日焼けしてみすぼらしくなってしまったのだと勘違いしたのだ。
まぁ、お下がりなのだから贅沢は言うまい。
それより、キーボードどこ?この平たい下敷きみたいなものは何?画面は・・・これ、テレビじゃない!?
父親に確認すると、どうもこのPCは専門業界向けにカスタマイズされたモデルだったらしく、一般的なパソコンと構成が違うというのだ。
もう少し詳しく書くと、カメラで撮影した画像をPCでキャプチャして、それを専用ボードでダウンスキャンさせてからTVに表示させる仕組みになっていた。TVに表示された画像はアプリによって、タブレットを使った編集加工が出来るようになっている。
このシステムは、美容室などに設置する用途で開発したものらしい。カットを始める前に撮影してタブレットで客が望む髪型を書き込んで、仕上がりイメージを確認してもらうための物だそうだ。出来栄えを確認してからカットに入れるので、切ったら似合わなかった、というトラブルを未然に防げるという触れ込みのマシンだったようだ。まぁ、家に転がっているということはあまり売れなかったんだろうな。。。
それはさておき、このままでは貰ったはいいけど何もできない。それを訴えたら、じゃあ無いものは買いに行くか、という話になった。とりあえず近所の量販店に行く。
モニターは様々なメーカーのものが販売されていたが、その中から選んだのはPC-KD854Nという物。
本家NECが販売していた14インチCRTだ。当時は、サードパーティというものがどういうものか知らなかったので、純正品にしておけば間違いない、と考えてのチョイスである。
当時、サードパーティ製なら、同じ価格帯で15インチのものが買えた。知らぬとはいえ、今考えれば惜しいことをしたものだ。。。
この店ではキーボードは売っていなかったので、秋葉原にあるNECのショールーム(BIT-INN)まで出かけたが、そこにも店頭在庫がなく取り寄せになると言われた。1か月くらい経ってやっと納品連絡が来て、キーボードも無事入手完了。
これで、動かすのに必要なものは一式揃った。
(まぁ、ソフトはまだ買っていないから、「コンピューター ソフトが無ければ ただの箱」な訳だがw)
ということでゲームを買いに行く。いや、プログラム言語とか、ワープロソフトからだろ?って話もあるが、そもそもゲームやりたかったのが動機なのだから、そんなの後回しであるw
買ってきたのはファルコムのソーサリアンというアクションRPGゲームだ。
なぜソーサリアンなのか、というと、当時ゲームミュージックがマイブームになっていて、近所のレンタル屋でゲームミュージックCDを片っ端から漁っていた。その中にソーサリアンのサウンドトラックがあったのだが、これが衝撃的だった。そのCDにはファミコンに代表される、いわゆるピコピコサウンドとは全くかけ離れた、映画音楽のような美しいサントラが収録されていた。
その音の出どころはもちろんパソコンである。パソコンならこんな美しいBGMを聞きながらゲームが出来るのか。折角パソコンを手に入れたのだから、その曲を直に聞いてみたい。そういう動機で買ったのだ。本当、どうかしてるぜ。
ということで、これで本当に一式揃った。早速、ソーサリアンの5インチFDをドライブにセットして、期待に胸を膨らませスイッチオン!「ピーポッ」という音が鳴り、立ち上げの儀式が終わるのを静かに待つ。FDをガッチャンガッチャンいわせながらゲームがロードされる。そしてあの美しく流麗な「SORCERIAN」のロゴが画面に表示された・・・のだが。
肝心の音が鳴らない。本体下部のボリュームつまみを回したら、ファミコンのピコピコサウンドのようなBGMが聞こえてきた。。。
えっ!えっ?まさかこのPCだとあのBGM流れないの!?
動揺しつつ、高校の同級生のPCに詳しいIに電話する。家に行って見ないと分からないというので、家に来てもらって色々見てもらう。
「お前のPC、サウンドボード入ってないぞ。」
さうんどぼーどってなに?という所から説明を受ける。なんでも、あの美しい音はFM音源というチップにより奏でられているらしい。そのチップを搭載したものがサウンドボードであり、VXの場合それを追加で付けないと音が出せない、というのだ。
まじかー。
どれを買えばいいのか聞くと、9801-26Kという型番の物を買えばよいと教えてくれた。それで雑誌を買ってきて値段を調べてみると、これがまた高いのなんのって。。。確か2万円前後だったはず。
表向き、父親にはゲームをやるため、という話は伏せてある(とは言っても感づいているとは思う)ので、サウンドボードを買ってくれとは言いづらい。さりとて自分の小遣いでおいそれと買えるような値段じゃない。どうしたものか。。。
その雑誌には9801-26Kに対応する互換ボードなるものがあると書かれている。そこで再び秋葉原まで足を運ぶ。なんか怪しいパーツ屋でそれっぽいものが売られていた。値段は2980円。6分の1である。本当にこんなもの買って大丈夫なの?と不安だったが、1人で来ているので誰にも相談が出来ない。秋葉原まで来るのにもそれなりに交通費がかかるので、そう何度も来られない。清水の舞台から飛び降りるような気持ちで購入してみた。
そして、見よう見まねで取り付ける。背面の拡張スロットにさしこんでねじ止めするだけなので取り付けは簡単。
そして起動・・・でねーよ!
騙されたと思っても後の祭り。藁にもすがる思いでIに電話する。再び家に来てもらって様子を見てもらうと、本体の前面についているディップスイッチのうち一か所を切り替えたら音が出た。
いわゆる2-5ってやつだが、ここでサウンド機能のON/OFFを設定しているらしい。ややこしいねん。
そこを切り替えたらようやく音が出た。出たのだが、サントラCDに入っている音とは似ても似つかぬ音しか聞こえない。。。
CDサントラはPC-8801のサウンドボードⅡの音で、26Kとは表現力が段違いなんだからそんなもんだろ?と事情を知っている人はいうかもしれない。
そういう意味合いの劣化じゃないのよ。いくら26Kがショボいと言っても、受話器越しに聞く保留音のような音が鳴る筈はない。互換品はこういう所が駄目だから安いのか。。。と暗澹たる気持ちにさせられる。
どこかに解決策がないかとマニュアルを再読すると、標準状態ではボード上のスピーカーから音を出す設定になっているが、付属のジャンパーケーブルで本体のコネクタに繋げれば本体スピーカーから音を出すことが出来る、と書かれていた。
それをやればちゃんと聞こえるようになるのかは分からなかったが、もう、ここまで来たら何でもやるぞ。
とはいってもジャンパーの配線は本体内の基盤に対して直接作業する必要がある。PCのケースなんか開けたことがないので、間違えずに配線できるか不安だったが、恐る恐るコネクタを探してケーブルを接続。
半ば憔悴したような気分で再び電源を入れる。と、聞こえたよ!とうとう聞こえた!あの音だー!
ありがとう互換品。さっきは互換品ごとき、とか言ってごめんな。
CDで聞いたあの流麗なサウンドに耳を傾けながらゲームを始めてみた。まぁ、後はわかるな。
ソーサリアンはめっちゃ難しいのだ。もう、ファミコンなんかとっくのとうに卒業した玄人好みのゲーマーが遊ぶようなゲームである。ドラクエすらろくにクリアできないような人間が、楽しめる訳がない。
困話休題。。。
さて、その互換音源ボードだが、サービス精神旺盛なことにシーケンスソフトまで同梱していた。起動してみると五線譜状の画面がでてきて、マウスでポチポチ入力していくようなアプリだった。適当なゲームの楽譜を見つけて打ち込んでみる訳だが、最大30小節までという制限付きだった。30小節ってお前。。。
せめて32小節(4小節*8)にしろよ。30小節では駅の発車ベルが途中で止まった時のようで心臓に悪い。まるで使い物にならない。
まぁ、プリセットの音色も何もいじられていない感じだし、細かいコントロールは一切できないので、頑張って打ち込んだ所でショボいものしかできない。おまけソフトに何を期待してるのか、ということなんだろうが、どうせコストかけて製作したんだから、もう少しマシなものつくりゃいいのにね。
ところで、前出のIにPCを見に来てもらった時に、こんなことを言われた。
「おお、すげー。このPCハードディスク(HDD)入ってるんだ。」
だから、HDDって何よ?wまぁ、そのくだりはいいやw
当時のHDDはめちゃくちゃ高価だったので、HDD内蔵モデルは殆ど出回っていなかった。
どのくらい高価と言うと、VXの標準モデル(VX0)が353,000円であるのに対し、HDD搭載モデル(つまりこれ=VX41)だと693,000円である。
ほぼ倍。。。
そんな高価なHDD、どんなもんが入っているのかと言うと、SASI規格、5.25インチ、20MBというものである。GBじゃなくMBである。20MBなんて使い道ねーじゃん、って感じだが、当時はこのHDDにWindows3.0がインストールされたモデルなんてのも発売されていた。これでも高速大容量だったのだ。
なぜか、このHDDはディップスイッチでOFFに設定されていた。だからIに指摘されるまでHDDモデルだということを知らなかったのだ。
なんで、わざわざついているモデル買ってOFFにして使っていたのだろうか。謎が深まる。
で、話を戻して。IにHDDってものの使い道を教えてもらう。なんでも対応しているゲームなんかをここにインストールしておくと、めちゃめちゃ高速で快適に使えるらしい。それならそれやって、とお願いする。なんか面倒くさそうな顔をしていたが、パソコンの先生ってそういうもんだよな?w
HDDにゲームを入れて貰い動かしてみると、確かにこの上なく快適。PCの古さが気にならなくなるレベルである。
・・・なのだが、何日かするとHDDが認識しなくなってしまう。ディップスイッチを一度OFFにして再びONに戻すと、何事もなかったかのように復活する。
まぁ、それで使えないこともないけど、そのうち何をやっても起動しなくなって、ゲームのセーブデータが消えてしまったら大いに困る。
なので、全力で活用することが出来なかった。
HDDの便利さを知ってしまった自分にとって、それが不安定であることが我慢ならなかった。それと通っていた高校が最新型の486CPUを搭載したHDDモデルを導入して、それがあまりに快適すぎた。いくらHDDが高速と言っても、i486と80286では比べ物にならない。
まぁ、周りであの輝く白さのRとかDとかFとかのシリーズを入手する人が増えてきたから、というのもあるが。
ということで、父親と交渉の末、新しいPCを買って貰えることになった。
その辺の話は、次のエントリに書くので、VXの話はこれでおしまい。