[Inst-05] Tender 4弦ベース

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高校生の頃にT-SQUAREという、日本を代表するフュージョンバンドの楽曲に出会い、自分の音楽観ががらりと変わった。特にベーシストの存在というものをちゃんと認識するようになった。

もちろん、それまでもバンドピースの中にベーシストがいる、ということくらいは知っていたが、ボーカルやギターの後ろ側でいるんだかいないんだか分からないくらいの存在感で佇んでいる楽器担当、くらいのイメージしかなかった。

ところがT-SQUAREの楽曲では、ベーシストがメロディを取ったり、アドリブをかましたりしている。ベースってそんなことが出来る楽器だったのか。


自分は人前で目立つことにちょっと気恥ずかしさがあって、いつも人の影に隠れているような性格の子供だったのだが、内心目立ちたい、という思いがない訳じゃなかった。そんな性格にフュージョンベーシスト、というポジションが妙にしっくり来たのだった。即ち、普段は目立たないし、バンドの顔にもならないが、ここぞという時に超絶プレイをかまして、観客の視線をくぎ付けにする。。。やってみたいそれ。という訳である。


そんなきっかけがあってベースギターが欲しくなり親にねだってみた。ベースがいくらで売られているものなのか知らなかったが、そんなに高いものじゃないのだろう、くらいに思っていた。

暫く親にねだっていたら、ようやく購入の許可が下りた。それで近所の楽器店に行ってみたら、このベースが23800円で売られていた。色は黒とサンバーストの木目の2種類あったが、迷わず黒を選んだ。というのはT-SQUAREを聞く前によく聞いていたBOOWYのベーシスト(松井常松氏)が弾いていたベースが黒だったからだ。

ちなみにT-SQUAREのベーシスト(須藤満氏)が弾いていたベースは真っ赤なボディだったが、流石にその店には取り揃えがなかった。まぁ、あっても赤は派手すぎると思っていたので、買わなかったと思うが。。。


手に入れて早速、既に入手済だったT-SQUAREのベストスコアから比較的簡単な曲(Omens Of Love とか Truth)を選んで練習してみた。それらは8ビートの曲でベースパートはひたすら8分でリズムキープに徹する曲なので、憧れていたベーシストが目立つ曲ではなかったが、しょっぱなからベースソロのある曲など弾ける訳がない。

なんでか忘れたが、弦楽器はタブ譜という譜面を読めば簡単に弾くことが出来る、というのは知っていたので、必死にタブ譜を追って覚えて、ほどなくそれなりに弾けるようになった。そしたらもう楽しくてしょうがない。それから難易度の高い曲(Rainy Day,Rainy HeartとかBad Moon)もチャレンジしてみた。よくあんな曲やってみようと思ったよな。。。


T-SQUAREの楽曲を聞いて、ベーシストの奏法の一つにスラップ奏法(当時はチョッパー奏法と言ってたな)というのがあることを知った。
スラップ奏法とは、親指で弦のネックの根元辺りをはたいて音を出す奏法で、これは初心者にはなかなか綺麗に音が出せない、と言われている奏法だったのだが、何故か自分がやってみたらあっさりと音が出せた。

それで、自分向いているんじゃないか?とその気になってしまい、以来、今日に至るまでベースとは長いお付き合いだ。


さて、楽器の話の戻ろう。
何も知らない当時の自分は、2万円以上という大金をはたいて買って貰ったこのベースを結構な高級品だと思っていたのだが、後に単なる入門用の安物ベースだったことを知る。

入門用ベースとはどういうものか。中国や韓国で安価に製造されたものが殆どだったが、安い材が使われていたり、安いパーツで構成されていたりと、とにかく安く作られた楽器である。当時パンクバンドなんかで、ライブ演奏中にベースを叩き壊すパフォーマンスをするために買われていた、なんて話も聞く。

ここ最近は入門用といって売られているような物でも、意外にしっかりとした造りの物が増えてきているが、当時、入門用とされていた楽器というのはそれはそれは粗悪な楽器が氾濫していた。


自分が買ったベースは何となく見た目でフェンダーのベースだと思っていた。フェンダーというのがメーカーなのか、楽器の種類なのかすらよく知らなかったが、楽器にそう書いてあるからそういうやつなんだろう、くらいの感じで。

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だが、よく見てくれ。変な向きの写真で恐縮だが。
Fenderじゃない。Tenderだ。確かボディ裏に Made in Korea って書いてあったな。そうか優しいのか。お財布に?

筆記体のFの横棒を一本抜くとTになり、Tenderというのもまた英単語として存在する。うまいじゃねぇか、と膝を打ってしまった。
まぁ、とにかくパチ物ベースだということに気が付いたのは購入して数年経ってからだった。

とは言ってもどうせ気軽に買えるもでもないし、音はちゃんと出るんだから別にいいや、という感じで結構長いことこの楽器を使い続けていた。だが、ある頃から何となく弾きづらいなと思うようになってきた。弦をはたくときにかなり強めにはたかないと音が出ないのだ。

なんでだろう?と思いながらもそのまま弾いていたのだが、ある時、楽器に詳しい同級生にそのことを話したら、それ、ネック反ってんじゃないの?と言われた。


ネック?反ってるってどういうこと?
当時の自分はそんなことすら知らない人間だった。まぁそれはいいとして、反ってるのはどうやって直すの?とそいつに聞くと、ロッドってのがあるからそれを回したら直るよ、と教えてくれた。

で、自宅でそのロッドとやらを探すがどこにもない。埒が明かないので、後日そいつに楽器を見せたら、あれ、このベース、ロッド入ってねーぞ、と言われた。

入ってないってどういうこと?入ってないとどうなっちゃうの?と矢継ぎ早に聞くと、知らん。もう直せないんじゃないの?とそっけなく言われてしまった。そんな安い楽器買ってんじゃねーよ、とでも言いたげだった。


結局、どうにもならないままそれを使い続けていた。まぁ、筋トレにはなったかもしれないw
晩年は1弦がしょっちゅう切れるようになった。ギターじゃないんだから。。。どうも、ネックが反っているせいで、弦のボールエンドの部分に不自然な力がかかっているようだった。

それから数年後、社会人になって自分で稼げるようになったので、新しい楽器を買うことにした。憧れの5弦ベースである。まぁ、それはまた追々。


自分が初めて手にしたベースはかように粗悪品の域を出ないものだったが、それでも初めて手にしたものだったから結構弾き込んだ。
そんな訳で思い出に残る一品ではあったのだが、何年かして知人に貸したらそのまま戻ってこなかった。なので既に手元には無くなってしまったが、思い出深い楽器であった。

Posted by gen_charly