[読み物-03] 住まいで振り返る半生記【6】
部屋番号08 - 東京都中野区某所(その2)
この家で暮らしていた当時の忘れがたい思い出として、ファミコン事件というのがあった。
当時我が家ではTVゲームが禁止されていた。仕方ないので、友達の家で遊ばせてもらったりするのだが、やり慣れていないからすぐ自分の番が終わってしまう。つまらんな、と思っていた矢先、ひょんなことで仲良くなった一つ上の先輩からファミコンを貸してもらえることになった。
そりゃもう、面白くて面白くて。でも親に禁止されている以上、それを見つかるわけにはいかない。いつも以上に慎重な運用を心がけていたつもりだったが、ゲームに熱中していたら聞き耳がおろそかにならない訳がない。
ある日、いつもより早く帰宅した父に見つかってしまい、鉄拳制裁の末、その本体を取り上げられてしまった。
懲らしめようという思いがあったのか知らないが、借りものだから返して、という自分の願いはなかなか聞き入れてもらえなかった。どこかに隠しているのだろうと家じゅうくまなく探したが、父が隠していたエロ本は見つかっても、肝心のファミコンは見つからない。多分職場に持って行って同僚と遊んでいるのだろう。。。参ったなー。
そうこうするうちに2週間が過ぎ、その先輩から返却を催促され始める。何度となく父に懇願するが相変わらず聞く耳を持ってくれない。先輩からはしきりに催促され、だんだんいじめにも似た仕打ちを受けるようになる。懲りる懲りないの話じゃなくなってきてしまった。
丁度その頃、テレビで長渕剛が主人公の「親子ゲーム」というドラマが放映されていた。子役の麻理男は複雑な家庭環境によって心を閉ざしてしまった少年であり、同級生からもからかいの対象となっていた。そんな姿に自分を重ねてしまい、欠かさず見ていた。その流れで長渕剛のファンになってしまったのだが、それをカミングアウトしたら、より一層変わったやつだと思われてしまった。。。
結局、取り上げられたファミコンが手元に返ってくるまで2か月を要した。すぐに返しに行ったが、受け取る時の先輩の蔑む目が未だに忘れられない。
しかし、TVゲーム禁止の約束を破ったことに対する制裁と、借り物を2か月に渡って取り上げることは別の話だと思う。今なら借りパクを疑われて相手の親が怒鳴り込んできてもおかしくない。そう考えると実に罪作りな親である。。。
しょっぱなからよその学校の体操着を着てきて、勉強もスポーツもできないデブ。何なら借りパク未遂事件を起こす。。。
そんな問題児に誰がフレンドリーに接することが出来るだろうか。
もう、この頃にはひどいからかいの対象となっていて、リカバリはもはや不能な状況に陥っていた。学校に行きたくない・・・そんな思いが爆発する直前、転機が訪れた。
暫く前に体調を崩して入院していた祖母が退院することになったのだ。当時既に自分の足で歩行することが出来なくなっており、退院しても介助が必要な状態だったが、K林さんだけでは心もとないということで、自分に白羽の矢が立った。
大好きなおばあちゃんとはいえ、正直身の回りの世話をすることは乗り気ではなかった。
だが、父に対して不信感を抱いていたし、何より学校に行きたくなかった。坂戸に戻ってそれが改善するのかどうかなど分からなかったが、とにかく逃げ出したかったので、祖母の面倒を見る生活を選択した。
今考えると、ここで転校できたのはラッキーだったと思う。世の中にはそう易々と転校などできず、クラスメイトとの軋轢を抱えたまま、悶々としている子供も沢山いることだろう。自分がそういう境遇に追い込まれなかったのは幸せだったとしか言いようがない。