[読み物-03] 住まいで振り返る半生記【13】
部屋番号11 - 埼玉県川越市某所
というわけで、秋ごろ後妻の持ち家に引っ越した。
これまで数々の部屋に暮らしてきているが、意外なことに初めての一戸建て物件であった。が、初の一軒家生活は僅か3か月で幕を下ろした。
なので、その家の間取りがどんなだったかはほとんど覚えていない。住まいで振り返ってないが勘弁願いたい。
後妻が烈女である話は既にしたが、合わせて途轍もない潔癖症だった。
外から帰ってきたら、家に上がる前に玄関で服を脱げ、とか、手を洗うまで壁や家具を触るな、とか、人を汚物のように扱うので、団地で暮らしていた時以上に窮屈だった。こんなことなら再婚に同意しなければよかったとすら思ったが、後悔先に立たず。
まぁ、同意しようがしまいが、結局再婚していたのだと思うけれども。
後妻の職場は春日部にあった。元々そっちがホームグラウンドだったらしい。で、引っ越しもようやく落ち着いたころに、唐突に春日部に戻りたいと言い出した。
何言ってるんだこの人は。こちとらついひと月ほど前に越境通学の手続きをしたばかりである。ようやく新居からの通学にも慣れたところだ。
春日部に引っ越したら流石に越境通学できる距離ではないので、転校が不可避となってしまう。3年2学期のこの時期に転校なんて御免蒙りたい。
転校の問題も大きな問題だが、自分にとってそれよりはるかに重大なことがあった。それは進路である。時期的に自分の進路を決める時期に差し掛かっていた。
自分の進路選択はあまり高望みしたものではなかった。そもそも勉強があまり好きではなかったので、出来るだけ受験勉強をせずに入れるレベルの県立高校を第一志望にしていた。それから、万一の時の滑り止めとして、近隣の私立高校を併願しておき、更にそこも駄目だった時のセーフティネットとして地元の専門学校にも願書を出すという3段構えにするつもりでいた。
当然、このエリアで暮らし続ける前提なので、それらの学校は全て現住地の近辺にある。なので、春日部に引っ越したら通えない。
引っ越し話がもたらされたのは、私立の願書を提出して少ししたタイミングだった。その時点でもう願書受付がほぼほぼ締め切られていたので、もはや選び直すことが出来なかった。
すなわち、願書を取り下げるしか選択肢がないということであり、万一公立に合格しなければ、最終学歴中卒ということだ。
(まぁ、公立の2次募集が出ればそこに滑り込める可能性も少しはあるが。)
なので、その引っ越し話には猛反対した。だが、普段だったら自分の気持ちを汲み取ってフォローしてくれるはずの父が、今回は自分を説得する側に回ってしまい、孤立無援の状態になってしまった。
親に養ってもらっている立場上、それ以上の反論も出来ず、春日部への引っ越しが決まってしまった。
仕方なく、提出していた私立の願書は学校に話して取り下げてもらった。セーフティネットの専門学校は辛うじて通える場所にあったので、最後の砦として残しておくことにした。だが、その専門学校は答案用紙に名前を書けば合格する、という噂がまことしやかにささやかれるほどの底辺校で、一応、専門学校ではあったが、実質地元でどこにも入学できないようなレベルの連中が吹き溜まっているような学校だった。
滑り止めとはいえ、そんな学校に通う事態になったら、自分の高校ライフは確実に終わるし、下手すりゃ人生も終わる。なので、仮に公立が失敗しても行くつもりはなかった。
さて、残るは公立だ。公立の方はまだ願書締め切りまで少し猶予があったので、急遽春日部近辺の高校を探すことになった。
だが、自分に縁のない土地の高校を選ぶのは困難を極めた。何せ土地勘がないから学校の評判などがさっぱり分からず、偏差値の情報だけで判断しなければならないのだ。
でも、困難だとか言っていられない。どこかを選ばないと問答無用で中卒になってしまう。とにもかくにも決めなければならないが、偏差値だけで行きたい学校を決めるというのは存外に難しく、なかなか絞り切れなかった。それなのに締め切りはどんどん迫ってくる。
焦る。なんだこの無理ゲー。親どもは俺の人生なんかどうでもよいのかと思い悩む15の冬。。。
悲観しててもしょうがないので、必死に探した。どうにかここを受けようという高校を決めたその日、引っ越し話はなくなった。え?
気まぐれにしちゃあんまりじゃないですか?
親の世界の中では単にやーめた、という程度の話だろうが、自分は滑り止めを失って人生失敗のリスクが上がるという、笑いごとで済ませられない事態に陥っているのだ。この切羽詰まった気持ち、少しは斟酌してほしいのだが。
そんなわけで、結局元鞘に戻って当初の志望校を受験することになった。その学校は、当時の自分の学力で8割方は大丈夫という程度の学校だったし、学校の雰囲気も何となく知っている。なので、予定どおり受けられることになったのは安心材料ではあったが、それでも合格発表を確認するまでは不安で仕方なかった。落ちたらグレるぞ。
この一件で後妻は自分のアントラストリストの最上位にエントリされた。
自分がそんな災難と格闘しているとき、最初から私立一本だった妹はのんきなものだった。自分の中学の同級生と仲良くなって、時々部屋に招いていた。
もちろん潔癖症の後妻から、友達を家に上げることは一切禁止されている。なので外出している隙を見てこっそりと招き入れるのである。
年の瀬も迫ったある日、両親が泊まりで出かけるというので、ここぞとばかりにその友達を招いた。そして予想外に両親が帰宅する。逃がす間もなくバレる。後妻ブチ切れる。なぜか自分のせいにされる。妹はあっさり裏切る。大喧嘩になる。。。
第一ステージは自分vs後妻。父と再婚してからというもの、進路の件も含め振り回されっぱなしで、アラウンド反抗期ストレスを貯めまくっていた自分は大いに反発した。
父もそれは同様だったので、自分の肩を持つような援護射撃をしてくれている。するとやがて後妻の怒りの矛先が父に向く。
勝負は第二ステージへと移行し、対戦カードは父vs後妻。
だが、父も最後はブチ切れた。頭に血が上った父はこの家を出ると吐き捨て、もちろん、自分もそれについて行った。
この間3か月での出来事であった。