[読み物-03] 住まいで振り返る半生記【32】
部屋番号19 - 東京都調布市某所(その2)
そんな鄙びたエリアであるにもかかわらず、不思議と電話番号の市外局番が東京03であった。
通常、03から始まる番号を割り当てられるのは23区内だけで、市部に一歩でも入ると途端に04xになるのだが、隣の狛江市とこの周辺だけは世田谷区の電話局から電話線が引かれているので、例外的に03エリアの管轄になっていたのだ。
当時はADSL回線が世に登場し始めたころだった。それまで一般家庭からのインターネット接続は、アナログ回線かISDN回線からダイアルアップでプロバイダのアクセスポイントに接続するのが一般的だった。ところが、アナログ回線はモデムの上限値である56kbps(実際には20Kbps出れば御の字)、ISDN回線でも64kbps(2回線契約すれば128kbps)だったので、年々リッチ化するインターネットコンテンツを捌くのには力不足になりつつあったし、接続料金も電話回線への接続となることから、時間の従量制で、繋ぎっぱなしにしていると莫大な電話料金を請求された。
一応、そうしたユーザー向けのテレホーダイ、という時間限定の定額サービスもあるにはあったが、大抵の人はテレホーダイを契約しており、適用時間(通称、テレホタイム)に突入するや否や一斉に接続してくるので、アクセスポイントにはつながらないわ、繋がってもサーバーが遅くて全然快適じゃないわ、で実に不便だった。
光回線の一般家庭向けサービスも開始されてはいたが、接続料金が高価で庶民にはなかなか手が出ないものだった。
そこへきてADSLである。ADSLは、既存のアナログ回線を使ってブロードバンド接続を行う接続方式で、基本常時接続、かつ利用料も月額固定という夢のようなサービスである。全国のネットユーザーがこぞってADSLへの切り替えに走ったのは言うまでもない。
ただし、問題がない訳ではなかった。
ADSLは伝送損失が大きく、基地局からの距離が離れるほど通信速度が落ちるという弱点があった。プロバイダのプランには理論上の最大値が謳われているものの、実測値はそれを大幅に下回ってしまうケースも多かった。
一応、速度計測サイトという、住所を入力すると基地局からの距離と、距離を基にしたスループットの期待値を表示してくれるサイトなどもあったが、基地局から自宅までの回線がどのような線で引かれているかによっても、その伝送損失の度合いが変化するので、実際にどのくらいの速度でリンクアップされるかは引いてみないと分からなかった。
そういう訳で、サービス開始当初は様子見をしていた。03地域の飛び地となっているこのエリア、基地局は当然世田谷区内のどこかであり、この辺りがその辺縁となるわけだから、普通に考えてあまり高速での接続が期待出来なさそうだったからだ。
だが一方で、腐っても都内なんだからそこまで悲惨な結果にはならない気もする。いくら何でもISDNを下回ることはない筈だ。と言うことで申し込んでみることにした。
Yahoo!BBあたりはなぜかADSLモデムを街中で配布するという(配布してどうする?)意味不明なキャンペーンなども行っていたが、配布など行わなくても申し込み殺到で開通までの道のりは長かった。
2か月ほどかかったが無事開通。接続は3Mbps程度の速度が出ていた。これなら十分すぎるほど快適である。初めてのブロードバンドライフはこうして始まった。