[読み物-03] 住まいで振り返る半生記【17】

部屋番号13 - 埼玉県坂戸市某所(その2)

さて、父の仕事だが、数年前に海外との取引を模索した時期があったが、残念ながら軌道に乗せられなかった。後妻と再婚した前後くらいの時期にはその事業は終息していた。というか、海外で女遊びをしている気配に感づいた後妻が渡航厳禁を言い渡した、と言う話も聞いた気がする。
それはさておき、いよいよすべての事業ドメインが尻すぼみでもう後がない。収入のアテがないのだから、家計はじり貧だ。だが、その割にそれほどみじめな暮らしにはならなかった。ではそのお金がどっから出てきたのかと言えば、もっぱら後妻の財産だったようだ。と言っても打ち出の小づちという訳でもなく、色々と唆してやっとそのおこぼれにあずかる、と言う程度だったので、羽振りがいいという訳でもなかった。

それでもそれなりの支援はしてもらっていたようなので、本来であれば家を出るとか言える立場ではない気もするが、そこは昭和の。。以下略。


で、当時、ツテの紹介でカラオケ採点機なるものを設置する仕事を始めた。カラオケボックスに営業をかけ契約成立すると、その部屋にカラオケ採点機を設置する。1回100円入れると歌い終わった後採点してくれるものだが、まぁ、インチキマシンである。
1か月か2か月おきにそれぞれのボックスを回り、売り上げを回収する。売上のうち何割かを店舗の取り分として渡し、残りのさらに何割かを親会社に上納する。残りが我々の取り分である。
従業員も1名雇って、2名体制で販路を拡大していったが、この仕事も決して順調ではなかった。


設置した機械を1か月間ランニングさせて1部屋数百円から数千円程度。万を超えることは殆どなかった。まぁ、所詮インチキマシンだしね。

それをひと月かふた月に一度各店舗を回って回収する。回収なんて面倒なことせずに振り込んでもらえば?というのは今時の考え方かもしれない。その採点機には利用回数をカウントするカウンターが付いていなかったので、振り込みだと売り上げをちょろまかされ放題になってしまうのだ。
カウンターがあれば、普段は店舗側に振り込んでもらえば済む話で、まぁ、せいぜい1年に1回くらい答え合わせに行くだけで充分だと思うので、かなりのコストダウンに繋がるのだが、なんでそういう所を設計に盛り込まなかったのだろうか。


ということで回収しに行くわけだが、販路を拡大すれば拡大するほどその回収にかかるコストが増大する、というアンビバレンツな状況に陥る。都市近郊なら店も沢山あるので、複数店を回ればキャッチアップ出来るのだが、地方だと1日がかりで1件だけ、なんてケースもあって、さらにその店の売り上げが数千円しかなかったりすると完全に赤である。

でもそもそも大手の店でこんなものを導入してくれるわけがないので、営業は専ら個人経営狙いになり、そうなるとそのオーナーから知り合いにも紹介したいなんて話を貰うことがある。だが、そう言う店舗は大概地方にあったりする。付き合いという側面もあるので、断りづらかったのだろうと思うが、そういう所はまず採算が取れない。


それでも回収にはいかなければならない。人手が必要になるが、雇っている従業員だけでは回り切れない。もちろん回収のために人を新たに雇い入れる予算もないので、時々自分がバイトとして回収の手伝いに駆り出されていた。
店で売り上げ回収にかかる時間は1軒あたり30分程度、それを1日で4~5カ所回るような感じだ。
それぞれの店舗間はそこそこ距離があったりするので、1時間とか2時間とかかけて移動して次の店、と、そんな感じになる。自分はテイのいいドライブみたいなものなので気楽だったが、交通費や食事代がかかるので、回収しに行くだけで大赤字なんてことも多かったらしい。


ちなみにバイト代は1日回収を手伝って、回収した100円玉ふた掴み分だった。頑張って掴むと大体5000円くらいだったので、ぶっちゃけ割の良いバイトである。まぁ、身内特典みたいなものか。


大抵、店が閑散とする昼間を狙って訪問する。客が利用中の部屋へ回収のために乱入することを避けるためだ。
それでもたまに利用中の部屋がある。終わるまで待つわけにもいかないので、部屋に入って回収しなければならないのだが、これが気が重かった。
利用中の部屋に入って回収し始めたら客も盛り下がるし、入りの少なさを見られてしまうのが目に見えていたからだ。

Posted by gen_charly