[読み物-03] 住まいで振り返る半生記【18】
部屋番号13 - 埼玉県坂戸市某所(その3)
その事業をしているころは都内に構えていた本社事務所は既に引き払っていて、自宅の一室を事務所にしていた。1階入ってすぐの洋室である。その隣が自分の部屋だった。
上の3D画像はその時の自分の部屋なのだが、隣の部屋との間が障子で仕切られているのが分かると思う。当たり前だが、これではプライベートもへったくれもない。向こうも仕事しづらかったんじゃないかと思う。
でも、雇われていた従業員のおじさんとは妙に気が合った。色々教えてくれる昔話は面白いし、昔DECにいたらしくPCにも精通している。何なら当時自分が聞き始めたフュージョンにも造詣があるといった具合で、すぐに意気投合した。
どういう事情かは知らないが、その人は定時で帰るということはあまりしない人で、遅くまで事務所にいることが多かったような印象である。半ば居候のような感じですらあった。
ある日両親が不在の間の留守番をそのおじさんに命じた。娘が夜ほっつき歩くので、外に出ないように見張って欲しいということだった。
従業員にそんなこと頼むか?普通。。。
で、どこへ行くつもりなのかは知らないが、夜になると妹が派手なメイクをして出かけようとする。おじさんは必死に止めるが聞く耳を持たない。持つわけがない。持つくらいなら初めから出かけない。
おじさんは「妹ちゃんが外に行くなら、俺は責任を取って会社辞める!」と啖呵を切ったのだが、アホな妹にそんな話が通用するわけがない。ガン無視で出かけて行ってしまった。
そのおじさんと近所を探し回るが見つからない。すなわちおじさんの退職確定である。いや、あれは勢いで言っただけだよね?自分と妹しか聞いていないんだから、言ってなかったことにしましょうよ。。。
程なく両親が帰宅。妹がいないのは自分の監督不行き届きのせいであるとしたうえで、責任を取って退職します、と言って頭を下げた。
冗談じゃなかったんですか?と問いかけるも、おじさんの意志は固く、もう取り下げるつもりはない、と言っていた。そして両親もなぜか引き止めなかった。
その日をもっておじさんは退職となった。折角話の合うおじさんだったのに何してくれてんねん。
まぁ、振り返ってみると、おじさんは話は面白いんだけど、成績は褒められたものではなかったらしい。そのことで父からどやされている姿を何度か見ている。父も腹に据えかねていたのかもしれないが、おじさんの方もやってられなかったんだろう。ぶっちゃけ妹のことは多分単なる口実に過ぎなかったような気がする。
カラオケ採点機事業はその後も鳴かず飛ばずで結局うまくいかなかった。数年ほどでその事業も畳むことになった。
そんな父が次なる食い扶持としたのは、スナック経営だった。全くの異業種である。良くやろうと思ったよな。
川越にあるスナックの空き店舗を居抜きで借りてそこで店を開業した。ホステスを何人か雇い、なんならケバケバメイクの妹もバイトとして投入した。いいのかな。。。
だが、そのスナックも残念ながら軌道に乗らなかった。誰の紹介で始めているのか知らないが、掴まされるものがババばかりなのか、やり方が下手なのか。。。次の一手として、雇ったホステスをコンパニオンとして派遣する仕事も始めた。
その事務所が例によって自室の隣の部屋である。どこからどう見てもお水仕様のお姉さんが隣の部屋で仕事をしている。これは流石に嫌だったな。隣に誰かいれば屁もこけない。
この時期はパソコンと音楽に没頭していたので、それらにのめり込むことで、隣の部屋を意識から消していた。