パノラマエクスプレスアルプスに乗ってきた話【1】 (1990/01/05)

1990/01/05

JRには165系電車を改造したパノラマエクスプレスアルプスというやたら長い名前のジョイフルトレインがあった。この車両は小田急ロマンスカーや名鉄パノラマカーと同じような構造で、運転席を屋根上に移動して最前面を展望室とした列車だった。

前面展望が一番のウリだったが、列車内には個室やラウンジも設けられて、ゆったりと寛ぎながら鉄道の旅を楽しめる車両になっている(車庫に見学に行った時の話はこちら)。


いずれ乗ってみたいと思っていた列車のひとつなのだが、定期列車ではなかったので時刻表を見ては運行日を確認して、と何度か繰り返しているうちに乗車するチャンスが巡ってきた。それがこの日だった。

列車の立て付けとしては、全席グリーン席の急行列車ということになっている。前の日に切符を買いに行ったら、先頭車両「最寄り」の5番A席が取れた。意外と人気がないのか?

それはさておき、「最寄り」と括弧書きで表記したのは、一番最前部にある展望席は自由席になっていて、席を確保することができなかったためである。
展望席は譲り合っておかけくださいということだ。5番A席はその展望席に連なる通常の座席の一番前である。ここが前日に空いていることに違和感を感じたというわけだ。


この列車は新宿駅7:02発で、流石に坂戸の自宅からでは始発に乗ってもギリギリなので、この日は東京の父親の家に泊めてもらった。

早朝に家を出て駅に向かう。新春早々の朝6時台はまだ暗い。寒い中震えながら待っているとパノラマエクスプレスアルプスが入線してきた。
扉が開くなりすぐさま乗り込んで自席に着席。展望室を見るとまだ誰もいなかったので、そのまま展望席に移動した。混雑してきたら譲り合いになるかもしれないが、それまではここで前面展望を堪能したい。


列車は定刻に発車。チケットを取る時も乗車した時も思ったが、乗客はやっぱりそれほど多くない。考えてみたらまだ正月が明けたばかりである。しかも早朝。普通の人は家で炬燵に入ってテレビの正月特番を見ているか、近所のデパートあたりに新春初売りに出かけているかしているのだろう。

そもそもこの時期は山梨・長野方面への観光需要自体があまり多くない気がする。多少あったとしても列車の知名度が低いので、わざわざ乗りたいと考える自分のような奇特な人以外は、あずさやかいじに乗るはずだ。そう考えると宣伝不足というか、JRはこの列車で稼ごうという気がないのでは?と勘ぐってしまう。

だが視点を変えてみると、冬の早朝は一番空気の澄んでいる時間であり、最も景色がきれいなタイミングだ。すなわちこの列車の一番のウリであるパノラマビューを最大限に活かすことができる。それを狙って組まれたダイヤであるのなら、それはむしろ粋な計らいとも言える。


中野を過ぎたあたりでようやく日が昇ってきた。

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最前列からの展望はこのようなものだ。良いものでしょ?

自分が持ってきたカメラはズームなどの機能がない。あんまり頑張りすぎちゃうとシャッターチャンスを逃してしまうので、早めにシャッターを切った結果、やや遠い写真になってしまった。

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なので写真としてはちょい微妙な写真ばかりだ。やっぱり絶景は自らの目で楽しむべき・・・なんてことを言うつもりはないが、写真が微妙なのはご容赦願いたい。


列車は八王子を過ぎ、いよいよ関東山地へと分け入っていく。周囲の山々が迫り、列車は右に左に小刻みにカーブをしながら峠を目指す。
冬の朝の陽射しに恵まれていた風景も、山によって再び日陰になる。

その周辺でも何枚か写真を撮影しているのだが、このあたりでちょっとした不注意でフィルムケースの蓋が開いてしまい、写した写真が感光してしまった。。。

仕方ないので次のフィルムと差し替える。

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交換し終わったころには列車は関東山地を抜けて甲府盆地の縁に飛び出していた。再び日当たりが良くなり景色も明るくなってくる。

丁度そのタイミングで隣に1人の若者が座った。身なりは高校生くらいだろうか。他愛のない会話が始まる。

その流れで彼は持参してきた切符やグッズなどを披露して自慢話をし始めた。当時は人の自慢話を聞いても鼻持ちならないやつだ、などと思うこともなく、純粋に自分がまだ手に入れていないコレクションを持っているのが羨ましいなと思いながら聞いていた。

今回のお出かけで自分も、できれば記念切符とかそういうものを旅の記念に買っておきたいと思っているのだけど、予算に限りがあるので買うに買えないというようなことを話したら、彼は「You、買っちゃいなよ」みたいなことを言った。

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いやだからさと反論すると、旅はそうそう行けるものじゃないんだから悔いなくやった方がいいと諭された。足りなかったら俺が少しお金出してあげるよ、とまで言うではないか。

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まじで!世の中にそんなにいい人がいて良いのか?もちろん最初は丁重にお断りした。だが彼は、自信満々にまーかせて!と中指を立てた(立てていない)。

その頼りがいのある態度に、自分もそこまでいうならと気が大きくなってしまった。

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列車は長野の方(確か松本)まで行くのだが、自分は甲府駅で下車する予定だった。取り立てて甲府に用事があったわけではなく、単にチケットの金額との見合いだったような気がする。

彼にこの後の行動予定を聞くと、彼も甲府駅で降りてお土産を物色した後で、小海線に乗って小海駅まで行くつもりだという。

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小海線は日本で一番標高の高い場所を走る路線である。名前に海が付くのに、一番標高の高い所へ連れて行ってくれるというのも、山ばっかりなのに山梨みたいで面白い。せっかくなので自分も行ってみたいと思い、同行をしてよいか聞いてみると快く了承してくれた。


で、甲府駅で下車。彼は駅の土産物屋を散策するというが、自分は鉄道グッズは多少欲しいものがあるとはいえ、お土産には興味がなかったので一旦別行動となった。

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といっても街中に放り出されても行く所がない。暫くあてもなく街中を散策して時間つぶしをして駅に戻った。

Posted by gen_charly