パノラマエクスプレスアルプスに乗ってきた話【2】 (1990/01/05)
駅に戻ると、彼はお土産の物色が終わって待ち合わせ場所に佇んでいた。合流前に自分も記念入場券は購入した。
それから中央線で小淵沢駅まで行き、そこで小海線に乗り換え。
ぐんぐんと高度を稼いでいくキハ52に感動しながらローカル線の旅を堪能する。
途中、八ヶ岳が綺麗に見える場所があった。この写真はこの記事でも掲載させてもらった。
小海線は単線のローカル線なので、要所要所の駅で行き違いのため数分の停車時間がある。その都度駅の入場券を求めに走った。
そして、野辺山駅の手前にある鉄道最高地点の前を通過。最高地点は道路が近くを通っていて、山小屋風の喫茶店?がある。そこに「JR鉄道最高地点 標高一三七五米」と書かれた木柱が建っているのが列車からでもよく見えた。
もちろん野辺山駅でも入場券を買った。
ここまではこのうえなく楽しい旅行だった。だがなぜかこの辺りから彼の様子に変化が現れた。疲れているのか、受け答えが目に見えてぞんざいになっていった。ただ、その辺は空気の読めない自分、あまり気にせず話し続けていた。
それはさておき、ここまであちこち散財を続けていたので、自分の財布には既にあまりお金が残っていない。足りなくなったら彼が資金援助してくれるという話だったので、大舟に乗ったつもりで気前よく切符や入場券を購入しまくったからだ。気が大きくなりすぎて家に戻るためのお金まで手を付けてしまった。
これからもその調子でちょこちょこ切符を買い集めるには、いよいよ彼の懐をあてにしなければならない状況になってきた。ということでぼちぼちその話を切り出したら、
「きみねー、何でもかんでも人を頼ろうとしちゃだめだよ。最初はお金出してあげようかな、と思ったけど、ちょっと君には出せないな。」
と、急に善人面して正論をほざいた。なにおう!?
しまった、完全にハメられた。信用したのが大間違いだった。こいつ、絶対最初から援助する気なんかなかったんだ。。。むかっ腹が立ったが、こういうときに、お前話違うじゃん!と強気に出られないのが自分の弱いところ。反論らしい反論もできないまま黙らざるを得なかった。
さて、どうやって帰ろうか。。。
今いる場所からだと小諸駅に出て、それから高崎、小川町を経由して、東武線で自宅へ戻るコースが最短だが、計算すると小川町までの分しかお金がない。自分に人生最大のピンチが訪れた。こんなところで。
こうなったら奥の手を繰り出すしかないな。
車内に不穏な空気を漂わせたまま小海駅に到着。ここでは列車交換のため20分ほどの停車時間があった。
ヤツはここで下車し町を散策するつもりらしいが、こんな状況下で行動を共にする気には到底なれなかった。もちろんヤツも同じだろう。前述のとおり、自分はこの町に目的があって来たわけではないので、これといってやりたいこともない。
それよりも無事に家まで帰れるかがとにかく不安で、旅とか言っている場合ではなくなってしまった。もはや自宅に無事に戻れるかどうかのサバイバルゲームに突入していたのだ。
ヤツとは挨拶もせず別れ、改札で切符を買い直したらすぐ列車に戻って出発を待った。
そして、小諸駅で乗り換えて高崎駅を目指す。せっかく横軽越えを体験したというのにあまり記憶がない。
そして高崎駅に到着し、ここから八高線で小川町駅へ向かう。
で、小川町駅から地元の駅までどうやって帰るか。
ここからは大きな声じゃ言えないのでこそっと話すが、当時、小川町駅はJRと東武との連絡通路に改札がなかった。つまり無札乗車が可能だったのだ。
しれっと東武線に乗り換えて地元の駅まで乗り、改札で駅員に切符を紛失してしまったと伝える。どこから乗ったのか?と聞かれ、隣の駅から乗ったと伝える。最低その一駅分は精算することになるとは思ったが、駅員はそのまま行っていいよと言って通してくれたので、どうにか無事帰還することができた。
それにしても、旅先で出会った人を容易に信用してはならないというのはこの時以来の教訓である。今もって旅先で見ず知らずの人と話すときはやや身構えてしまうのだが、カミさんはその辺おおらかなので簡単に人の話に乗ってしまう。それは見ていて不安でしかないのだが、それがきっかけで珍しい体験をしたりすることもままある。なのでそれ自体は決して悪いことばかりでもないとは思うのだが、その人が怪しい行動をしたらカミさんをすぐ引きはがせるよう、冷静に観察することだけは忘れないようにしている。
(おわり)