宮古島社員旅行【8】(2003/07/21)
下地島空港のタッチアンドゴー:
ダラダラと日陰の涼しさを堪能していると女子共はすぐに職場の愚痴を言い始める。適当に相槌なんかを打っていたら、、、
彼方からジェットエンジンの音が聞こえてきた。音のする方へ視線を送ると飛行機が徐々に高度を下げているのが見えた。それをずっと目で追っていると島へと着陸してそのまま飛び立っていった。
あれはタッチアンドゴーではないか!?
慌ててカメラを起動してやみくもに写したらどうにかこんな写真が撮れた。まさかこんな場所で眺めることになるとは。。。
事前に分かっていれば空港に行ったのに残念、、、なんて思いつつ飛び去って行く飛行機を追いかけていたら、その飛行機はほどなく向きを変えて元来た方向へ戻ってくのが見えた。
やがて再び機種を下げて着陸のような態勢を取り始めた。
お、タッチアンドゴーの練習って複数回やるのか!!
それならこの機会を見逃すわけにはいかない。慌てて一同に緊急事態発生の旨を伝えて急遽空港の方へ移動した。チラチラと目線を送って飛行機の姿を確認していると更に2度、3度とタッチアンドゴーを繰り返していた。
はやる気持ちを抑えて向かったのはあそこである。訓練が終わる前にどうにかたどり着きたい。
やっぱりここでしょ。
はたしてその場でカメラを構えて5分ほど待っていると、空の向こうから何回目かの着陸態勢に入った飛行機がこちらへ向かってくるのが見えた。
Good luck!!
ついに2日目にしてその瞬間をカメラに捉えることが出来た。予定変更して再訪してよかった。
願わくばこの後、着陸、滑走路を滑走、再離陸する写真も撮りたいところだったが、撮影したのはこの1枚のみ。しかも解像度はVGA。
デジカメのメモリが心もとなさ過ぎて残量の都合で1枚しか撮影する余裕がなかったのだ。。。
まぁ、雰囲気が分かる写真が撮れたから良しとしよう。
ちなみに帰宅後にネットをチェックしていたら、タッチアンドゴーのスケジュールが記載されたサイトを見つけた。これを最初に見てればもっと効率よく回れたのになぁ。。。
それはさておき、念願のタッチアンドゴーを写真に納めることが出来て大満足。次の観光スポットへと進むことに。
次に向かったのは黒浜御嶽。案の定一行のテンションは微妙な感じだったのでここはほどほどに、目の前の海岸に降りてみた。
ここもきれいなビーチである。
なんかやたらと小さな(1cm未満)の巻貝の貝殻が落ちている。東京湾辺りで目にするのは大概2枚貝ばかりなのでこんな小さくても巻貝の貝殻というだけでテンションが上がる。
めいめい落ちている貝殻集めに精を出していたらお腹が空いてきた。気が付けば昼を回っている。ということでこの辺でお昼に。
向かったのは伊良部集落にあるむつ美という食堂だ。
ガイドブックによるとこの店の主人は以前下地島空港の食堂で料理を作られていた方ということなので、味は期待できそうだ。
島の食堂は数は多くないがいくつかある。その中でこの店を選んだのは一番気軽に入りやすそうな雰囲気だったからだが、そういう気分を一行に悟られないように、いかにも最初からここへ来るつもりだったんだと言わんばかりの雰囲気を醸し出しながら暖簾をくぐった。見栄っ張りなものであるw
料理は島そばを選んだ。味は普通にうまかった。
フナウサギバナタにいたオジイ:
食事を済ませたらぼちぼち帰還に向けた集合のことを考えなければならない時間が近づいてきた。集合場所はホテルなので時間に間に合うように逆算するとぼちぼち船に乗らないとならない時間だ。船便の時間は14時台で残された時間はあと1時間ほど。
ということであと1か所ほど観光して帰ろう。最後に向かったのはフナウサギバナタ。
ここも昨日のエントリでは軽く触れるにとどめておいた場所である。
駐車場に車を停め展望台の方へ歩き出そうとしたその時、向こうの方から真っ黒に日焼けした小さいオジイがこちらに向かって歩いてきた。
なんか薄汚れたボロボロのシャツを着ていてただならぬ雰囲気を醸し出してる。
自分は無視してやり過ごそうと思っていたのだがカミさんがそのオジイに興味を示した。オジイは島訛りの強い言葉に何かしら言っている。聞き取れる範囲で聞いていると、
- あんたらはどこから来たの?
- オジイは昔東京の京浜東北線の沿線にいたことがある。
- 今はパッションフルーツを栽培している
- よかったら食べに来るか?
と言ったような感じのことを話していた。
話はともかくこのオジイ、さっきドブ川で水浴びでもしてきたの?というほど強烈な臭いを発していた。あまり風呂に入っていないのだろうか。パッションフルーツを頂きに行くのは面白そうだと思ったがどうにも臭いが受け付けない。。。
なので話はほどほどにあしらってその場を離れようと思ったのだが、やっぱりカミさんがみんなと顔を合わせて、行く?と小声で聞いてくる。
他の2人はどうしようか考えあぐねているようで、うーん、と言ったきり黙ってしまった。返事をしないと言うことはみんな行きたくないのだろう。自分もこのオジイについて行くのは嫌な予感しかしない。
オジイがパッションフルーツをふるまったあと、じゃあねと言って大人しく帰らせてくれる気がしないのだ。船の時間も迫っているので万一船に乗り遅れたら一大事である。
ということで、やめとこうと強く説得して諦めてもらった。オジイは残念そうな顔をしていたが、まぁ、しょうがない。
ということで改めてフナウサギバナタへ。
カタカナで書くとどこの言葉だか分からなくなりそうだが、フナウサギとは「船を見送る」、バナタは「崖」を意味する宮古方言だそうで、兎は無関係。
また古くは島の木材をここから海に落として帆船に乗せて運んだことから、木(き)ーうるすバナタ(「木を降ろす崖」と言う意味?)という別名もあると解説に書かれていた。
後ろ姿だけで恐縮だが、この広場には町の鳥に指定されているサシバという鳥をモチーフにした展望台があった。
さて、ここで少し方言の話をさせてくれ。サバ沖井戸の所でも少し触れているが沖縄県の方言は島言葉(すまくとぅば)と呼ばれ、本土の人がこれらの言葉に触れても殆ど意味が理解できないほどの独特な言い回しをする。
そんな島言葉を島言葉たらしめている特徴の一つに母音の少なさがある。島言葉の母音は基本的に「あ、い、う」の3音しかない。ただし本土から伝わった言葉も多く、そうした言葉は島言葉に置き換えられる際に「え」は「い」に、「お」は「う」にそれぞれ置き換えられて取り込まれた(現代では標準語そのままの発音もなされている)。
例えば、きーうるすバナタの「うるす」は「おろす」が語源となる。
宮古島の方言であるミャークフツはさらに独特だ。なんと言っても特徴的なのが「ん」から始まる単語(例:「んみゃーち(いらっしゃい、の意)」)があったり、「す」や「き」や「り」に鼻濁音が付いたりする発音があったりするのだ。
「す」とか「き」とか「り」に鼻濁音(「ぱ」のように丸が付く文字)なんて想像もつかない。どのように発音するのか。
前出の下地勇氏のアルバムを買うと、歌詞カードにこうした文字が描かれている。そして彼の歌でその発音を聞くことが出来る。
うまく表現できるか自信がないが、それによると「す゜」は「ズ」と「ツ」の間のような音(「ズ」の音がやや乾いた響きになる)、「き゜」は「クス」と「ツ」の間のような発音(英語のxを発音する時に似ている感じ?)、「り゜」は「イウ」と「イル」の中間のような発音になるらしい。
と言ってもそれが島の話者にどのくらい共通するものなのか、現地ではこうした表記を日常的に行っていたものなのかまではよく分かっていない。下地勇氏と会話する機会があったら聞いてみたいものである。
余談だが彼の曲はカラオケにも入っている。当然上記鼻濁音もテロップに表記しなければならないわけだが、元々日本語入力用の文字として登録されていないので、その表現に苦労している様子が画面から伝わってくる。そしてそれを歌って見せると、同席する人がみな目を丸くするのが面白い。島出身の人間でもないのにねw
ちなみに下地勇氏はネイティブに島言葉を話すことが出来る貴重な話者でもある。ぜひ聞いてみてほしい。
更に余談。自分は高校在学中に放送部に在籍していた。放送部に入ったからと言ってアナウンスや朗読がやりたかったわけではないのだが、部活動のメニューとしてはあったので発声練習なんかもやった。
で、その時に鼻濁音の練習として「か゜」、「き゜」、「く゜」、「け゜」、「こ゜」という発音練習をさせられている。
「か゜」の発音は「が」とは異なり、「nga(鼻にかける感じ)」のように発音する。こうして書くと耳慣れない発音のように思うが、実は多くの日本人は無意識にこれを使い分けているのだ。
例えば「がっこう」は「gakkou」と発音するが、「しょうがっこう」だったら「syou-ngakkou」のように「が」の音が少し鼻に抜けた感じなると思う。現在はこうした区別はだんだんと廃れてきているらしいのだが、自分が高校生の頃はこの辺の発音がアナウンスの世界では厳密に分けられているとかで練習させられたという次第。
自分、やらかす:
長々余談を続けてしまったのでこの辺で旅の話に戻りたい。とりあえずフナウサギバナダを見学して港に戻る。あと15分くらいで船の時間だ。だが港にフェリーが停まっていない。乗船待ちの車も見当たらない。まさか乗り遅れた!?
慌てて時刻表を再確認すると船の時間は間違っていなかったが、自分が乗ろうと思っていた便はカーフェリーではないことを見落としていた。
宮古島と伊良部島を結ぶフェリーはカーフェリーと人のみが乗船できるフェリーの2種類が運行されてたのだった。次のカーフェリーは、15:20。。。どう頑張っても集合に間に合わない。やべぇ。
女子3人を引き連れて集合に間に合わなかったなんて、いよいよ周りから何を言われるか分からない。
どうするか、、、頭をフル回転させて考える。
同行者に確認するとラッキーなことに全員荷物は全て車に積み込んでいてホテル置き忘れているものはないとのこと。だったら空港集合なら間に合いそうだ。
だとすればなんと言い訳して空港集合を申し出るか。しばし思案したあと幹事の携帯に電話。
「すみません。今、伊良部島に来ているんですが、こっちの島は風が強くて船が遅れてて。ホテルの集合時間までに戻れなくなってしまったので、空港に直接集合させてください。ホテルに荷物はありません。」
どうだ・・・嘘くさいか。。。?
いや言ったもん勝ちである。同行者にきっちりと口裏合わせをしておくことも忘れずに。
電話口の幹事は呆れていたが伊良部島の存在は良く知らないようで、空港集合は間に合わせてねと釘を刺されたが了承は貰うことが出来た。
ついでにレンタカー会社にも空港乗り捨て旨の連絡を入ておく。
よし、これで隠ぺい工作はバッチリである。とりあえず致命的な事態に陥らずに済みそうだ。
次の便まで小1時間ほど余裕が出来た。まだ咄嗟に考えたでたらめな良い訳に抜けがないか、とか次のカーフェリーが本当に時間どおりに出発してくれるのか、といった不安が拭いきれないままではあるが、どうせどうあがいてもここまで来たらなるようにしかならない。
ぼんやりしてても勿体ないので港の周辺を散策してみることにした。
港前の道にスーパーがあったので立ち寄ってアイスを買ったり、土産物屋らしき店に入って商品が殆ど置かれていなくて面食らったり。
みんなでワイワイやっていると案外気が紛れた。
そして時間どおりにカーフェリーは入港してきた。そそくさと乗り込み再び宮古島へ。そこから空港まで急いで向かって飛行機の離陸には無事間に合った。
あとがき:
なんだか最後はバタバタだったが、初めての社員旅行、無事に帰ってくることが出来た。
タッチアンドゴーが見れたのが一番の収穫。そして、島を観光する面白さに気づかされた旅だった。
今回本文中にミャークフツの蘊蓄を語ったが、実は訪問当時はそこまで島言葉に興味を持っていなかった。数年後沖縄を旅行した折に入ったレコード店で島言葉で歌う人のCDを買おうと思ったら、たまたま宮古の方言で歌うシンガーとして下地勇氏がレコメンドされていて、それを買ったことがきっかけでミャークフツに興味を持ったのだ。
つまり、もし社員旅行の行先が石垣島だったり久米島だったりしたら、氏のレコードを手にすることもなかったかもしれないし、方言にもそれほどハマらなかったかもしれない。
そう考えると自分にとってまたとない貴重な体験と気づきを得られる旅だったのだな、と思う。
(おわり)