南紀初日の出【１】（2004/12/31）
これまで旅行記エントリとしては公開していないが、社会人になって以来年末年始は毎年のようにどこかに出かけていて、自宅で新年を迎えるということが殆どなかった。と言っても行先は房総とか伊豆とか、某バンドの年越しライブとかそんな感じである。あまり遠出をしていないのは当時まだ運転が未熟で長距離運転にに不安があったからだ。
でも運転免許を取得して５年以上経ち、だいぶ慣れてきたので今年あたりはぼちぼち遠出をしてもいいかな、という気になっていた。房総や伊豆は行き飽きた。
ところが年末が近づき年末年始の天気予報が発表されると、どうも今年は太平洋沿岸を除き全国的に荒れ模様となる予報らしい。まだ雪道運転の経験が無いので雪の降るようなところはやめておいた方が良いだろう。そもそも雪の降っているようなところで車中泊なんかしたら凍死しかねないので少なくとも雪の心配の少ない太平洋沿岸のどこかを目指した方がよさそうだ。
伊豆や房総以外で雪の心配のない太平洋岸というと静岡から先のエリアになるが、静岡は遠出というには中途半端な気がするし関西以西だと遠すぎる。そこそこの達成感を味わえそうな場所は・・・と思いを巡らした結果、紀伊半島を一周してみようと思った。
紀伊半島は太平洋側でしかも割と温暖なエリアだから、雪の心配はまずなさそうだし降っても大雪になることはないだろう。
そんな話をカミさんに伝えると、カミさんも行ってみたいと乗ってきたので行先は決まり。
マイカーで初の関西方面への遠征であり色々思い出深い旅行だったが、当時はブログで公開することを考えていなかったので撮影した写真もブログ掲載を考慮していない酷い構図の写真ばかりだ。。。そして旅行から暫く時間が経過しているので記憶も所々曖昧になってきている。
なので情報が間違っているかもしれないが、思い出話としてお付き合いいただきたい。
刈谷ＰＡの観覧車：
2004/12/31
出発は大晦日。この年はカレンダーの並びがあまり良くなくて、３０日まで仕事をしたあと３１日からようやく年末年始休暇だった。にもかかわらず年始は１月５日。なので旅行は１月４日までの５日間とした。まぁ５日もあればのんびり周遊できるだろう。
出発前に天気を再確認したが南紀方面はまずまずの天気とのことだ。ただし途中の中部地区辺りでは山沿いを中心に降雪の予報が出ていた。まぁ海沿いにどんどん走っていくだけだから大丈夫とは思うが。。。
早朝に東京を出発し昼過ぎに名古屋を通過。１４時過ぎに刈谷ＰＡで休憩。
名古屋に近づくにつれて次第に厚い雲が漂い始め、刈谷ＰＡに近づく頃にはいつ降り始めてもおかしくなさそうな鉛色の空になっていた。
さて刈谷ＰＡといえば観覧車だ。自分はここへきて初めて知ったのだが。高速でＰＡが近づいてくるとその視界の先に大きな観覧車が見えた。最初は近隣に遊園地でもあるのかと思ったのだが、ＰＡに入ったら敷地内にあった。ＰＡに観覧車という組み合わせがなんともアンマッチで最初は何故？と思った。
これだけの大きな観覧車だったら周辺の景色が一望できそうだな、なんて思ったらちょっと乗ってみたくなった。カミさんに持ちかけたら珍しくＮｏと言わなかったので２人でゴンドラに乗り込んだ。ら、ゴンドラ内は極寒の地だった。
考えてみればゴンドラ１つ１つにエアコンなんか付いていないので、推して知るべしではあるのだが、硬いベンチは手を触れるのも躊躇うほど冷え切っていて、座ればケツにその冷たさが伝わってくる。なんか空いているなと思ったがそういうことだったか。
とにかくその寒さの印象が強くて肝心の風景についてはあまり憶えていない。折角乗ったのに。
四日市のナロー鉄道：
その後四日市まで進んで高速を降りた。理由は２つ。１つ目は沿岸部を走っているにもかかわらず、どうにも空模様が怪しくて降雪の不安が付きまとったので、念には念を入れてチェーンを入手しておこうと思ったからで、もう１つは近鉄のナローゲージ車両の写真を撮りに行こうと思ったからである。
チェーンはナビで検索して見つけた市内のカー用品店に見に行ったのだが、店員に訪ねたところインチアップしているホイールに合うチェーンは殆どなくてあっても高いのしかない、と言われた。純正サイズならお手頃価格で販売されているのだが、自分の車はホイールを付け替えていてインチアップしているので、店の在庫で装着できる物は４万円くらいする物しかなかった。流石に急場しのぎ用にそんなに出せない。
４万円出すくらいなら車を現地で乗り捨ててほとぼりが冷めたころに取りに戻った方が安い気がする。という訳で結局購入はしなかった。降らないにワンチャン賭けたい。
続いて近鉄のナローゲージ路線の写真を撮影しに行った。注釈もなくナローゲージという単語を出したが、ここで言うゲージとはレールの幅のことを指している。詳細は上のリンクが詳しいので参照願いたいが日本の鉄道はレールの幅にいくつか種類がある。新幹線などと同じ幅を標準軌といい、それよりも狭い幅の線路は狭軌と呼んでいる。その中でも特に７６２ｍｍ以下のレール幅の線路を指してナローゲージ（特殊狭軌）と称する。
ナローゲージを採用した路線は軽便鉄道とも称される。通常の鉄道路線とは別の法律（軽便鉄道法）に準拠していたためそう呼んで区別しているのだが、通常の鉄道と比較して簡便な設備で開業できたことから、道路網が未整備だった時代には全国津々浦々に軽便鉄道が開業した。だがやがて道路網が整備されるにつれてモータリゼーションが進展し、更には地域が過疎化し始めたことも相まって次第に不採算となる路線が相次いだ。不可逆的に進むそうした時代の流れに抗えず、昭和の末期までにこうした軽便鉄道路線はほぼ全国的に廃止されてしまった。
だが現在もナローゲージ路線は全国に３路線存在している。富山の黒部峡谷鉄道、三重の三岐鉄道北勢線、および近鉄内部（うつべ）・八王子線がそれだ。今回はこのうち近鉄内部・八王子線を見に行こうと思っている。
ちなみに三岐鉄道北勢線は元々近鉄の路線だった。こちらは２００３年に経営譲渡されて三岐鉄道の路線となった。
向かった先は日永という駅だった。この駅は内部・八王子線の分岐駅なので他の駅よりも列車の本数が期待出来そうだと考えての訪問である。
ということで、駅のホームでしばし待ってやってきた列車を何枚か撮影した。最初に来たのは従来の塗分けの編成だった。
画質が粗いうえ雑な構図の写真だが、当時はカミさんの手前鉄道マニアの本性を露骨に出すことに躊躇いがあり、携帯でこだわりなく撮影したせいである。
ただあまりに出来が酷かったことに我慢ならず、次にやってきた列車は持参したデジカメで撮影した。あくまでスナップレベルとしてだが、こちらはいくらかマシな写真になった。こちらの車両は新塗装だ。新塗装は車両単位では単色塗りだが、号車ごとに異なる色が採用されていて編成単位で見るとカラフルになっている。
車両のサイズが小さいのでサイドウィンドウの高さと扉の高さがちぐはぐになっている。そうしたところもナローっぽい。
近鉄はなかなかに懐の広い会社で、これまでこうしたローカル線を容易に切り捨てずにこれまで維持させてきていた。だが近年は不採算路線の整理について言及することが増えてきた。上述のとおり北勢線は既に三岐鉄道に譲渡済みである。内部・八王子線については現時点で廃止の意向は表明されていないが、予断を許さない状況が続いている。
そもそも他線に同様の規格の路線がないので車両の共通化が図れないうえ、他社にも類似の路線がないオンリーワン路線なので車両の融通も期待できない。つまり車両の維持更新にお金がかかる。鉄道の利用者を増やして収入を増やせばそうした更新費用も捻出できるが、利用者を増やすにはその路線が便利で使いやすい物でないとならない。当然設備のバリアフリー化や修繕、列車の高速化や高頻度運転などを行うにもお金がかかる。だが投資に対してリターンが期待できる見込みがないので積極的な投資がなされることはなく、古い車両を手直ししながら使い続けるしかない。つまり緩慢な死を待っているような状態だ。
ナローゲージ路線はそれ自体の希少性もさることながら、こじんまりとした車両を数両繋げてのんびりトコトコ走る姿は鄙びたローカルムードを大いに盛り上げてくれるまたとないコンテンツである。部外者としての無責任な発言であるのは承知のうえでこれからも出来る限り存続して欲しいと願う。
なお北勢線については三岐鉄道と言う中小私鉄への譲渡となったため、三岐鉄道の経営体力を考えると早々に廃線となってしまうのではないかと危惧されていたが、沿線自治体も三岐鉄道も存続に意欲的で路線の近代化や施設の更新を積極的に行い利便性の向上を図っている。利用客数も徐々に上向いているそうだ。良いニュースが少ないなかで嬉しいニュースである。
（２０２４年註：この内部・八王子線も後に経営分離が言及され、現在は第三セクターで設立された四日市あすなろう鉄道が経営を引き継いで経営が継続されている。）
廃墟な温泉：
ということで四日市でのイベントも終わり後は今日の寝床を探すのみ。この先南紀方面をドライブする訳だが、明日は元日なので初日の出を拝んで初詣に行こうと考えている。
この辺りで初詣といえば伊勢神宮か熊野那智大社あたりだろうか。そうなるとそこに近い海沿いの場所で仮眠すれば便利な気がする。
伊勢神宮も熊野那智大社もまだ行ったことがないのでどちらも捨てがたかったが、南紀を目指すにあたり伊勢神宮を経由すると遠回りになってしまうようなので今回は熊野那智大社にお参りに行くことにした。ということでその近くの初日の出遙拝スポットを探してみることに。
当時は外出先でネットに繋ぐことが難しかったので、地図はカーナビの物を見るしかないが、カーナビの地図は幾分デフォルメされたものになっているので、海沿いと行ってもそこが容易に浜に降りられるような場所なのかどうかはチェックしづらかった。
いい感じに東に向いていて付近に駐車場のある場所という条件でスクロールしていたら、勝浦町の紀伊勝浦駅近くの海岸がいい感じだったので、寝床と初日の出遙拝スポットはそこに決まった。
寝床へ向かう前にお風呂である。冬場の車中泊にあたり車内で温かく過ごすための対策はそれなりにしているが、それでも家に比べたら寒い環境での寝起きとなる。そうした環境で少しでも快適に過ごせるように温泉で体を温めておく必要がある。
で、どの風呂で体を温めるかというのもカーナビで探した。コンビニなんかでガイドブックを立ち読みするのもひとつの手だが車から降りるのが面倒くさい。こうした寒い日はカーナビで探すのが安楽だが情報はやや少なめ。
少ない情報の中から見つけたのがメトロヒルズ三重・嬉野温泉という温泉。なんか地下鉄の施設っぽい響きだけど三重県に地下鉄は走ってない筈。どんなところだろうかと車を走らせていくと、やがてナビが目的地近くに来ていることを報告した。だがその周囲は暗く、近くに温泉施設がありそうな雰囲気ではない。
見えるのは目の前にそびえる１０階建てくらいのビル。だがそのビルの窓は一切電気が灯っていない。ここ？廃業してしまったのだろうか？
ナビはその敷地に入って裏に回れと指示を出している。と言うことは建物の裏手にあるのか？
怪訝に思いつつ建物を回り込む。するとさっきの廃墟然としたビルの裏側にあるエントランスの付近だけ煌々と明かりが灯されていた。
なんなんだここは。
建物前の駐車場には車がそこそこ停まっている。なにやら活況を呈している風ではあるのだがどう見ても温泉施設と言う感じがない。煌々と明かりを灯す建物に施設名の表示もないのでそもそもここが何屋なのかも分からない。でも他に明かりが点いている場所がないんだよなぁ。。。
煌々としたエントランスとその背後の真っ暗な廃墟ビルのコントラストの差が凄くて、なんか変な夢を見ているようだ。
もしかしてナビの情報が古くて、ここは既に温泉施設ではなく無関係の人が立ち入ってはならない秘密の場所になってしまっているのではないだろうか。もしここが変な宗教施設やマフィアのアジトだったら、風呂道具片手に自動ドアをくぐったが最後もう２度と娑婆に戻って来られないかもしれない。。。割と本気でそんなことも考えた。
しばし車内で逡巡した後、意を決して車を降り煌々と光るエントランスをくぐってみた。ら、小奇麗なロビーがあった。中には思ったより沢山の人がいてその様子に上の廃墟との繋がりを感じさせるものは何もなかった。
やや緊張しながら受付で確認するとここは確かに温泉であるそうだ。やっぱりここなのか、と言うことで料金を払って浴室に。意外にもお風呂は非常に加減の良いお湯でしっかりと温まることが出来た。ただ、なんか終始狐かなんかに騙されている気がするような入浴体験だった。
あまりにヘンテコな温泉だったので帰宅後に調べてみたら、この施設は元々ゴルフ場に併設されたホテルだったらしい。後にゴルフ場の閉鎖に伴ってホテルも廃業、１Ｆの温泉施設だけは利用客も多かったので存続させたということだ。せめてどこかにそうと分かるように書いておいてくれたらあんな不安を感じずに済んだのに。。。
（２０２４年註：残念ながらこちらの施設は閉館してしまったそうだ）
と言うことで１年の締めくくりになんだかおかしな体験をする羽目になったが、おかげさまで今年１年の垢は無事洗い流すことができた。
ここから勝浦の海岸まではまだ遠かったがひたすら夜道を進んだ。
日付が変わった少し後ぐらいに目的地の駐車場に到着。既に年が明けてしまったので車内でカミさんと新年の挨拶を交わし、それから身の回りの人に適宜謹賀メールを送って就寝。