沖縄離島探訪【14】(2006/11/22)

久部良:


さてあとは夕暮れを待つばかり。だがまだ空は幾分の明るさを残しているので完全に日が暮れる前にもう少しだけ見ておこう。明るいうちに見ておきたいと言うのももちろんだが、車の返却時間が近づいてきたのでのんびりしていられないと言う理由もある。

島には主な集落が3つある。北岸に祖納、南岸に件のロケ地セットがあった比川、西岸に久部良(くぶら)の3つである。今からその久部良の港を見に行く。

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久部良はカジキマグロ漁で栄えた集落である。その港の漁協もDr.コトーのロケ地として使われている。こちらは現役で使用されている建物だが、こうして比較すると診療所建物の古ぼかしの手法がいかに絶妙かが分かると思う。

 

この集落の近くにはクブラバリ(久部良割)と呼ばれる岩場がある。そこには幅3m、深さ5mほどの地面の割れ目があるのだが、それにまつわる悲しい伝説がある。

かつて島が琉球王朝によって統治されていた頃、島民には人頭税と言う税が課せられていた。文字どおり1人あたりいくらと言う非常に乱暴な徴税で15歳になるとほぼ無条件に課せられた。その納税は作物によって行われるためそこに住む人の分だけ耕地が必要になる。だが島なので耕作に適する場所は限られており人が増えすぎると納税に支障をきたすという問題があった。

だがそこに人間がいる以上どうしたって子供が出来てしまう。そこで苦肉の策として編み出されたのが、妊婦を連れてきてこの割れ目を飛び越えさせることだった。体育の授業で走り幅跳びをやったことがある人ならわかると思うが3m飛びきるのは男子でもなかなか難しい。しかもあれは砂地に着地するだけだから足を前方に投げ出して着地後に尻もちをついても良い訳だが、崖でそれをやると間違いなく後頭部から転落する。それを身重な妊婦にやらせる訳だからその難易度は走り幅跳びの比ではない。飛びきれなければ5m下の奈落に真っ逆さま。打ち所が悪ければ命はない。九死に一生を得て母体は生き残れたとしてもお腹の赤ちゃんはまず無事と言う訳にはいかない。

また運よく反対側に飛びきることが出来たとしても、足場の悪い場所で綺麗に着地なんかできる訳もなくやはり大怪我や流産の危機をはらむ。
飛び越えられたら、などという条件を付けているがそもそも生かすつもりなどなかったのだろう。そんな無理ゲーのようなことが行われていたのだから妊婦にとっては恐怖の対象でしかない。赤ちゃんが死ぬか自分も死ぬか。そのストレスで流産をしてしまう人も少なくなかったという。

一方、島内には他にトゥング田の伝説と言うものもある。これは何の予告もなく鐘や太鼓を打ち鳴らして田んぼへの集合を命じるもので、時間内に集まれなかったものは殺されていったと言う伝説だ。老人や病弱な者など労働力にならない者を口減らしするための風習であったという。

 

いずれも文献などが残されておらずあくまで伝説の域を出ない話であるため、真偽のほどは定かではないのだが、伝説にしては話が具体的でありストーリーの筋が通っていることを考えると実際にあった話である可能性もある。と言っても年中やる意味はないので極限時に限ってやむなく行われたのではないだろうか。

ちなみにこうした残酷な風習にピリオドを打ったのが、前出のサンアイ・イソバであったとされる。

・・・となんだか見て来たかのような話しぶりで書いてしまったが、これはこたつ記事である。実は見に行っていない。漁港を見たあと程なく日が暮れてしまい、そのうえ一帯があまり整備されていないという話を聞いていたのでやむなく訪問を見送ったのだ。ここも次回訪問時の残課題だ。

 

民宿おもろ:


ということで島内観光は以上で終了。そのまま進んでいくとやがて島を一周して祖納の集落に戻って来る。我々が手配した宿は集落内にある民宿おもろという宿だ。オモロー!じゃないよ、と言ってももう知らない人も多いのかな。。。

古民家風のと言うか古民家そのものな外観の宿で、ここもまたネットでの評判が良かったので選んだ宿である。
(註:2020年に当時のオーナーが事業譲渡され、現在は旅の宿かふうと名称を変えて営業中であるとのこと)

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民宿然とした佇まいは飾り気がなく、穏やかな時間が流れているような雰囲気を醸し出している。
ちなみに宿名の「おもろ」というのは沖縄の古語で「思い」と言う意味らしい。宿に確認した訳ではないのでその意で合っているかは不明。

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入口の扉を開けるとまず食堂がある。居酒屋の様な小上がりになっていてテーブルが並んでいる。奥の壁にぶら下がっている白衣は、Dr.コトーのなりきりセットということだ。まぁ、白衣を着るだけだから科学者になってしまう可能性もなくはないが。。。

その食堂を中心に左に風呂や洗面所への通路、右が個室へ続く通路というちょっと珍しい作りになっている。珍しいと言っても沖縄古民家の一般的な作りを知らないのでこういう造りが一般的なのかもしれないが。

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女将に案内された部屋は6畳の和室。部屋はこれまた独特で三方を通路に囲まれていて、残るもう一方が隣室という造りだ。なので屋外に面した窓がない。一応障子の張られた小窓はあるのだが、それらはいずれも内廊下に面しているため開放が出来ない。開けると通路から室内が丸見えになってしまう。

換気のためか天井に接している部分の壁面は木枠に桟が付いているだけになっていて、外の音も筒抜けだし中の音も筒抜けだ。こうした作りも沖縄古民家では普通なのだろうか。

プライベートが一切考慮されていない空間に最初は面食らったが、まぁ見られて(聞かれて)困ることなど大してないのでやがて気にならなくなった。流石に大声で会話すると迷惑になりそうなので終始ヒソヒソ話になってしまったが。

荷物を降ろして一息ついてからレンタカーを返却しに行った。幸いレンタカー屋の事務所がこの近所にもあってそこで返却が可能だった。返却を済ませたあとその戻り道で街中を少し散策した。

 

島の夕食:


部屋に戻って少しして女将が部屋を訪ねてきた。今日は体調が優れず夕食が用意できないので近所で済ませてくれないかとのことだ。

この宿は食事もおススメと聞いていたので割と楽しみにしていたのだが、事情が事情だけに仕方がない。ということで急遽ガイドブックをパラパラめくって店を探した。折角島に来たのだから寿司でも食べようかなんていう意見も出たが、この島に回転寿司屋などない。普通の寿司屋はあるようだが料金が分からないので一見さんの自分らはちょっと入りにくい。

それで見つけたのが女酋長という店。ここはチャンプルーが美味しいらしく、じゃあそこで島料理を食べようと決めて街へ繰り出した。と言っても宿から店までは目と鼻の先。2、3分の距離である。

店の戸を開けると先客は1人のみで閑散としていた。中に入ろうとしたら店員が出てきて今日は予約で満席だといわれた。そーなん。。。
おもろで夕食を食べそびれた人がこぞって押しかけているのだろうか。残念だが満席だというのだからどうしようもない。

完全にアテが外れてしまったので後は現地調達するしかない。街中をブラブラと散策してめぼしい店を探す。と言っても外食の店は数えるほどしかなくさほどの選択肢はない。2,3見つけた店の前でどうするか話し合うもののどれもイマイチ決定打にかけ、あーでもないこーでもないと言い合いながら結局決められずに何度も行き来してしまった。

いやいや、そんな悠長に悩んでいる暇はない。何ならもう少ししたら店が閉まってしまう。コンビニはないので店が閉まったら夕食難民確定である。結局切羽詰まった気持ちのままもうここでいいやとラーメン屋の暖簾をくぐった。とりあえず腹は満たされたが、正直あまり口に合わなかった。

宿に戻った後はシャワーを浴びておしまい。部屋で明日の準備を済ませて早々に就寝。

Posted by gen_charly