沖縄離島探訪【13】(2006/11/22)
志木那島診療所:
建物の方へ移動してみると他の観光客が2.3組先着していて建物の周りをうろうろしていた。時間は16時を回っているがまだ職員が到着しておらず鍵が開いていなかった。まぁ役場も何かと忙しいのだろう。
とりあえず自分も建物の周りを見学してみた。
壁面のくたびれ具合など、建てられて数十年は経っているかのような風合いだが、これは大道具さんの仕事によるもの。実際には建てられてまだ数年しか経っていない。にもかかわらずここまでエージングされた風合いを出せるのだから物凄い技術力だ。
この看板の色褪せ具合や錆のたれ具合などもリアルそのもの。大昔にこんなホーロー看板をどこかで見ているような気がする。
外階段があって屋上にも登ることができたので、掲げられている大漁旗と写真などを撮っていたら5分ほどで職員が到着し解錠してもらった。
建物に入った後はめいめい好きなところを見学してよいそうだ。特に立入禁止の場所もなくどこでも見られるというのは珍しい気がする。
建物の中もドラマで見たのと同じ風合いがそのまま残されていた。
人や物が通った時に触れてできたような壁のひっかき傷なんかまでちゃんと再現している。芸が細かい。
診察室にはカルテなどがそのままの状態で残されていた。もちろん小道具なのでニセモノだが。
どこかにある実際の診療所をモデルにしているっぽく細かい部分まで抜け目ない。
この作品を見た時の没入感が半端なかった(と言っても第1話から暫くの間はキャストが原作の雰囲気と大きく違うことに違和感を感じた)が、没入できたのは演者の演技力の高さやシナリオの緻密さもさることながら、このようにリアルにこだわったセットで撮影されていることも相乗していると思う。
セットと言えばこんなものもあった。
ヤシガニラーメンはドラマに登場する架空のインスタントラーメンなのだが、主人公のコトー(五島健助)はカップラーメンが大好物と言う、医者の不養生を地で行くキャラクターでこのラーメンも作品中に頻繁に登場する。
そういう小道具のひとつだが手に取ることが出来る。この手の小道具は触っているうちにどんどん壊れてしまうので、普通だったらガラスケースなどで展示されているものだ。それがこうして好きなように触れるというのは非常に珍しい。与那国町のご厚意なのか、はたまた管理に手が回らないのか。。。
手に持った時に重さを感じたので蓋をそっと開けてみたら、中に金ちゃん飯店の麺とスープが入ったままになっていた。小道具が作られた時点で既にこの状態だったのだろうからもう食べられるものではないと思うが、別に蓋を開けて中身を見るシーンがあった訳でもないのに中身をちゃんと入れておくというあたりに小道具さんのこだわりを感じた。手に取った時のリアクションが自然なものになるようにしているのだろう。
じっくり見学すると言っても小さな建物なので、ものの20分ほどで全部見終えてしまった。
このセットにお邪魔する時に職員からアンケート用紙を渡されていたので、最後に部屋の片隅の畳コーナーに腰掛けて記入することにした。
セットなのにこうして腰掛けても怒られないと言うのがなんか不思議だった。
アンケートはこのセットの活用に関するものだった。建物の開放や有料化に関する是非などが設問されている。
建物の開放と言うのは、今回もそうだが今は職員がいちいち建物の鍵を開けに来ている。希望の連絡がある都度来ているようでそれなりの負担になっているらしい。そこでもう思い切って開放して自由に見学してもらうのはどうか?と言うことだ。
そして有料化については、建物の維持管理をしていくうえでその維持に関するコストをどうするのが良いかという問いである。今はそのコストは税金によって賄われているので無料で見学できるが、財政的に豊かな自治体ではないのでその負担が無視できないものになりつつあるのだろう。受益者負担として有料化したいところではあるのだが、有料化することで見学する人が減ってしまうとそれはそれで維持費用が捻出できなくなるのでどうするのが良いか?という問いである。
どちらもこうした観光スポットにありがちな悩ましい問題である。流石に係員も立てずに開放したら物を壊されたり盗まれたり、と言うことも想定しなければならなくなりそれはそれでコストがかかると思う。そもそも壊されては元も子もないので完全開放は得策ではないと思う。
有料化についてはいくらかの入場料(訪問を見送る人が増えない程度の安価な額)を徴収して残りは税金で賄うのがよいのではないかと思った。維持に必要なコストの一部をまかなうことで町の負担を軽減する一方、見学者がそのくらいの金額なら支払ってでも見学したいと思えるような金額というのがどのくらいかを見極めるのはなかなか難しいとは思うが、島へ訪れたら宿泊もするし食事もする訳だからそれなりの経済効果も期待できる筈。そこは試行錯誤で。
とはいえ映画はそれを知るものが徐々に少なくなっていく運命にある。北海道の夕張に幸せの黄色いハンカチのロケ地があるが、自分はどんな物語か知らないので見に行く動機がない。このように物語を知らない人が段々と増えて行くので見学者数が漸減していくことを想定しておかなければならない。映画ならロケ地の辺りを観光する前に予めその映画を見てから訪問することも可能だが、テレビドラマだと再度作品を見る手段が限られるので知名度の低下がより顕著なものになるかもしれない。そう考えると少し前途多難である気がした。
でもドラマ自体はとても感動する名作なので知らない人はぜひ見て欲しいと思う。そして末永く多くの人の記憶に留まるようこういった施設が残ってくれることを無責任に期待してしまう。
セットのすぐ近くには昔ながらの製塩所があった。小さい製塩所なので揚げ浜塩田方式で製塩している店なのではないかと思ってちょっと覗いてみたが、ここでは小売をしていないということで買えなかった。
日本最西端:
さて、時間はもう少しで17時になろうとしている。もうちょっとで日没だ。
ここは日本最西端の島である。と言うことは日本で一番最後に日が沈む場所と言うことだ。島には日本最西端である西崎(いりざき)という場所があるので、そこで日本の端っこにタッチしつつ本邦における本日最後の夕日を拝みに行ってみることにした。午後に入ってからいくらか雲も切れてきたのでいい感じの日没が拝めるかもしれない。
途中、Dr.コトーのTVドラマオープニングに登場する農道を通った。ドラマ内では晴れ渡る空の元、主人公がのんびりと自転車を漕ぐシーンが流れるが、今回はご覧のとおりちょい微妙。
そして西崎に到着。日本国最西端之地と書かれた石碑が置かれていて西の端っこまで到達できたことを再確認する。
与那国島の向こうは台湾だ。かつては貿易による交流が盛んだったという。今日はその島陰は見ることが出来なかったが、台湾までは100キロほどなので空気が澄んで良く晴れた日であればここからでも台湾の山々が見られるそうだ。
あちこち寄り道しながらちょっとずつ進んできたので凄く遠い場所に来ている感覚が持てなかったが、東京からの距離は2000キロを超す。そう考えるとやはり遠い場所である。
日没を見届けるためにやってきたわけだが、日本で一番最後に日が沈む場所と言うだけあって、11月下旬の17時と言う時間であるにもかかわらず太陽は思いのほか高い位置にあった。もう1か所くらい寄り道してから来てもよかったか。
この分だとまだ日没するまで小1時間くらいありそうだ。とりあえず園地の中を散策して時間を潰すことに。
駐車場に植えられたソテツの周りで何かをしているおばさんがいてカミさんが興味を示す。近寄って話しかけてみたらソテツの実を摘んでいるのだという。
食べられるんですかと更に聞くと、飾り付け用として集めているとのこと。食べれなくもないけどあまり食べないですね。と言う回答だった。
西崎の周辺には灯台などもあって遊歩道が結んでいるのでブラブラと散策した。程よき所で戻って近くのベンチで一服しながらのんびり日没を待った。水平線付近に雲の塊があって水平線に沈む日没は見られなかったが、雲の向こうに太陽が沈んだ所まで見届けた。