臺湾的婚礼【5】(2007/01/21)
台湾の披露宴:
台北101を見るために全財産をはたいた我々だが、戻りのことを考えていなかった。もし戻る時に大雨になっていたら傘を買うかタクシーを拾うかでお金が必要になる可能性があった。まさかずぶ濡れで会場に納まる訳にもいかない。結果的に雨に降られることなく戻ってくることが出来たが事と次第によっては進退窮まる所だった。
会場に戻ったら既に受付が開始されていた。我々も受付を済ませる。ご祝儀は新郎新婦が好きだというディズニーのご祝儀袋に包んで渡した。
そのお返しで赤い封筒を渡された。封筒の中身を見たら新郎新婦のブロマイドだった。
この、今私らは最高に幸せだッみんな祝ってくれ!みたいなノリは日本ではあまりないものだ。日本だと僭越ながら夫婦となりました。不束者の2人ではありますが今後とも宜しくご指導ご鞭撻のほどお願い申し上げます、とか、幸せな家庭を築いて行きますので皆さまよろしくお願いします、みたいな感じで祝福を受けることに恐縮していなければならないような雰囲気がある。間違ってもウチら幸せの絶頂です!なんて浮かれた気持ちを全面に出したら顰蹙を買ってしまいかねない。そう考えるとなんと開放的な雰囲気だろうか。
まぁ、サンプルが1組しかいないのでS家が特殊である可能性も否定できないが。
会場は広い。ざっと100人くらいなら余裕で収容できそうだ。
席は既に7割ほど埋まっていた。我々も中へ移動するとさっき控室で会った友人たちから手招きされた。我々の席はここだそうだ。
着席して周囲を見回してみると我々のテーブルのメンバーはスーツやオフィスカジュアルのような格好をしているが、他のテーブルに腰掛けている人たちはジーンズにトレーナーだとかチノパンにカッターシャツといった、どう見ても普段着で参列している人が散見された。親族などの近しい人たちなのかもしれない。
なるほど。Webに書かれていた基本はラフなスタイルでよい、というのは本当にほぼ普段着でOKという意味だったのか。冒頭で触れたとおり我々は日本の披露宴に参加する時の服装から比べたら大分ラフな格好をしてきたつもりだったが、これでもだいぶフォーマル寄りだったようだ。たまたま同じテーブルの人たちが似たような格好だったのでセーフだったが一歩間違えたら浮きまくる所だった。。。
時計を見ると開始の時間を過ぎていた。だがまだ始まる気配がない。かといってみんなじっと座っている訳ではない。日本では開会の挨拶のあと乾杯の音頭を取る直前に飲み物が用意されるのでそれまでは座って待っているしかないが、ここではウェイターがしきりに飲み物を運んで回っていて受け取ったそばから好き好きに飲み始めている。なんかいいな、このユルさ。
物事が時間どおりに始まらないのは台湾あるあるらしい。オキナワンタイムみたいな物か。南の国あるあるなのだろうか。
結局30分ほど遅れてようやく新郎新婦が入場してきて披露宴がスタートした。ゆっくりと花道を歩きながら参列者に挨拶していくところは日本と変わらない。2人が前方の高砂的な席に着席すると司会の進行が始まった。もちろん何を言っているかは全く分からない。もう雰囲気だけ。でも楽しい。
そして円卓に載せられた料理に舌鼓を打つ。これがまたものすごく美味い。最初は少し遠慮気味にしていたが、見ていると他の連中はもっぱら飲んでばかり食べ物にほとんど手を付けていない。
それなら遠慮はいらないな、と言うことで自分とカミさんは心置きなく頂かせてもらった。こんな幸せな披露宴初めてだw
それから少しして新郎新婦が各テーブルへのあいさつ回りを始めた。それぞれのテーブルで新郎が手にしたグラスにワインが注がれ、ひとしきりワイワイと騒いだあとそれを新郎が一気に飲み干しているのが見えた。
やがて我々のテーブルまでやってきた。みんなでゴンシー!ゴンシー!!(おめでとう、の意)とお祝いコールを送る。テーブルの1人が手元のワイングラスにワインをなみなみと注いだあと、料理の皿に乗っていたしいたけをカクテルのレモンのごとく挟んだ。やりながらニヤニヤとしている。子供のいたずらか。
そしてそれを新郎に渡す。苦笑いをしながらみんなと乾杯しそのワイングラスを徐に空けた。Sちゃんはそれをやや不安そうな表情で見ている。
しいたけはグラスに刺さっているだけだから、ハイありがとね、とでも言ってそのままグラスを戻せばいいのに、何の義務感かそのしいたけもしっかりほおばって、変なもの食っちまったみたいな表情をして次のテーブルへと移動していった。
大学コンパのノリだな。新郎は既に真っ赤な顔をしている。飲みすぎて調子を崩さなければよいが。。。
それからまた少しして今度は新婦のご両親がテーブルを回ってきた。カミさんは以前訪台した折にご両親とも会っているらしく久々の再会を喜んでいた。ご両親は日本語は話せないらしく、ジェスチャーとアテンドしてくれた友達の通訳によってコミュニケーションを取った。通訳によって分かった話もあったが、通訳がなくともジェスチャーを見ているだけでも、何となく話そうとしていることは分かる感じがした。
暫くの後、ご両親が全ての席を回り終えて席に戻ったタイミングで、同じテーブルのメンバーからご両親の所にもう一度行って来たら?と促されて改めて話しかけに行った。なぜか通訳してくれている子が同伴してくれなかったのでコミュニケーションにやや不安を感じつつ親族席に座っているご両親に声をかけた。
すぐさま親族のなかから日本語が話せる人が出てきて今度はその人が通訳してくれた。凄いな、この100人ほどの空間に日本語を話すことができる人が何人もいる。日本でこうしたイベントを催した時に英語を話せる人は1人くらいはいるだろうが、中国語や台湾語を話せる人は概ねゼロに近いのではないかと思う。
台湾の人は親日家が多いという話はよく聞くところだが、一方の日本は国としてはずっと台湾に塩対応を続けている。なかなかままならぬものである。こうして草の根で交流を広めていくのが重要だなと思った。
それはさておき、例のカメラマン氏が再び我々の元にきて写真を撮ってくれた。
ご両親は人懐こく握手なんかを求めて来る。握手しながら来てくれてありがとうね、的なことを何度も言われている時に撮られたのが上の写真だが、自分はSちゃんから見たらお友達のダンナであり、台北で初対面したばかりのニューカマーに過ぎないのだから得体のしれない人間である。一方の自分からしたってSちゃんのパーソナルで知っていることはカミさんから仕入れたわずかな情報のみで、ダンナとの馴れ初めとかどんな仕事をしているのかとか何一つ分かっていない。なのに壇上に立ってSちゃんのお父さんと固く握手している。なんだこのシチュエーションw
何か話さないととは思うが言葉は何も浮かばない。ひたすらゴンシー!ゴンシー!!と連呼した。これでよかったのだろうか。
自分がスリリングなコミュニケーションに明け暮れている時、カミさんはお母さんと談笑していた。なんかコミュニケーション取れているっぽい。実は台湾語分かるの?
最後に映画の新作試写会みたいに舞台に横一列に並んで記念撮影をしてもらって解放となった。いや、自分らから行ったので解放もないか。
戻り際にカミさんにお母さんとどんな話してたの?と聞いてみたら、分からん、分からないけどしゃべってくれるのでなんとなく合わせていたとのこと。それであんなに楽しそうに出来るもんですかね。すげーな。
それから席に戻りようやく一息。披露宴の方は司会がテンション高めにあれこれイベントを続けていた。
日本だと親戚のおじさんあたりが聞いたこともない演歌を披露してくれたり、親戚の子供が踊りを披露したり、などという誰得な余興タイムになることが多いが、今回は新郎新婦と同世代の参加者の間でゲームをしたりするタイプの余興が多いようだった。
それを片耳で聞きながら続々と出される料理に舌鼓を打つ。次から次に配膳されてもう何品目めだっけ?みたいな状態になっている。流石に腹もだいぶ膨れてきた。もうあとは味見だけかな、なんて思っていたらデザートが配られた。
お、ようやく締めですな。腹十分目くらいの丁度良い満腹感。デザートもまた美味くてこりゃ別腹に入っていくわい、と思いながら舌鼓を打つ。と、なんか周りの席の人たちがざわざわし始めた。見るとみんな退席を始めたようだ。おお、本当に締めの挨拶的なモノがない。
順番待ちの客がいるような飲食店でもう食べ終わったし待ってる客の迷惑になるから俺は帰るぜ、みたいなノリでみんなどんどん退席して会場を後にする。事前に知っていたことだったが実際に見ると何とも不思議な光景だった。
我々のテーブルの面々は、まだ宴の余韻を楽しむかのようにみんな着席して談笑にふけっていた。そういう所ちょっと日本っぽい。
他の客があらかた退席した頃に徐に席を立ち始めたので我々もそれについて席を立った。
受付の所に戻ると既に新郎新婦とご家族が受付前に立って参列者を見送っていた。メンバーの1人が声をかけると、みんなで写真撮ろうぜ!みたいな話になってにわか撮影会が始まった。記念撮影も作り笑顔で写ったりはしない。なんかカッコつけているんだかおちゃらけてるんだか、微妙なポーズをめいめいキメている。みんな楽しそう。Sちゃんは流石におしとやかにしていたが。
こうして自分にとって最初(で多分最後)の台湾の披露宴参列が終わった。お付き合いだから行かない訳にもいかないじゃん、みたいな態度で来ている人はいなかったような気がする。みんな陽気で新郎新婦の門出を心からお祝いしているように見えた。新郎新婦の人柄ゆえかもしれないが。