四国初日の出【5】(2008/01/01)
馬路森林鉄道:
これまで海岸沿いを西に進んできたが、ここから方向を変えて山間部へと向かう。内陸部にある馬路(うまじ)村という所でかつての森林鉄道を保存鉄道として残しているそうなのでそれを見に行こうと思う。
高知も他の四国各県と同様、海岸沿いの平野部を過ぎるとそこから先は険しい山岳地帯となっている。その広大なエリアで林業が活発になるのは自然の成り行き。かつては至る所に森林鉄道(林鉄)が建設され伐採された木材を運搬していたという。
現在国内の林業は産業としては風前の灯であり、かつて日本全国の山々の奥深くまで路線を伸ばしていた林鉄はほぼ全滅している。だがそれらの林鉄の路線のうちいくつかは地元有志による保存が行われており、馬路森林鉄道もそのひとつである。
だがそんな場所だけに車であっても行くのはなかなか大変だ。奈半利から西に進んで隣町の安田町へ出て、そこから安田川に沿って延びる県道12号をひたすら遡って行った先に目指す馬路村がある。山あいの小盆地に広がる鄙びた山村だけに隠れ里のような雰囲気を持つ場所だった。
もちろん森林鉄道を見に行くのだからどうせなら乗車もしてみたいところだが、ガイドブックによると11月~4月は運休と書かれていた。まして今日は元日である。旅客輸送のための路線ではないのだから、まず間違いなくお休みだろう。列車の写真だけでも撮れれば御の字と思っておいた方が良さそうだ。
20分ほどハンドルを右左に回しながら県道を遡っていくとやがて景色が開けてくる。と言ってもあくまで山村、一車線の細い道が村内のメインストリートである。ガイドブックの地図は大雑把で集落の中の道の様子がよく分からない。集落の入口にも地図が掲示されていたのだが、それを見ても走り慣れない道なので迷ってしまった。
どうにかリカバリし別の筋に入り込んだらログハウスのようなものが見えてきた。軒先に馬路森林鉄道 馬路温泉前駅と書かれていたのが見え、ようやく辿り着くことができた。
見ると人がいそうな気配。その人に声をかけたところ正月3ヶ日は特別に走らせているとのことだった。乗れる!ラッキー。
その列車はあと20分ほどで出発というので切符を購入して出発を待つことにした。切符は写真のとおり木の板に焼き印で作られている。現役だったころは流石にこれではなかったと思うが、記念に残る良いアイディアだと思った。
待っていると我々と同様にこの列車に乗ってみようと訪ねてきた家族連れが乗り込み、都合2組がこの便の乗客となった。
列車は2号機関車が先頭に立ち3両の客車を牽いている。先頭部にしめ縄が飾られて新春の寿ぎを演出していた。機関車はSLのようないでたちをしているがディーゼル機関車であるそうだ。
森林鉄道は一般に木材の運搬を行うために作られた簡易的なものであるため、軌道もひときわ狭い610mmというのが主流となっている。
そのため上に乗る機関部や運転台が妙に間延びして見える。独特なかわいらしさだ。
この路線は安田川の支流が安田川に注ぎ込む河口の近くにあり、川の両岸を周回する400mほどのループ線になっている。乗車するとこのループ線を2周ほど回ってくれる。
機関車はディーゼルだが、走り始めると一丁前にシュッシュッという蒸気機関のような音が聞こえてくる。多分録音した物だと思うが芸が細かい。
正月早々のきりっと冷たい風が顔に当たり気持ちがいいような肌が痛いような。。。でもまたとない経験にテンションは上がりっぱなしであった。こういうラッキーがあるから旅はやめられない。その割に写真をあまり撮影しなかったのは惜しいことをしたなぁ。でも一応動画を撮影していたのでそのキャプチャー画像をご紹介する。
インクライン:
それはさておき、ここには森林鉄道の他に世界でも珍しい水力によるインクラインというものがあるそうだ。駅舎からもその姿が見えていたのだが、なかなか強烈なインパクトを与えるものだったのでついでに乗りに行ってみることにした。
「泣いてもおりれんインクライン」なんて言葉と共に日本むかし話みたいなイラストが書かれている。イラストの車両はジェットコースターの導入部分のようにほぼ垂直な斜面を登っているが、実際にはそこまでキツくはない。
これがそのインクライン。インクラインとは要はケーブルカーなのだが、もっぱら資材などの運搬を行うために作られたものを指している。なので乗客を運ぶために用いられることはまずなく、そのうえ施設が完成すると撤去されてしまうため一般にはその存在はあまり知られていない。
大抵の場合その動力は電力で賄われるが、ここ馬路村のインクラインの場合はそれが水力で賄われる。水力で動かすというのがどういうことかというと、客車は頂上に置かれた滑車を支点にしてロープで結ばれていて、そのロープの反対の先にはおもりが結ばれている。で、客車の下に見える青い部分が水のタンクになっていて、そこに水を入れる量によっておもりとの間でバランスするという仕掛けだ。
こうしてみると切符のイラストほどではないがかなりの急勾配である。ケーブルカーでもここまで急勾配の物はまず見かけない。座席もどこかのスタジアムかというほどの段差が付いている。
客車に乗り込むと操作係の人も同乗しまずは客車下のタンク内の水を排水する。操作係の人は恐らくシルバー人材系の人だと思うが、乗車するなり徐にたばこに火を付けた。客車はオープンデッキだから煙がこもることもないのだが、こういう場所ならではの自由さだ。
排水が進むと客車よりおもりの方が重くなる。そのままではすぐに客車が上に登って行ってしまうのでブレーキをかけてある。この状態でブレーキを一気に開放したらカタパルトに乗せられた砲丸のごとく山頂のはるか向こうへ投擲されることになるので、ブレーキはゆっくりと緩められる。
ブレーキが緩むと客車がゆっくりと上昇を始める。座席が麓の方を向いているので進む先は見えないが、一気に高度を稼いで集落がどんどん眼下に遠ざかっていく。意外にも車両が動き始めると吊り掛け式の電車のようなゴイゴイという音を立てながら上昇していく。
山は目測100mくらいだろうか。2,3分の乗車で頂上に到着。
すると丁度いい感じの所に給水管が引かれていて、自動的ににタンクへの貯水が開始される。
頂上はちょっとした広場になっていてアスレチック的な遊具が置かれていた。子供を連れてきたら楽しめると思うが大人は景色を堪能する方向で。
馬路の集落の様子。山深い所にある集落だが長閑な山村の趣。人間関係が濃そうだがこんな場所で大自然に抱かれて日々を過ごしたらノンストレスで暮らせそうだ。
集落を眺めていたら操作係のおじさんからそろそろ降りるよーと声がかかった。これまた長閑だ。乗り遅れても恐らく30分後くらいにはまた登って来てくれるが先の予定もあるので戻りの客車に乗車。
今は水のタンクが満タンになっているので、ブレーキを緩めるとすぐにスルスルと下り始めた。このブレーキが壊れたら?と思うとぞっとするが、そういうことも想定して3系統のブレーキが装備されているそうだ。
馬路温泉前駅の道向かいには馬路温泉を併設したコミュニティセンター馬路がある。時間があれば温泉でのんびり体を温めて行きたいところではあるのだがそうも言っていられない。売店があったので冷やかしてみるとごっくん馬路村というドリンクが売られていた。
一昔前にサントリーがはちみつレモンという飲み物を発売して結構なヒット商品になったが、これはそのレモンをこの辺りの名産品である柚子に置き換えたものと言えばイメージしやすいと思う。。。なんておためごかしに言わなくても、有名な商品なので知っている人の方が多いと思うが。
レモンのようなきりっとした酸味とは違って、深みのある酸味が楽しめる非常にうまい飲み物だったが、値段は普段使いするにはちょっと高い。やはりお土産として貰って飲むような物かもしれない。でもまた飲みたいなぁ。