小笠原上陸【5】(2008/09/12)
おがさわら丸25時間半の旅の始まり:
荷物をまとめてひと段落したあたりで出港の時間になったので、デッキに出てみることにした。
デッキに出てみたら鈴なりの人だかりだった。やっぱり船が出港する時はこうしてデッキに出て景色を眺めたいものなんだなぁ。我々のような初めて訪島する人などは、これから体験するであろう途方もない離島のあれこれを想像してワクワクしている筈。
後ろ向きな理由で乗船する人はあまりいないせいか、デッキに立っている人は一様に明るい表情をしている。
海上から眺める東京タワー。なんだかジオラマを見ているような気分になった。この風景は船に乗った人の特権である。
そしてほどなくレインボーブリッジをくぐる。ここをくぐるといよいよ行ってきます!という気分になる。
それから少しすると羽田の沖合を通過する。脇を通過するわずかな時間の間に何機もの飛行機が離発着している。その頻度たるやもしかしたら朝の山手線並みなのではないかと思った。管制はてんやわんやであろう。
そのあとは暫く川崎や横浜、対岸の市原、袖ケ浦辺りの風景をぼんやりと眺める。羽田を過ぎる頃にはデッキに群がっていた人たちのうちいくらかが船室に戻ったらしく、周りの人口密度が少し下がった。
横須賀が見えてくるあたりになると見えてくるのが猿島である。この島は東京湾で唯一の自然島であるそうだ。記事にはしていないが2004年に一度上陸している。無人島ではあるのだが気軽に渡れる島で、戦跡なども残っているので散策すると結構楽しい。
伊豆諸島沖を南下:
ここまで来るとあと少しで浦賀水道を通過し、いよいよ太平洋に飛び出す。そこから先は南南東に進路を定めてひたすら進む。その時間およそ23時間。まだあと丸1日あるのか。そんなにあったらあれこれできそうだ、というか時間を持て余してしまいそうだ。とりあえず船内でどのように過ごすかは乗船前にある程度シミュレーションしているが、想定どおりになるかどうかは神のみぞ知る。
少なくとも海が荒れて船室で横になったまま一歩も動けない、という事態にだけはなって欲しくないところだが。
とはいえ太平洋に出ると波が大きくなるので揺れも強くなる。そこで酔わないように今のうちに酔い止めを飲んでおくことにした。
買った酔い止め薬はアネロンニスキャップというもの。チュアブルタイプで水なしでも飲める。これまで酔い止めの薬は信用していなかったので飲んだことがなかったのだが、25時間からの航海となれば話は別だ。飲んで効かなければ最悪な事態となるが、飲まずに最悪な事態を迎える確率よりは低くなる筈。
桟橋近くのコンビニで手配したおにぎりを頬張って、祈るような気持ちで酔い止めを服用した。よしこれで大丈夫なはず。気の持ちようも重要。
効き始めるまで30分ほどかかり、その後は1日効果が持続するということなので父島に到着するまで効果を持続させようと出港して2時間弱の所で服用という寸法だ。
まぁ自分の場合デッキで風に当たっていれば割と平気でいられるので、出来るだけデッキ上で過ごすことにしよう。
変な写真を撮りたくなって写した1枚だが、汚い足を晒すだけの結果になったw
それはさておき、船が浦賀水道を通過していよいよ太平洋の大海原へと躍り出ると風とうねりが強くなり始めた。
我々はデッキの最上階に陣取っているわけだが、直射日光が容赦なく照り付ける場所なので東京湾を出る頃には流石にだいぶ閑散となった。居残り組はデッキ上にめいめい陣取って読書したり昼寝したり酒盛りしたりしている。酒飲める人はいいよなぁ。
もう少し進むと伊豆大島が見えてくるはず。そう思ってデッキの柵にもたれて景色を見ていたとき、ふとした拍子にシャツにひっかけておいたサングラスが落下してしまった。
あっ!と小さく叫んで慌てて手を伸ばしたが届かなかった。風に流されながらスローモーションで落下していくサングラス。旅路でかけようと思っていたのに。。。
父島に着いたらまた買い求めるか。
ぼちぼち見えてくるはずの伊豆大島が一向に見えてこない。というか右舷側に立つと正面上から照り付ける太陽の静で水面が銀色に輝いて何も見えない。おまけに湿気もそれなりにあるようで遠景がもやっていて島影らしい島影はずっと見えずじまいだった。
カミさんは自分の横で一緒になって海を眺めながら暫くの間他愛もない会話を続けていたのだが、やがて飽きたらしくいつの間にか座り込んでいた。自分はそのまま海の向こうに見えるはずの島影を探し続けていたのだが、静かになったなと思ってカミさんの方を見るといつの間にかデッキの甲板の上に転がって昼寝していたw
野良おばさんか。
かく言う自分もひたすら海しか見えない景色にいい加減飽きてきた。もうこの辺まで来たら島影を見るのは無理だろうと諦めもついたので、デッキに腰を降ろして潮風を受けながらまどろんだ。
空には雲ひとつない。だから変化に乏しい。そんな空をぼんやり眺めているとウトウトしてくる。こんなに何も考えずにボーっとするのはいつぶりだろうか。何もやることがなく過ごすのはさぞかし退屈だろうと思っていたが、なんかむしろすごく贅沢な時間の使い方をしているような気がして、全く退屈を覚えることはなかった。
ただ、硬い地面に直に腰を降ろしているのでだんだんケツが痛くなってくる。周囲を見るとマットやシュラフのようなものを持参して尻の下に敷いている人が結構いる。船旅に慣れている人だろうか、準備がいいなと思った。自分も次回船旅をする時は持参するようにしよう。
そんなぼんやりした時間を2時間ばかり堪能したが、直射日光に盛大に晒されていたので日に焼けて腕や足がだんだんヒリヒリしてきた。このまま火ぶくれになったりしたら大変なので、カミさんを起して船室に退避することにした。
戻るついでにロビーにあるカウンターで船内見学ツアーの申し込みを済ませておくことに。
このツアーは知る人ぞ知るツアーでその名のとおり船内のあちこちを案内してもらうことができるものだ。そうしたアクティビティを挟むことで少しでも退屈しのぎになればと思う。
ツアーは明日朝9時にここに集合とのこと。了解です。
席に戻る前に船内にあるというカラオケボックスを見物しに行くことにした。もし暇でどうしようもなくなったら利用しようと思っていたのだが料金は1時間2000円とのこと。歌い放題らしいが2000円は高い。大人数なら選択肢に入るかも。とはいえ揺れる船の中で歌詞の字幕なんか読んでたら覿面に酔いそうな気もする。まぁ自分はいかないだろうな。
自席に戻ってマットの上に転がった。するとほどなく眠気が襲ってきて気が付いたら居眠りをしていた。
どうやら酔い止めが効き始めてきたらしい。体調や気分は普段とあまり変わらずパキッと効いている実感はないのだが、まぁ眠くなるのだから効いているのだろう。
眠くなる以外にも、普段の自分なら確実に酔う本読みなども少しくらいなら耐えられそうだと思うくらいの感覚の違いはある。まぁ読み始めたら確実に酔いサイドに転落すると思うので無茶はしないが。
酔いそうな、大丈夫そうな、でも何か酔いそうな、、という感じを行ったり来たりしている。まぁあの不快感を感じることなく過ごせているだけで御の字である。酔い止めがプラセボ薬品ではないということが分かった事は収穫である。