小笠原上陸【14】(2008/09/13)
Come・クルーズに電話連絡:
無事宿に戻り久しぶりに(と言っても3時間くらいしか経っていないが。。。)人家のぬくもりを感じた。あと少ししたら夕食の時間だがその前にやることがある。
明後日、父島で南島とドルフィンスイムのツアーをお願いしているCome・クルーズに予約の連絡を入れた時に、母島に到着したら一報するよう言われている。だが、自分の持参した携帯電話は母島では圏外で使えないので、島のどこかにある公衆電話から連絡しなければならなかった。
宿に着いた時に食堂にピンクの公衆電話が置かれているのは見かけていた。だがCome・クルーズの連絡先が携帯電話だったのでピンク電話からかけることに抵抗があった。と言うのも固定電話から電話すると結構なお金がかかるのだ。にもかかわらずピンク電話は10円玉しか使えないので、多分数分通話しただけで10枚単位の10円玉を消費するはずだ。普通そんなに大量に10円玉は持ち歩かない。
カミさんと財布の10円玉をチェックしたら多分1分ちょっと通話したら切れてしまうくらいしか持ち合わせがなかった。だがカミさんが50度数のテレフォンカードを持っていた。じゃあ散策中にテレカが使える公衆電話を探してそこでかけようと思ってそのまま出発したのだった。だがどこにもテレカ対応の公衆電話がなかった。
結局連絡できぬまま宿に戻ってきた訳だが、幸か不幸か途中の自販機で飲み物を買った時におつりが全部10円玉で出てきたので今は財布の中にはたんまり10円玉が入っている。普通だったら腹が立つ出来事だが今回ばかりはありがたかった。
というわけでその10円玉を積み上げて宿の公衆電話からCome・クルーズに連絡。
母島に到着している旨を報告するついでに明後日の開催見込みを確認したら、今日の南島上陸は中止になってしまったとのことだった。沖縄付近を北上中の台風が影響してうねりが強いらしい。そしてこのままの状況だと明日、明後日も厳しいかもしれませんとのこと。
通話中面白いように10円玉が飲み込まれていく。やっぱり固定電話から携帯電話にかけると通話料が高い。みるみる減っていく10円玉に目をやりつつ話を聞いた。
小笠原と沖縄は数千キロ単位で離れている。そんな所のうねりが小笠原に影響を及ぼすような物なのだろうか。にわかには信じられない。南島への上陸は今回の旅行における自分のメインイベントである。これが中止となったら流石にがっかりする。父島に未練たらたらになりそうだ。何とか開催にこぎつけて欲しい所だが。。。
電話を切って部屋に戻りカミさんにその旨を報告した。カミさんもドルフィンスイムが今回のメインイベントであるそうで、やっぱり中止になったらがっかりだなぁと漏らした。まぁどんなに足掻こうともダメならダメなのだからジタバタしてもしょうがない。
夕食までもう暫く時間があったので部屋でぼんやり過ごした。ふと窓を見ると網戸にオガサワラヤモリがへばりついていた。小さな5本の指が赤ちゃんの手みたいで可愛い。
よく見ると他の窓にも点々とへばりついていた。古くからヤモリがいる家は安泰なんて言われている。オガサワラヤモリは小笠原の固有種なので同じ縁起を担げるかは分からないが、見てるだけでなんか和んでくる。
民宿つきのゆうべ:
それから程なく夕食の時間となったので食堂に降りてみた。だいぶ歩き回ったのでもう腹ペコだ。だがテーブルにはまだ食事は出されていなかった。
1人のおじさんが早々に着席して食事をアテにしながらビールを飲んでテレビを眺めていた。リゾートで訪れている雰囲気ではなく、それこそ仕事上がりの一杯みたいな表情をしている。なんかユルくていい雰囲気だ。
ご飯はカウンターに置いてある炊飯器からよそってくださいとのことなので、先にご飯を取りに行く。茶碗に盛って席に戻ったらほどなく今日の夕食が運ばれてきた。
写真の切り取り方が何とも雑だが今日の夕食である。思いのほか品数が多くて驚いた。なぜ驚いたかというとこの島は第一次産業があまり盛んではないからだ。農業をしようにも土地が険しいのでまとまった耕作地がないし漁業で栄えている訳でもない。つまりいわゆる地の物があまりないのだ。
そのうえ本土から隔離されていると言ってもいいような島なので食材を運ぶのにもコストがかかってしまう。そのコストは宿代に転嫁しきれないと思うので食事は貧弱な物になるであろうことを予想していたのだ。
ところがどっこい、この量はどうだ。おかずの乗ったお皿が7皿もある。ご飯がたくさん食べられる品数だ。期待していなかっただけに驚いてしまった次第。
興味本位で主人にこの中に母島で採れた物があるか聞いてみたら、カツに添えられたレモンと黄色い鉢に盛られた島ししとうの煮物がそれであるそうだ。やっぱりあまりないのだな。
レモンは普通目にするものと違って皮がライムのような緑色になっている。島レモンはそういう品種らしい。香りは強いが酸味はあまりなく何ならそのままかじっても平気なほどだ。島ししとうも辛みはなく煮汁の味を吸い込んで柔らかく炊かれていて美味だった。
我々が食事をしている間に徐々に宿泊者が食堂に集まって来た。他の宿泊者はみな男性で観光で訪問していそうな人は自分ら以外にいなかった。恐らくこの島の主要産業である公共事業に関連して滞在している人たちなのだろう。
なるほど合点がいった。観光で島を訪れる人は手配の段階でドルフィンの方に誘導されるのだろう。自分らの場合自ら手配したのでそんなことつゆ知らずで予約してしまったが、電話口で主人が僅かに戸惑っていたのはそういうことだったのかも知れない。更に今回バイクを借りる時に予約の確認で待たされたのも、主な利用者はドルフィンに集中するから、そっちまで聞きに行っていたのかもしれない。なんか色々繋がっちゃった。
まぁ、他の宿泊客がどう思うかは知らないが、自分らはこの飾らない感じが大好きだ。部屋も綺麗だし食事も美味しいしで何ら不満もない。
話が逸れるが上述のとおりこの島は一次産業が盛んではない。他の島では大抵島民は一次産業で生計を立てることを基本として、それを補うように第二次産業や第三次産業に従事する人がいるような構成になる物だが、小笠原諸島の島々は公共事業の関係者かあるいは観光業などの第三次産業に従事する人の割合が多いのだ。特に島のインフラ維持のために滞在している公共事業関係者は他の島と比べると圧倒的に多い。
よく言えば東京都ならではの手厚さだと思うのだが、逆に言うと何のためにインフラ維持をしているのか、と言う部分がよく分からない。
旅行者だからと言って島の観光面の上っ面を眺めるだけではなく、こうしたリアルな部分の一端を垣間見れたことはなかなか興味深い。