小笠原上陸【26】(2008/09/14)
ブルースカイビッグホースのジャングルナイトツアー:
食事が済んだらぼちぼちナイトツアーの時間が近づいてきたので再び宿を出発。
ナイトツアーの集合場所は父島ビューホテルで近所らしいので腹ごなしの散歩を兼ねて歩いて向かった。
ホテル前の広場に受付があったので予約の旨を伝えて代金の支払いを済ませる。そのあと出発まで広場で待機といことだったので適当な椅子に腰かけてその時間を待った。程なく今回のツアー参加者が続々と集まって来て広場が徐々に賑やかになった。そうして集まってきた人たちはほぼ全員が顔見知りらしく、なんかみんな和気あいあいとしている。ということはみんな昼間のカヤックツアーから参加している連中ということか。
夜だけの参加である我々はちょっとアウェーを感じずにはいられなかった。なんとなく気まずい。何なら他の参加者があの人たち誰?みたいな目で自分らを見ているような気すらする。
広場にスキンヘッドのお兄さんがいて、みんなから「ピッコロ大魔王」と呼ばれて慕われている。どうやらこの人はスタッフの1人の様だ。残念ながら彼の名前は失念してしまったが、彼だけは自分らにも気さくに話しかけてくれてアウェーの不安を和らげてくれた。ただ会話はもっぱら下ネタだったが。
ほどなく全員集合が確認されマイクロバスに乗り込んで出発。途中、扇浦の辺りで車が停まった。この辺のホテルに宿泊している参加者もいるらしい。だが我々の乗っているマイクロバスは既に満員である。どうするつもりかなと思いながら様子を伺っていたら主催者の治郎さんがハンドルを握りながら窓を開けて、彼らに、
「スクーター借りてるんでしょ?じゃあ、後ろからついてきて。」
はなからそうするつもりだったのか。なかなかいい加減な人だ。後ろからついていくのが自分らだったら大いに困惑したところだった。
マイクロバス+スクーター後追いのキャラバンはさらに進んで、やがて都道からどこかの枝道に入った。それから少し進んだ辺りで再び車を停めた。どうやら到着らしい。降りてくださいと促されて車を降りた。
降りたのは街灯すらない場所だった。たまたま今日が中秋の名月で見事な満月が我々を照らして暗闇に薄い影を作っている。そのくらいには明るかったので参加者がどこに立っているのかくらいは判別できたが、これ新月の時だったらちょっと怖いかも。。。
暗い中で周りを見回すとビニールハウスのようなものがあるのが見えた。ということは亜熱帯農業センターか。
一行は適当に固まりながら治郎さんについてぞろぞろと歩いた。途中途中で治郎さんが島の植物などの説明をしてくれる。ほどなく立ち止まって、
「ちょっとこの植物、カメラでフラッシュ使って写してみて。」
と言われた。そう促された理由が分からないまま言われたとおりに撮影してみたら、
こんな写真が撮れた。紫がかったピンクのような花びらをつけた木である。これが何か?とみんなが写真を撮りながら頭にクエスチョンマークを浮かべている。
続けて治郎さんがこの植物を懐中電灯で照らした。そしたら紫だと思っていた花はなんと真っ赤な花だった。なぜかカメラで撮影すると紫がかって写ってしまうのだそうだ。カメラのセンサーが植物の持つ波長を誤解して色味が変わってしまうのかもしれない。不思議なこともあるもんだ。
オガサワラオオコウモリ:
みんなが植物の撮影に興じている間、上空をバサバサと何かが羽ばたいている音がずっと聞こえていた。
どうやら小笠原の固有種かつ天然記念物であるオガサワラオオコウモリの羽音らしい。オオコウモリと称するだけあってコウモリのそれとは思えない巨大な生き物である。羽を伸ばすとなんと1mにも達するそうだ。
小笠原に数多くある固有種のひとつだが、唯一哺乳類の固有種であるらしい。島は過去に大陸と地続きになったことが一度もない切り離された環境なので、生息する生き物が固有種として独自の進化を遂げている。といっても最初からここにいた訳ではなくどこからから運ばれてここに定着している訳だ。運ばれると言っても人類が航海をし始めるよりは遙かに前の時代なので、たどり着く手段と言えば風に運ばれるか波に流されるか自らが飛行できるかのいずれかしかない。
そうした条件に適合するものと言えばもっぱら植物、次いで長距離飛行が出来る鳥類や虫。あとは鳥の糞や流木などに紛れ込んだ虫などである。当然哺乳類はそのほとんどが条件に合致しない。その中で唯一哺乳類でありながら空を飛ぶことができるコウモリだけは島にたどり着くことができたという訳だ。
同様の理由からヘビはたどり着けなかったので島にはヘビがいない。そのおかげで夜中でも安心して森の中をウロウロする事が出来る。
小笠原にたどり着いたコウモリは他に天敵がいない環境でどうなったかというと、上述のとおり巨大化したのだ。巨大化すれば動きも緩慢になる。それでも食われなかったのだからまさに天国だったのだろう。
ところがこのオオコウモリは島でも徐々に生息数を減らしている。現在は100匹あまりとなってしまったそうだ。人間が入ってきてあちこち開発を進めた結果、生息域が狭まってしまったからというのもあるが、そもそもあまり天敵のいない島に長く暮らしていたからか、性格がおっとりしてしまい事故にあって死ぬケースが結構多いそうだ。
なにせ懐中電灯で照らすと、びっくりしてそのまま落下することがあるくらいのどんくささだというのだから相当なものだ。
治郎さんがバサバサと羽音が聞こえる方に懐中電灯を向けたら、電線にとまっているオオコウモリの姿が見えた。あれがオオコウモリか。といっても流石に遠くてその姿形が認識できるほどではなかった。せっかくなのでカメラを構えたが、目視がギリギリのものを写真に撮るのはなかなか苦労した。
あまり動かないことが功を奏して、カメラを長時間露光することでどうにかそれらしい姿を撮影できた。隣の木や電線の太さと見比べて欲しい。いかにデカいコウモリであるか分かると思う。治郎さん曰くこんなにあちこちでバサバサ羽音を立てているのはとても珍しいことらしい。普段はここまで飛び回ることはないそうだ。満月を見てドラキュラの血がうずいているのだろうか。
とは言ってもまぁ、我々はその様子を毎日観察している訳ではないので、そうなんですねとしか言えない訳だが。
珍しい生き物が見られたのでもう満足である。やっぱりナイトツアーはこうでなくちゃ。
ちなみにオガサワラオオコウモリの脇に映り込んだ星が尾を引いている。撮影している時は全く気が付かなかったが流れ星があったらしい。オオコウモリと流れ星何ともロマンチックな組み合わせだ。