小笠原上陸【23】(2008/09/14)
父島散策 - 和紙っ魚ギャラリー:
案の定避難が済んだあと1分もしないうちに本降りとなった。危なかった。
雨宿り中はやることがないので道路の写真を写してみた。父島の道路は母島とは異なりアスファルトで舗装されている。綺麗な2車線の道路と良く整備された法面を見ていると、遠く離れた離島にいる感じがしない。なんなら多摩とか八王子あたりのニュータウンの裏手あたりにこんな道がありそうな気すらしてくる。
この雨は恐らく通り雨だと思うのでほどなく上がるはずだ。上がってくれないと先に進めないので早い所上がってほしいところだ。早く上がれと念じながら空を見ていたら5分ほどで雨脚が弱まってきた。だがそこからすっきりとせず往生際の悪い小雨が降り続いていた。
5分ほど待ったが一向に上がる気配がなかったので、カミさんがもう先に進もうよと言って来た。まぁこのくらいの雨なら濡れると言ってもたかが知れているし、濡れて困るものはデジカメくらいしかないから確かに散策を再開した方が良いのかもしれない。ということで再び走り出した。
走り出してすぐに和紙っ魚(わしっこ)ギャラリーという店があった。自分はこの店の存在は知らなかったのだが、カミさんはガイドブックで見て知っていたらしくちょっと寄ってみようよと誘われた。
じゃあ雨宿りを兼ねてちょっと覗いてみるか、ということで店に入ると小ぢんまりとした空間の至る所に和紙で作られた様々なオブジェが飾られていた。その真ん中にちょっとしたテーブルがあって、数人の先客がコーヒーを飲みながら談笑していた。
我々の入店に気づいた彼らからあんたら誰?みたいな視線を向けられた。談笑していた中の1人がこの店の店主で、雨降ってきちゃいましたね・・・どうぞゆっくり見ていってください。と声をかけてくれた。
では、ということで作品を拝見させてもらった。作品は店名のとおり和紙で作られた魚のオブジェである。魚の形に骨組みを作って、そこに和紙を貼って彩色した後にニスを塗って固めたものらしい。美術品を愛でる目が養われていないので、その見所をご紹介することはできないが、素人目にもなかなか精巧に作られていることがわかる。
軒先にコーヒーの文字を見つけ、雨が止むまでここで作品を鑑賞しながらコーヒーを嗜むなんてちょっと優雅じゃない、なんて思いながら入店したわけだが、小さな店内の小さなテーブルはすでに先客が居座っているので我々が着席する余地はなかった。先客たちは店主と顔見知りなのか和気藹々と会話が弾んでいる。退店しそうな雰囲気が全くなかったので作品をひととおり眺めて早々に退店した。
店内の雰囲気に気圧されてカメラを出すことを憚ってしまい写真は1枚も撮らなかったが、精巧に作られた作品群は見事なものだったので撮影しておけば良かったかな、と後になって後悔した。
(2025年註:このお店は現在は閉店してしまったようである)
父島散策 - 躑躅山の虹:
結局大した雨宿りもできないまま和紙っ魚ギャラリーを後にして再び小港海岸方向へと進んだ。幸いなことにバイクを走らせ始めてほどなく雨が上がった。多分この先雨宿りできる場所はもっと少なくなるはずなので、これ以上降ってくれるなと空を一瞥した。ひとしきり島に雨を降らせた雲は次第に雲散霧消してまた雲間から青空が覗き始めていた。
小港海岸まであと少しの所まで来たとき、ふとこの海岸は最終日に行こうと思っているジョンビーチ・ジニービーチ(略してジョンジニ)へ向かう時に経由する場所であることを思いだした。また来る場所なら後回しにしてその時間を他の場所の散策に充てた方が良いと思い、結局途中で引き返した。
バイクをUターンさせたらすぐに時雨ダムへ向かう道が分岐している。その道の向こうに虹がかかっているのが見えた。珍しいことに虹は地面すれすれから立ち上がって上空に輪をかけている。虹の絵を描く時はこの写真のように地面から半円形に立ち上がるように描くと思うが、実際に見える虹は建物の陰になってしまったり光の加減で足が地面についていなかったりすることが多い気がする。
こういう虹をリアルで見るのは初めてかもしれない。しかもその足がかかっている場所はここから100m位しか離れていないように見える。なんならあそこまで行けば触れることができるんじゃないかとすら思った。
実はこの写真を撮影した場所をずっと失念していた。当時はそれを思い出す手立てがなかったのだが、今回記事のリライトにあたり、これがどこで撮影されたものか気になったのでグーグルのストリートビューでチェックして見た。
そしたら同じ景色を見つけることができた。上の写真だとグーグルカーのカメラアングルが微妙に違っていて同定が難しいが、手前の橋や奥に続く道のカーブ具合が同じなので、ここで間違いないだろう。
ちなみにストリートビューで道の奥の方へと進んだ画像がこちら。自分が撮影した写真と同じ特徴的な形の山が見えるので同じ場所であることがわかりやすいかと思う。
正面のひときわ高い山を躑躅山(つつじやま)といい、その左に見える尖った山が時雨山(しぐれやま)である。写真を見ていて違和感を感じないだろうか。
よく見ると山の植生が失われてほぼ禿げ山になってしまっている。あれ?と思ってストリートビューの撮影日を見ると2010年7月と書かれている。自分らが訪問したのは2008年の9月。その間2年経っていない。そんな短期間でこれほどまでに禿げ上がってしまうなんて一体何があった?
ひとつだけ心当たりがあるとすればヤギである。島には野ヤギが結構な数生息しているらしい。で、こいつらが島の植生を片っ端から食べてしまうので、山が裸地化して崖崩れなどの危険性が高まっているというニュースを見たことがある。実はこの問題は父島に限らず伊豆諸島の八丈小島などでも問題になっている。八丈小島はかつて住民がいた頃に飼っていたヤギが住民の離島とともに野生化し、数を大いに増やしたことで崖崩れが多発するようになったそうだ。
東京都はこの問題に対処するためヤギの駆除を定期的に行っているとのこと。躑躅山の植生が復活する日は来るのだろうか。
父島散策 - 夜明道路の虹:
ひとしきり戻って小曲という地区までくると夜明道路との交差点がある。夜明道路というのは都道240号線のうち島の中央部を貫いている道路を指している。この都道240号線自体は父島循環線という愛称がつけられていて、先ほど訪ねようとして引き返した小湊海岸への道や大村地区の裏手にある奥村地区や清瀬地区を周回する道路も同線に指定されている。つまり父島の道路はほぼ都道240号線ということになる。
それはさておき、この夜明道路沿いにも父島の見どころが点在しているので、これからそれらを見に行ってみたい。
曲がって暫く進んでいくと長谷トンネルがある。そのちょい手前あたりでさっき時雨ダムへと続く道から見えていた虹がまだ消えずにかかっていた。
よく見ると虹が2本かかっている。外側にうっすらと色が見えているのが分かるだろうか。慌ててバイクを停めて撮影した。
2本重なるようにかかった虹は昨年奄美大島に行ったときにも目撃している。結構珍しい事象だと思うのだがそれが2年連続で見られるということは何かラッキーの前触れだろうか。