小笠原上陸【33】(2008/09/15)

ドルフィンスイム:


暫しボートを進めていくと後方を見ていた女の子たちが、いた!と叫んだ。それを聞いて照一さんがすかさずボートを旋回させる。

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彼女たちが目撃したという方角にさらに進んでいくと、海面に背びれがちょこちょこと2つ見えた。写真だと分かりづらいがほぼ中央の辺りにその背びれが見えている。

見えているのが2頭なのでさっき話題に出ていた巽島付近で目撃された個体かもしれない。

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そのイルカから10mくらいのところまで船を寄せたら、


「あっちからイルカが来るから、先回りするように行ってみて!」

と指示を出す。それを聞いて準備万端で待機していた3人がすかさず海に飛び込んで泳ぎ始めた。
ボートの上で待機している自分と照一さんにはイルカの背びれがずっと見えている。そちらの方へ向かって進む3人。だが彼女らにイルカの姿は見えていないらしくだんだんと方向がずれて行った。少し泳いだ後、3人が揃って海面に顔を出して首をかしげている。

ボートを近くに寄せて3人を回収。ボートに戻ってきた3人が異口同音に最初は泳いでいるのが見えたんだけど、見失ってしまったと興奮気味に話してくれた。

 

その間にボートの無線機からしきりに誰かが会話している声が聞こえる。その声の主たちはちょっと見つからないですみたいな会話をしていた。どうも我々が第一発見者となったらしい。そこで照一さんが初寝に2頭いましたよと報告した。

その間自分も含めた全員が周囲をくまなく探す。すると自分が見ていた視界の先に1頭の背びれが見えた。

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あそこにいるよ!と声をかけたら、じゃ今度はあっちに行ってみてと照一さんが指さし3人が再び海に飛び込む。人間はいくら頑張って泳いでもイルカの速さについて行くことが出来ない。だからイルカが見えたといっても、その後ろについたらすぐ引き離されてしまうので、イルカの泳いで行きそうな方向を予想してその辺りに先回りするように指示を出す。

それで丁度良く双方が遭遇すればイルカと共に泳ぐことができるという寸法だ。イルカの方が人間に興味を持って人間の泳ぐ速度に合わせて寄り添ってくれたりすることもあるそうだが、そうしてくれるかはイルカの気分次第らしい。

3人は暫く泳ぎ進んで水面に顔を出した。再び近くによって3人を回収。今度はいい感じにイルカの泳ぐ方向に向かっているように見えたが、やっぱり見失ってしまったらしい。どうもこのイルカたちは人間にあまり興味がないようだ。

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再び全員で周囲に目を光らせていると、例の無線でやり取りしていたと思われる他のツアーのボートが1隻、また1隻と我々のボートの周囲に集まって来た。やはり今日この辺りには彼らしかいないようだ。

気が付けば8隻くらいが円陣を組むような形でイルカを取り囲んだ。まるでこれから追い込み漁でも始めるかのような雰囲気だ。だが元々気乗りしていないイルカたちなので全く人間になびく気配がない。逃げないように円陣を張った筈なのに、そのボートとボートの間をすり抜けて逃げ出す始末。でもツアーの主催者の方も必死だ。何とかドルフィンスイムらしきことをしてあげないと、参加者から不満の声が出かねない。

 

だがそうした人間側の必死さがイルカに伝わるはずもなく、のらりくらりと逃げ回られてしまう。カミさんたちも目撃の声と共に海に入って、見失って船に上がってを何度も繰り返している。これが一昨日、母島の宿に居たおじさんが言っていたやつか。ボートの縁は水面から1m弱の高さがあるので、戻る度にそこを登らなくてはならず、何度も繰り返しているうちにメンバーの疲労の色も徐々に濃くなり始めている。でも彼女らもどうにかイルカと泳ぎたい、というその一心で厭わず海との往復を繰り返す。もう3人は運命共同体のように心がひとつになっているようだった。

いやしかし、興味の赴くままに自分もやるなんて言わなくて本当によかった。これはダメなやつだ。

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それから暫くして自分らのボートの横数mほどの所を3頭の親子が横切るのが見えた。お、別の個体だ。
すかさず3人が海に潜る。もう何度となくやっているので手際は手慣れたものだ。

暫くして再びボートに戻って来た3人の表情は明るかった。流石にランデブーは出来なかったらしいが、眼下を通り過ぎる親子の姿を目撃することが出来たとのこと。

 

現地ではようやくイルカを間近に見ることが出来た達成感でボートの上は何とも言えない興奮に包まれていた。今振り返って思えばドルフィンスイムってこういうものなんだっけ?という疑問が頭をよぎらぬこともない。海に入ってくたびれてまで頑張らなくても、泳いでいる姿を見たければ水族館でいくらでも見られる。無粋なことを言っている自覚はある。

照一さんもとりあえず3人が満足できたことに安心したようで、そろそろ行こうかと言ってボート移動し始めた。

 

兄島瀬戸:


ということでボートは今回のツアーの締めくくりに兄島瀬戸へと向かった。さっきまでの興奮がひと段落してボートの上には何とも言えないまったりとした空気が漂っていた。自分もまたイルカを探すことに興奮してしまい、我を忘れてボートの周囲をキョロキョロと探しまくった。結果、軽く酔った。まだグロッキーな状態までは陥ってはいないので、とりあえず遠くの景色を見ながら酔いを意識しないようにした。

ぼんやりと遠くの景色を眺めていたらまた眠くなってきた。気がつくと再びウトウト。何かの拍子で目を覚ましたときに周囲を見たら3人とも思い思いに船を漕いで、照一さんだけがボートを操り続けていた。まぁみんな疲れたよね。

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30分ほどで兄島瀬戸に到着した。兄島側の海岸はキャベツビーチと呼ばれている。なぜそういう名前なのかは不明。キャベツが栽培できるような場所にはとても見えない。

錨を降ろしてここで2度目の自由時間となった。流石にあれだけくたびれた後だからみんなボートの上でのんびりするのかな、なんて思っていたら3人とも再び海に繰り出していった。みんな元気だな。

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ここも北初寝で見た海と勝るとも劣らぬ透明度を誇っていた。そのうえこちらは魚影が濃い。写真のように夥しい魚が群れをなして泳いでいる。これは海中から眺めたらさぞかし楽しいに違いない。

 

ここは父島と北に隣接する兄島との間に広がる海峡である。昨日の散策の際に夜明け道路から見えていた場所だ。瀬戸と付くだけあって潮の流れが速い。

2人組の1人がジャックナイフの練習がしたいと言った。ジャックナイフとは頭を真下に向けてその重さで深く潜るテクニックだ。で、手にしていたビート板を手放してザブンと潜る。20秒ほどで再び顔を水面に出した時にはさっき手放したビート板が5mくらい流れていた。確かに相当流れが速い。実際、毎年のようにここで流されてしまう人がいるという話だ。といっても川ではないのでざわざわとした流れがあるわけではないので、気が付いたら流されている感じだ。

 

帰宅してから職場で小笠原の土産話をしている時に、たまたま一緒に話を聞いていた監査役のおじいさんが、昔小笠原に行ったことがあって兄島の所で泳いで見事に流されたという話を聞かせてくれた。その時はどうしようかと相当焦ったらしい。そりゃ焦るだろうな。結局運よくキャベツビーチにたどり着いて事なきを得たということだ。

その監査役はそういう活発なアクティビティをやりそうな人には見えなかったので、小笠原に行ったというだけでも意外だったが、まさか兄島瀬戸で流された経験を持っていたとは驚きである。そしてよくぞご無事で。

 

ボート上に残った自分と照一さんは、他愛もない話をとつとつとしていた。ふと、そうだと言ってクーラーボックスにしまっておいた弁当の残飯を取り出した。


「ここの魚は、ほんと何でも食うんだよ。」

と言いながら、唐揚げをひとつつまんで海に放り投げた。するとその辺に泳いでいた魚が目の色を変えて唐揚げの周囲にわらわらと集まってその唐揚げを争奪していた。おい、お前ら唐揚げ食べるのかよ。
その行動はまるで鯉だね♪

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やる?と聞かれたので、自分も別のタッパーの弁当を貰って参戦した。沖で泳いでいるカミさんたちの前辺りに投げ込んだら沢山魚が集まって楽しいんじゃないかなと思って狙って投げる。残飯が着水するとさっきと同じようにわらわらと魚が集まる。その姿を見てカミさんが驚いたように顔を上げる。なにこれ、めちゃめちゃ楽しいんですけどw

ゲラゲラ笑いながら調子に乗って残飯を投擲しまくった。もういい感じの撒き餌である。

そうして暫しカミさんたちをからかって遊んでいたら集合の号令がかかった。みんながボートに戻りカミさんに魚が沢山見れて面白かったでしょ?と聞くと、面白いどころか魚が突進してくるから怖かったよ、とぶすっとした顔で言われてしまった。なんだ、面白いのは自分だけだったか。

 

そして20分ほど船を進めたら、今日のツアーのスタート地点である二見港が見えてきた。ツアーもこれでいよいよ終了だ。南島への上陸、東海岸でのドルフィンスイム、兄島瀬戸の川流れ・・・と、父島のマリンレジャーを堪能した訳だが、同時に父島の周囲を1周回るツアーでもあった訳だ。

父島の島内を陸路で進んでも南部や東部には道があまりないので、そちら側の景色はあまり見ることが出来ない。巽島や東島、ハートロックなどを見ることが出来たのもまたとない経験となった。

やがて港に到着しツアー終了。お礼を言って解散となった。いや、いいツアーだった。自分的にはタイミングよく南島に上陸できたことが何よりも得難い経験だった。本当に照一さんにはお礼を申し上げたいたい。

しいて言えば、自分が船酔いしない体質だったらもっと楽しめたのだろうと思うと悔いが残るが。

Posted by gen_charly