九州めぐりと寝台特急はやぶさ乗り納めツアー【6】(2008/11/22)
トンネルの駅:
さて、高千穂まで足を延ばしたからにはもう1か所ぜひとも立ち寄りたい場所がある。一旦阿蘇の方へ戻るように進むと峠越えの直前にトンネルの駅という施設がある。
阿蘇周辺の鉄道地図を見ると、今日午前中に訪ねた南阿蘇鉄道とさっき訪ねた高千穂鉄道の路線がそれぞれが東西から県境に向け線路を伸ばし、どちらも県境の手前で途切れていることに気づくと思う。元々この両線は豊肥本線立野駅と日豊本線延岡駅を結ぶバイパス路線として建設が進められてきた路線であった。
最後その県境にまたがる山脈をトンネルによって克服する計画だったが、1975年にトンネル掘削中に地下水脈をぶち抜いてしまう事故が発生。その地下水脈は周辺の集落の井戸水として利用されていたり田畑を潤す灌漑用水として使われていた物であったため、断水が発生したり農地が干上がってしまうという事態に発展した。まさに現代における丹那トンネルの再現である。
その後の対処が上手くいかず、さらに国鉄の赤字が深刻であったことが追い打ちになって建設が中断し、双方が結ばれる日が訪れることのないままどちらも第三セクターへと移管され、更にその片方はまもなく廃止の憂き目に逢おうとしている。
で、このトンネルの駅は既に完成していたトンネルとその敷地を焼酎の貯蔵庫として活用している施設である。お酒の貯蔵庫として使うだけではもったいない、ということでドライブイン的施設も建てられ沿道の休憩スポットとなっている。
トンネル内は1年を通じて温度が一定に保たれるため、酒の貯蔵場所として理想的な環境となっている。
そのトンネルはドライブインの一角に口を開けていて中は自由に見学することができるようになっていた。そりゃ未成線のトンネルというのだから入ってみたいでしょう、ということで立ち入ってみたら奥の方まで延々と酒樽が並べられてそのまま消失点となっていた。
結構長そうなトンネルである。奥がどうなっているのか気になりはしたが、トンネルの延長が分からないのでどのくらい奥まで行けるのかも分からない。まぁいずれにしても上の写真と同じような景色が延々と続いているだけだと思うので適当な所で引き返した。
そのあとドライブインの店舗にもお邪魔してみた。店内では地元の銘酒が複数銘柄で試飲できるようになっていた。カミさんがそれに興味を示して早速試飲させてもらっていた。試飲と言えば、品評会などでテイスティングをする人は飲み込んでしまうと酔っ払って味の判定が出来なくなるので、口に含んで味や香りを確かめたあとはそれを吐き捨てるという話を聞いたことがある。本来はそうする物なのかもしれないが、酒にこだわりのない一般人が試飲するとなればテイスティングの要素は不要である、というかどちらかと言えばタダ酒の一種だ。喉ごしを確かめるのも重要だとかなんとか。もちろんカミさんも嚥下を前提とした試飲希望だ。
お店側もそれで1本お買い上げとなってくれれば嬉しいので積極的に試飲を勧めてくる。じゃあありがたく、といった感じで試飲を始めたカミさんだったが、言うほど酒に強い体質でもないので、2,3種類試飲したら早くも顔を紅潮させていた。そうなっては味もへったくれもない。
どの酒もおいしい!となんの感想にもならない感想を述べて試飲会は終了となった。もちろん購入には至らず。
きっ茶ポッポ:
それはさておき、このドライブインのもうひとつの見どころに行ってみたい。というか自分の主目的はむしろそっちである。
こちらである。かつて高千穂鉄道を走っていたTR-300形という車両だ。ここのオーナーは高千穂鉄道復旧に向けて尽力されていた方らしく、その縁かどうかは分からないが譲り受けた車両を改装して列車喫茶として活用されている。
ちゃんとレールが敷かれホームも作られている。そのこだわりぶりを見ているだけでオーナーがかなり鉄道に思い入れがある人だということがよく分かる。形だけ列車を置くのではなく、ちゃんとどこかの終着駅に停車中の列車のように見えるよう計算して配置しているようにも見える(よく見ると車止めがないとか違和感もあるが)。
それだけのこだわりを見せているのに、店の名前はきっ茶ポッポというふざけた名前だ。汽車じゃないし。。。そこだけが残念w
折角なのでここで休憩がてら甘味を補給しよう。車両の脇に行くと食券の券売機が置かれていて事前に購入するシステムになっていた。甘味のボタンを押して食券を購入。あくまで食券の券売機なので出てきた紙片は白い紙に印字されただけの味気ない物だった。だがここまでこだわっているのだから、もう一工夫して本物の切符風にすると更に面白いのではないかと思う。
列車の扉の前まで行くと閉ざされた扉が自動で開いて驚いた。いや、それは自動で開くだろう、と思うかもしれないが、鉄道車両のドアは普通、空気の力で開閉を行っているので圧縮空気が必要になる。その圧縮空気を作るコンプレッサーは電車なら電気の力で動くが、この車両はディーゼルカーなのでエンジンを動かして発電を行わないとならない。
だから、エンジンがかかっている気配がなかったので手動で開けるのだろうと思っていたのだ。この車両は自動で扉が開いたので恐らく扉の開閉用のモーターを後付けして電動化したのではないかと思う。
で、そのまま車内へと進んだ。乗客は我々だけだった。改装されていると言っても元の車両の雰囲気をそのまま残していて、エアコンやテーブルが設置された程度の改造に留まっている。元々イベント列車だったこともありラウンジ型の座席などもあって、喫茶室として活用するには案外加工しやすいレイアウトだったと思う。
注文したのはケーキひとつとホットコーヒー、オレンジジュースである。カミさんはそれほど空腹ではないから自分のを少し分けてくれ、と言って飲み物だけのオーダーとなった。
で、そのお味というと、まぁ美味かったが特筆するほどでもない。ケーキは恐らくどこかの工場で作られた冷凍物ではないかと思う。余りこだわりを感じる物ではなかった。もっともそこへのこだわりを求めての入店では訳ではないのでそこは問わない。かつて営業列車に連結されていた食堂車での食事も値段の割に味は普通だったと聞いたことがある。そういう意味では再現性が高いとも言える。
自分は列車の食堂車という物を利用したことがなかったので、一度列車の中でこうしてティータイムを楽しんでみたいと思っていたのだ。それが実現できただけで満足なのである。
ついでに店舗の方を散策していた時に売られていたこちらもここで頂くことにした。瓶詰めの飲み物だが、オロナミンCとか栄養ドリンク位の大きさである。ラベルが何も張られていないので、ぱっと見何者だか分からないが、ベビーコーラという商品である。延岡にある小野商会という所で作られている商品だ。
内容量は150cc位か。本当に一口で飲んでしまえるほどの小さなコーラだが、栓がいっちょ前に王冠になっているので栓抜きが必要。
果たしてそのお味はというと、コカ・コーラと比べるとやや薬臭さがある。と言ってもドクターペッパーほどではなく普通に飲みやすかった。
2,3本買って家でゆっくり飲みたいな、と思ったがそういうことへの出費を快く思わない人が傍らにいるのでぐっとこらえた。
おべんとうのヒライ:
デザートと飲み物で少しゆっくりできたのでぼちぼち先に進むことに。と言っても観光地巡りはこれでおしまい。あとは風呂、夕食、寝床の3点セットを粛々とこなしていくのみ。
まずは風呂。この辺りは阿蘇の山ろくなのできっと良い温泉が涌いている筈、ということで調べてみたら白水温泉「瑠璃」という施設があった。場所は前のエントリーで立ち寄った白水水源の近くである。だいぶ戻る感じになるがそのあとは麓に降りて、明日は天草の辺りを散策する予定なので方向的には問題なし。
この温泉を写真に撮るのを忘れてしまった。スーパー銭湯風の充実した施設が特徴の温泉で、宿泊施設も併設されているそうだ。
お湯はもう、あれこれ書く必要がないほどの良い温泉だった。
そしてお次は夕食。一昨日熊本入りをしてからというもの所々でおべんとうのヒライという店を見かけていた。なんか気になったのでちょっと立ち寄ってみた。
店内はコンビニとオリジン弁当とポッポ(イトーヨーカドーに入っている軽食屋)を足して3で割ったような感じだった(この例えは関東の人にしか通じないか?)。コンビニ要素として雑貨などが売られていて、オリジン要素としてお惣菜の量り売りがある。更にポッポ要素としてレジでお弁当を注文して食べることが出来る。イートインスペースもあって、購入した物を店内で食べることも出来る。
関東地方ではあまり見かけない形態の斬新な組み合わせである。
そんな具合に選択肢が多いので何を食べようか少し迷ってしまった。弁当を頼んでみるのも悪くないなと思ったのだが、量り売りの総菜の多様さに惹かれたので総菜を適当に買い集めて食べることにした。
揚げ物については期待する方が間違ってました、といったレベルだったがもつ煮込みは美味かった。白米を一緒に買ったがほぼもつ煮込みの勢いで食べきったような感じであった。
そして最後は寝床。前述のとおり明日天草方面を散策予定なので、出来るだけそこに近いところまで進んで仮眠したい。
そうして選ばれたのが道の駅有明。そこへ向けて進み始めたのだがいつの間にか24時を回っていた。昨晩も就寝が3時くらいだったのでいい加減眠気がつらくなってきた。
途中、道の駅宇土マリーナというのがあったので眠気覚ましとトイレ休憩で立ち寄り。ところが限界を迎えつつあった眠気は全く解消できず再出発がおっくうになってしまった。もうここでいいじゃないかと脳内の悪魔がささやいている。
いつもなら悪魔の囁きを牽制しに来る天使がいるはずなのだが、このときはどうやら不在だったか就寝済みだったらしく全く出てくる気配がない。それならもういいやとここで仮眠となった。