四国・山陰初日の出【16】(2009/01/03)

大根島の溶岩トンネル - 竜渓洞:


おじさんの車について数分ほど走ると畑の真ん中を貫く広い道の脇で車が停まった。傍らには地下道に入るための入口のようなものがある。

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傍らに解説板が立っていてここがそのもうひとつトンネルらしい。

車を降りると先に降りていたおじさんからノートを差し出され記入を求められた。見学者の記録をしているとのことなので名前を記入。そのあとおじさんの自己紹介があった。おじさんは門脇と名乗った。島根県の自然観察指導員をやっていらっしゃるそうだ。

続けてこの島のあらましについて説明があった。この項の冒頭で溶岩と言う割に火山らしき物がない、と疑問に感じたことを書いたが、この島は間違いなく火山島であったそうだ。ところがこの火山から噴出した溶岩は非常に粘性の低い物だったらしく、どんどん流れてしまい高く積み上がることのないまま平たくなったのだそうだ。

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「あそこが、この火山の山頂です。」

言われて視線を向けた先に家の2階屋根よりちょっと高いくらいの小高い丘が見えた。これ?いくら何でも低すぎだろう。。。
帰宅後で調べたらあの丘は大塚山と言い標高は42mほどしかない。薄く平たく広がったため島の平均斜度は3度以下だそうだ。それはもうほぼ平坦と言っていい。

それほどまでにさらさらな溶岩を噴出するものだから溶岩は川のように流れていく。ハワイのキラウェア火山のような感じだろうか。日本にもあったんだね、そういう火山。で、溶岩は地表に出てくると冷えて固まる。噴火の間隔が長いと溶岩の表面が固まってやがて地表に噴き出さなくなる。だが、地下にはまだ温度が高く溶岩が溶けたままの部分があるのでそこで噴出した溶岩は地表に到達することなく地下水のごとく地中を流れ下るようになる。

そしてやがて噴火が収束してその溶岩が流れ切ると、その通り道だった部分がトンネルとなって残る。これがこの空洞の正体である。

この竜渓洞(りゅうけいどう)は道路を整備している時に偶然発見されたものだそうだ。そういう過程を経て形成されたものなので見つかっていないだけで島には他にも多数こういう場所があるはずだと言っていた。

 

続いて洞窟の中の生物相についての説明が始まった。基本的に洞内の生物相は極めて貧弱であるが、僅かに生き物が生息しているそうだ。用意されたパネルには白いエビと茶色の虫の写真が貼られている。白いエビはキョウトメクラヨコエビと言い、茶色の虫はイワタメクラチビゴミムシと言うそうで、洞内にごく少数が生息しているとのこと。

土がなく他の生き物もいないので彼らの栄養となるものは殆ど存在しないのだが、たまに天井から落ちて来るコケなどを食べて生きているそうだ。そのため大きく成長することはなくあまり繁殖も出来ないらしい。

特に、イワタメクラチビゴミムシは完全にここの固有種になっているが、これまでまだ7匹しか見つかっていないそうだ。まさか一子相伝とか分裂増殖ということはない筈なので、洞内をくまなく探せばもう少し数がいるのかもしれない。ただいずれにしても目撃例が少なすぎるので本当にごくごく僅かな数しか生息していないことは間違いないだろう。

「メクラという差別用語が入ってますがそういう名前のエビです。一番最初に京都で発見されたからキョウト、目が退化しているからメクラ、体が横向きでそのままの格好で泳ぐのでヨコエビ、でキョウトメクラヨコエビと長い名前がついています。」

京都で見つかったヨコエビがここまで辿り着くのはまず無理だと思う。中海や島内の水源にいたヨコエビが何らかの偶然で洞内に入って独自に進化したものではないかと思う。そうだとしたら別の生き物とした方が適当な気もするが、別の場所で全く同じように進化するというのも偶然にしては出来すぎている気がするので、本当に京都からやってきたのかもしれない。

上に挙げた生き物にはどちらもメクラというワードが入っている。洞窟内で暮らしていると光を感じる必要がないので、目が完全に退化してしまっているのが特徴だそうだ。

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門脇さんからそれでは中に入ってみましょう、と声がかかって懐中電灯を手渡された。
ガリバートンネルのような入口は柵で封鎖されているが、鍵を開場して門扉を開く。

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トンネル内は貴重な生態系となっているうえ、外部からの生物の侵入に対して非常に脆弱なので、内部への進入にあたって長靴に履き替えなければならない。

「その辺の長靴から足に合うものを適当に選んで履き替えてください。」

と言われたが、ご覧のとおりいい感じに散乱している。言われるがまま適当な物を選んで履き替えたが、薄暗い所で選んだので左右がバラバラだったかもしれない。。。w

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長靴に履き替えた後、門脇さんについて階段を降り始めたらすぐに立ち止まった。

階段の壁は溶岩を積んだ石垣になっているが、その表面に苔がはびこっている。

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他の部分も見るよう促されて周囲に目を凝らすと、光が届く手前部分にはカビなどが、少し薄暗くなった辺りには苔が、そしていよいよ暗くなるあたりにシダ植物が生えている。

「溶岩を積んだものなので土が有りません。にもかかわらず外から入る光と湿気の加減によって、たったこれだけの短い空間で生育する植物が分かれます。これも貴重なものです。」

本来植物は光で光合成を行うため日の当たる所ほどよく生育する。だがここのシダは暗い所に生えている。その理由は後で知ることになった。

Posted by gen_charly