四国・山陰初日の出【17】(2009/01/03)
竜渓洞内部:
階段を降り切ると人の背丈より少し高いくらいの広間に出た。前後は暗くて見通せないが20mくらいの空間のようだ。その一部分に屋根付きの通路が設けられている。天井から落ちる水滴を避けるためかと思ったら天井の崩落から身を守るためのものだそうだ。また物騒な。。。
というのもこのトンネル、周りの壁を構成する溶岩が一枚岩にはなっていないのだそうだ。いわゆる洞窟というと通常は鍾乳洞だがあれば石灰岩の塊に水が侵食して穴が開くことで作られる物なので壁や天井の材質は均一になっている。ところがこの穴はバラバラのタイミングで噴出した溶岩がまちまちに冷えたものなので1つの塊になっていないらしい。
なのでいつ崩落してきてもおかしくないそうで、万一の崩落の時に身を守ることができるよう文化庁と交渉して設置してもらったのだそうだ。そのため屋根の素材も強靭なポリカーボネイトで出来ていて、これがあれば少々の落石なら十分耐えられるとのこと。
その通路に沿って奥の方へ進んでいくと屋根が途切れる。その先は天井がひときわ低くなっていて、落盤の危険があるのでチェーンで封鎖されていた。落盤の危険があるからというのが主な理由だが、この奥にある水たまりに件の貴重な生物がいるらしく、それを保護するためでもあるそうだ。
見える範囲にも数10cm程度のちょっとした水たまりがある。門脇さんがその水たまりを懐中電灯で照らしながらヨコエビがいないか探したが見つからなかった。
続けて今度は天井を照らす。溶岩の表面にぽつぽつとしたイボのようなものが見える。これは溶岩のしずくの跡だそうだ。
こうして垂れ下がるものと言えば鍾乳石だが、溶岩は水でとけるようなものではないので溶岩がトンネル内を流れ下った後、周囲の溶岩がいよいよ冷え固まる時に垂れたしずくであるとのこと。
溶岩のしずくの説明のあとトンネル内を照らしている時に一瞬キラリと光る糸状の物が見えた。門脇さん曰くこれがさっき入口の奥に生えていたシダの根だそうだ。
シダはどうにか土のあるところへ辿り着こうとトンネル内に根を伸ばしてみたが当然そこには土などない。だが洞内には湿気があるので根に結露した水分を養分としているのではないかとのこと。そこで枯れてしまわないのがたくましい。
今度は通路の反対側の端までやって来た。こちらも通路の終端部分で天井が一段低くなっている。懐中電灯で照らすと中の奥行きはあまり深くなく、円形の空間になっているのが見えた。
ここは神溜まりと名付けられた空間で、かつての火口だった場所だそうだ。この火口も当初は地表に面して溶岩を噴出していたのだが、噴き出す力が弱かったので、やがて表面が冷えて固まりフタが被さってしまった。普通の火山なら溜まったガスやマグマを噴き出す力によって表面を吹き飛ばして再噴火するのだが、ここの噴火口はフタを吹き飛ばすだけの破壊力がなかったのでそのまま地中に溶岩を噴出して、そのまま海の方へこのトンネル内を流れ下って行ったのだという。
こうした地中の火口を目にすることができるのは非常に珍しいそうだ。ただそうして出来上がったフタなので非常に薄いらしい。薄い所では地表から数10センチほどの厚みしかないのでうっかり踏み抜くことがないよう、この神溜まりの上にある地表部分には花壇を設けて立ち入りできないようにしているのだそうだ。
ちなみに最初に入口の様子だけ見た幽鬼洞の方も同じようなトンネル構造になっているが、あちらは溶岩ではなく溶岩中の火山ガスの気泡が寄り集まって出来た空洞であるらしい。内部の構造や痕跡によってその違いが分かるらしい。
説明がひとおり終わって質問タイムになったので、さっき周囲を見回していて気づいた壁の色の違いを聞いてみた。溶岩の種類が異なるなどで色が違うのだろうと思ったのだが、
「アナタは文化庁にケンカを売りましたね(ニヤ)。さっきも話しましたがここの天井は非常に脆いので、見学者の安全対策をお願いしに文化庁に行ったんです。そしたら天井をモルタル(だったかな?)で固めるってことになったらしく、いつの間にか少し塗られてしまいました。慌てて霞ヶ関まですっ飛んで行って『どれだけ価値のあるものか分かってやっているんですか?』と怒鳴り込んで止めてもらったんです。それからすったもんだあって、最終的にこれ(ポリカーボネイトの屋根)を設置してもらったんですが。。。塗るにしてもせめて色を合わせるとかしてくれればよかったのですがね。。。」
と、悔しさを吐露した。もうこのモルタルは剥がせないのだという。そりゃ悔しいだろうなぁ。。。
「こんな事をやっているから高松塚古墳の壁画でもあんな失態をしでかすんです。」
と呆れ顔だった。ちなみに高松塚の失態というのは、今から40年程前に奈良県の高松塚古墳の石室内に極彩色の壁画が発見され、大ニュースになったことがあるのだが、文化庁はこれの保存管理を適切に行わなかったためやがてカビが生えたり退色したりする事態になった。
長らく内密にされていたが、近年マスコミによってこの事件がスッパ抜かれて明るみに出てしまい、文化庁が大いに叩かれた事件である。詳細はこちら。
そうして見学を終えて再び外に出てきた。地上は単なる日常そのもののなんてことない農村の風景が広がっている。さっきまでこの地面の下にある別世界を見ていたわけだが、その日常と非日常のコントラストの差が大きくて思わずため息が漏れた。
それにしても改めて平坦な島だ。ここが火山の山体にはとても見えない。奥に見える山地は本土の島根半島の山なみである。
地上に戻ったところで見学は終了となった。門脇さんにお礼を言って解散。
しかし、単なる通過地点のひとつだった筈が思いのほか濃ゆいスポットへの遭遇となった。偶然とはいえ知的好奇心を大いに満たすことが出来て満足である。
※2025年現在は事前にガイドに申し込んで見学をするシステムに変更になっているようだ。詳細はリンクを参照のこと。
さて、思いがけない見学イベントに時間を費やしてしまい、もう間もなく夕方に差し掛かろうとしている。鬼太郎ロードも見ておきたいので早々に境港へ移動を開始。