岩手のばあちゃんの葬式【2】(2009/08/17)

猊鼻渓の舟下り:


船に乗り込み一角を陣取ると、少しして船頭が乗船して出発となった。

20090817_143934

上の写真でも分かるとおりこの船は手漕ぎである。といってもオールのようなもので漕ぐわけではなく、物干し竿のような長い棒で川底を突きながら船を押し進めていく。

船頭が緩やかな動作で川底に棒を差し込みその反動で船が音も立てずにゆるゆると進む。

20090817_144952

水面はご覧の近さ。すぐ下に魚が泳いでいるのが見える。ウグイだろうか。
船が通ると誰かしらがエサを撒くから、それを学習して船が近づくだけで集まってくる。

20090817_145119

弟からエサを少し分けてもらったカミさんがそこいらに投げてみる。魚が餌を目で追うイメージはあまりなかったのだが、投げた放物線にすぐ気づいてその着弾予定地にすぐさま集まる。意外にクレバーなものだ。

そして着弾と共にエサの争奪戦が繰り広げられる。バシャバシャと一瞬だけ賑やかになるが、やがて誰か一匹がエサにありつくとすぐにちりぢりになっていなくなる。なんだかんだエサを手に楽しんでいる。やりたいなら素直に買っておけばいいのにw

20090817_150846

進む船から見える両岸はほとんどが切り立った崖になっており、一部は木が茂る斜面のようになっている所もあるが、ほとんどは足がかりすらなさそうな絶壁だ。まさしく渓谷の名にふさわしい有様だが、それにしては水流が穏やかすぎるし川底に凹凸が少ない。こんなゆるゆると流れる水がこれほどまでに深い渓谷を形作るのに一体どれだけの年月を要するのだろうか。

一関にはもうひとつ厳美渓という非常に有名な渓谷がある。あちらの方は栗駒山の火山噴出物で出来た地層を削って形成された渓谷なので、奇岩が続いており見るものにとても荒々しい印象を与えるが、それでも渓谷の深さでいえばここよりも浅い。まさに静と動である。

20090817_145835

そうした絶壁の回廊のような水路の途中に大きな洞穴があいていた。その中に毘沙門天が祀られている。今でこそこうして船から気軽に見物できるが、その昔には人里離れたこんな場所にこそ鬼や神様が根城を築いていたのだと考えられていたのかもしれない。

 

ふと、船に乗るまであまりの暑さに盛大に噴き出していた汗がいつの間にか引いていることに気づいた。周辺は盛夏の真っ只中であるが、ここは陽射しが遮られるうえ川の水流が熱気を奪うらしく心地よい気温になっている。まさしく避暑である。ずっとここでのんびり過ごしたい。

谷間を涼風が吹き抜けていく。ゆったりと進む船に揺られていると意識が遠くへ行ってしまいそうになる。ぼんやりと風景を眺めていると、ばあちゃんが亡くなったというのに観光なんかしてて不謹慎かな、という思いが脳裏をよぎった。だが、ばあちゃんは前述のとおりひょうきんな人柄で気品といったものとは対極にいるような奔放な人であった。もちろん厳しい時代を生き抜いてきた人なので厳格なところもあったのだが、まぁ基本は自由な人だった。なのでもし今、話をすることが出来たなら、やっぱり「いってこさい(行ってきなさい)」と言われたような気がする。勝手な解釈に過ぎないがそう思うことにした。

20090817_150837

やがて船は川岸が広く開けている所に差し掛かり、そのまま川岸に乗り上げるようにして止まった。ここで船を降りて散策の時間となるそうだ。時間は20分ほどとのことで我々も船を降りて散策を始めた。

20090817_151747

散策といってもそれほど広いエリアではない。川がS字にカーブするところの内側にできた砂浜を歩き回るだけだ。手前もその先も断崖に阻まれているのでここからどこへ行くこともできない。その2つの陸地を結ぶように木橋がかかり対岸へ渡ることができる。そのカーブの向こうに見上げる高さの絶壁がそそり立っている。ここが大猊鼻岩という猊鼻渓きっての観光スポットとなっている。

この岩もまた恐ろしく平らな絶壁だ。この辺りの地質は石灰岩になっていて猊鼻渓の裏手のあたりには鉱山が広がっている。石灰岩は硬い岩石なので浸食される過程で崩壊などが起きなかったのだろう。

 

運玉:


20090817_152056

橋を渡った先にある小さなお堂の前にマス目状に仕切られた小箱が置かれ、そこに小石が並べられているのが見えた。近寄って見ると小石だと思ったものは素焼きの陶器のようなもので、運玉というらしい。この運玉を対岸に見える小さな穴に向けて投げてうまいことホールインワンすれば祈願成就だそうだ。納まる運玉の数がマスによってまちまちだが1回100円とのこと。かわらけ投げの亜種のような物だろうか。

運試しならやってみようということでひとマス分をつかみ取る。数は6個ほどあった。

20090817_152604

川の対岸に見える涙を流す目のような場所がその穴である。ご覧のとおり川幅は5,6mほどなのでフルスイングで投げれば容易に対岸までは届くが、狙いを定めてコントロールするとなると話は別。

まず最初に奥さん連中が投げる。レディファーストという体だが、先に投げさせてどのくらいのコントロールを要するのか見定める意味合いもある。だが奥さん連中はコントロールを気にするあまりピッチングが弱くなってしまい、対岸に届くことなく水面に落下してしまった。

続いて弟の番。弟はガテン系なのでガタイが良い。俺に任せろよ的な笑みを浮かべながら投球。だが壁に衝突、運玉が粉々に砕けて水面に落下。そんな砕ける程の球速はいらんてw

そして自分の番。3人から真打ち登場の時のような視線を向けられる。待て、自分は先天性ノーコン症を患う者ぞ。何を期待しておるのか。
期待しないでね、という表情をしながらおもむろに投げる。もちろん入るどころか全然明後日の方向へ運玉が飛んで行ってあっさり終了。

なんかばかばかしかったが、身内の葬儀に来ているのだという重苦しい現実を忘れられる楽しいひと時だった。
それから来た道を戻って船の場所へ。丁度20分きっかり。あまり見残しを感じることもなく程よい時間配分だった。船に乗り込むとほどなく出発。

20090817_154246

戻り道では船頭が猊鼻追分という小唄を披露してくれた。船頭はなかなかの美声の持ち主でその声は谷間に良く響き渡った。
帰り道は途中の立ち寄りもなかったので、船頭の歌が終わるのとほぼ時を同じくして出発地点まで戻って来た。

猊鼻渓の舟下りは自分が幼い頃に一度連れて来てもらったことがあるのだが、あるという記憶があるだけで雰囲気などは一切覚えておらず、いつかもう一度行ってみたいと思っていた場所だった。それだけにその機会に恵まれたことがありがたかった。

下船後、自分は皆と少し離れた場所に移動して一服。広々とした場所で吸うたばこは実に美味い。で、吸い終えてみんなのいる所に戻ったら、カミさんがニジマスの塩焼きにかぶりついていた。いつもそういうの買わないくせに当てつけ?

しかも多少でも残しておいてくれたらいいのに自分が食べる分はほとんど残ってなかった。いじけるぞ。

Posted by gen_charly