富士山に登ろう【5】(2009/09/05~09/06)

八合目へ:


これまで何度も日の出館は標高が低い所にあると書いたが、それは富士山の標高と比較してという話で、日の出館自体は標高は2800m付近にある。つまり既にそこいらの山よりも高い位置にいるのだ。

五合目に到着してから既に8時間以上経過しているので、高地順応は十分すぎる程できているはずなのだが、登り始めたらすぐに息が上がり始めた。なのでつづら折りの登山道を2つほど折り返すごとに小休止。他の3人はもどかしそうにしているのがありありと分かり、、、プレッシャーを感じる。

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特に女子チームは身軽だ。もう何度も登りつめている登山道なので勝手を知っている感が凄い。それを向こうに眺めながら着実に歩みを進めていく。
次のトモエ館で軽く休憩。もうバテ始めた。。。荷物を降ろして一息入れながら、リュックからお菓子を取り出して食べる。これはカミさんから伝授された高山病にかからないための秘策だそうだ。隙を見てちょいちょい食料を補給していると疲れないらしい。ほんとかなという気もするが、神頼み的に2、3口に運んだ。

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再び登り始める。少し早めに山小屋を出たので、まだ前後に登山をする人の姿はまばらだ。おかげで心置きなく自分たちのペースをキープしながらの登山ができている。まぁ、他の3人のペースにはやや引きずられているが。

女子チームからこんなに快適な登山は初めてだと好評だった。

 

片頭痛:


一方、自分の体調は徐々に悪化の兆しを見せ始めていた。最初に自覚したのは肩の凝りと舌の下部の張りである。まだその時点では休憩して息を整えると程なく落ち着いたのだが、高度を上げるにつれ、右のこめかみのあたりが重たくなってきた。。。やばい、片頭痛にかかるかも。。。このタイミングでか。

自分の場合片頭痛を発症すると、頭痛薬を飲むか1時間程仮眠すれば大抵は回復する。だが今はその頭痛薬を持ち合わせていない。仮眠が取れないとどんどん悪化して、やがて吐き気を催したりしながら、最終的には動けなくなってしまう。そこまで行くともはや手遅れで長時間の睡眠をとらない限り回復しない。身動きが取れないので横にならざるを得ず、横になったら気を失うように眠ってしまうので、今それになったら下手すると凍死への片道切符となりかねない。

一応、まわりに3人同行者がいるので最悪の事態には至らないと思うが、いずれにしても遭難に等しい状態となり、みんなに迷惑をかけることは避けられない。なので何としても遭難で搬送されることは回避したい。休み休み進んでできるだけ負担をかけないようにしようと思い、山小屋に着くたびに休息をとることにした。ただし山小屋の外で。山小屋も商売なのでタダで中には入れてもらえずそうせざるを得なかった。だが外は既に10度以下まで気温が下がっており、5分もしないうちに寒さが堪えてくる。

他の3人はただじっと自分の休憩を待っているだけの状態なので、しきりに寒い、、、という声が聞こえてくる。自分が足を引っ張って皆を待たせることに罪悪感を感じる。まだ何とかなりそうな気もするので気力を振り絞って登山を再開。

 

だが、その無理が裏目に出たらしく、それまで予兆の範囲に留まっていた片頭痛がいよいよ本気を出し始めた。確か東洋館だったと思うが、その山小屋に到着するころにはいよいよグロッキー状態になっていた。軒先に設置されたベンチに腰掛けたらもう身動きが取れなくなってしまった。座っていると意識がだんだんと朦朧としてきて思考能力が0になっていく。いっそこのままここで横にならせてくれと体も脳も訴えている。

いよいよ寒さをこらえきれなくなってもう1枚服を羽織ることになった。3人はさっさと着替えを済ませるが自分は手が動かない。3人が着替えているのをぼんやりと眺めていたら、先に着替え終わったカミさんから、自分も寒さでやられているのかもしれないから着替えろと言われた。だがリュックの中を漁る気力はもうない。

ボーっとしているとカミさんが自分のリュックの中から1枚長袖を取り出した。それを着るには一旦レインコートを脱がなければならない。緩慢な動作でレインコートを脱ごうとしたら何かの紐に引っかかって脱げなくなってしまった。どうにか脱ごうと少しもがいたのだが、どうやっても引っかかりが取れないのでだんだん面倒になって中途半端に脱げた状態で手を止めてしまった。

それを見かねたカミさんが手伝ってくれてどうにか着替えることができた。介護老人ってこういう感じなのかなと思った。それと同時にこれがもし単独登山だったらこのまま眠り込んで凍死コースへまっしぐらに突き進むのかなとも思った。

何度も自分はここにこのままとどまりたい、もう動きたくないと訴えようと思った。でもそれは全員で登頂を諦めて下山することと等しいので、実際にはそういうわけにもいかない。ありうる選択肢としては下山以外にないが、バスツアーなのだからそもそも下山したところで行く宛てがない。それにみんなはご来光を楽しみにしている。自分のためにそれができなくなるのは心苦しい。

 

10分ほど朦朧としていたらほんの少し気分が楽になったので登山を再開することにした。みんな、ごめん。
それからひたすらゆっくりしたペースで登って本八合目トモエ館にたどり着いた。この山小屋はだいぶ規模が大きく登山道の両脇にいくつかの建物が軒を並べて、道に面したところでは煌々と明かりが灯っている。

ここまでほぼ気力で進んだがもうどうにもならない状況まで悪化していた。少しでも頭を動かすと頭が締め付けられるように痛む。孫悟空が悪さをした時に頭を締め付ける緊箍児の痛みはこんな感じだろうか、という痛さである。そんな感じを想像していただきたい。いただけないか・・・何も悪いことしていないのにどうして?

ベンチに腰掛けてもうどうにもならない。ああ、これで今回の登山は終わるのかな。

 

本八合目トモエ館:


と、暫く自分の元からいなくなっていたカミさんが戻って来た。手にはコーンスープの缶を握りしめている。飲みなと言って手渡してきた。ありがたい。一口すすると暖かさが骨まで沁みるようだった。それを飲みながら山小屋で買ったのだとしたら結構高かったのではないかと思いカミさんに聞いてみたら400円もしたという。高々200mlの缶で400円か。。。流石に富士山価格は格が違う。

実はカミさんがコーンスープを買ったのは単に自分に飲ませようと思ったからという理由だけではなかった。こうして店頭で食べ物を購入すると山小屋の中で食べることができるのだ。外よりは寒さが凌げてよいだろうと思ってそうしたのだという。なんて気が利くいい子なんだ。。。

山小屋の中へ移動しベンチに腰掛けて残りのスープを飲む。ただし外に比べたらマシとはいえ、暖房が入っているわけではないので、快適さからほど遠い。

 

カミさんの気遣いはとてもありがたかったのだが、片頭痛を引き起こしている時は胃袋が働かなくなっている。そこへ重たいものを入れたせいか飲み終わると同時に吐き気が始まった。もう頭を動かしたら次の瞬間戻してしまいそうなので机に突っ伏して目を閉じるしかなかった。

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▲爆死中。。。

後ろにMちゃん、W氏がいる。実は自分のことに精いっぱいで2人のことは完全に忘れていた。だが2人は食事をオーダーしていないので中に入ることができず、ずっと外で待っていた。自分が伏せてから少しした頃にカミさんがそのことに気づいて2人を呼びに行った。自分が再起不能状態で待ち時間が長くなりそうだから、何かオーダーして中で休憩しない?と誘ったら、少しして2人はラーメンを手に自分の隣に着席した。ラーメンか、聞いただけで胃が苦しくなる。。。

Posted by gen_charly