富士山に登ろう【4】(2009/09/05)
吉田口七合目 日の出館:
カミさんが過去の富士登山で宿泊した山小屋は、グループ単位でまとまって寝床を用意されていたらしいのだが、ここは男女別になるとのこと。奥行きが7、8メートルほどの部屋の両側に押入のように2段になった板が敷かれている。左側が男性、右側が女性だそうだ。
その板の上には壁際に枕がびっしりと並べられている。1人あたりの割り当てはわずか50cmほど。ちょっとでも身動きしたら隣の人に触れてしまうほどの幅しかない。しかも上掛けとして置かれている毛布は2、3人で1枚なのでその人数で共用しなければならない。
知らない人と一緒の布団に寝ることを想像してみて欲しい。どう考えても無理でしょこれ。奄美大島へ向かうフェリーも大概狭いなと思ったが、あれとて全然マシだったと思えるほどの劣悪な環境。。。しかも今回ここが満員御礼という。あまりに衝撃的過ぎて写真に撮ることすら忘れてしまった。
自分らに割り当てられた場所に入ると、その隣では早くも寝息を立てている人がいる。そこにお邪魔しますよと添い寝をするかのごとく収まるのか?無理無理。
あと30分ほどで夕食タイムになるそうなので、とりあえず荷物を軽く整理してそのまま山小屋の外に出た。
W氏は今回が初の富士登山であるらしく、寝床の惨状にショックを受けていた。山小屋の前で一服しながら、これじゃ寝られないよなぁ、今晩徹夜で登山かぁなんて言いながら、2人してお通夜みたいなテンションになってしまった。
山小屋の前はさしたるスペースもなく、ひっきりなしに通過する登山者たちを避けながら見送る。上空には雲が沸いてきて気温も少し寒く感じられた。ここでこれだけ寒いなら頂上は結構な冷え込みになるだろう。
そうして時間を潰していたら程なく夕食の時間になったので食堂へ移動。こちらも登山者がみっちりと押し込められて、隣と肩がぶつかるようなスペースしかない。ブロイラーか。
メニューはカレーライスだった。弁当屋のカレー弁当のような容器に盛られて風情は全くない。
具のほとんど入っていないカレー(多分業務用)にパサついた米。正直あまりうまいものではない。富士山の山小屋は黙ってても宿泊客が押し寄せるので客あしらいが横柄だと聞く。確かにこうして留まってみるとそのことを痛感する。
そしてこれは山小屋のせいではないが、部屋の気温が低いのでカレーがあっという間に冷めていく。すると脂が固まり始めて口の中がざらざらする。。。最後は押し込むように食べて夕食終了。
頂上アタック計画:
夕食が済んだら後は明日の下山までフリータイムとなる。ご来光の前に頂上に到達するためにここを何時に出るのが良いのか、メンバーで話し合った。日の出の時刻は午前5時ごろ。自分以外の3人は体力に自信があるので恐らく0時くらいから登り始めても間に合うのだろう。だが、自分がそのペースに合わせたら途中で破綻するのが目に見えている。そこは他のメンバーもこいつのペースを基準にしなきゃならんよな、ということで合意は取れているようだ。
今いる日の出館は前述のとおり七合目の麓側から数えて2番目という標高の低い場所に位置している。すると必然、頂上までの距離は長くなる。しかも単純な距離や標高差、自分の体力との相談のみならず渋滞も考慮しなければならない。ご来光ツアーは富士登山の中でも人気のツアーで、日の出の時刻前後の頂上は大勢の登山客が押し寄せる。いきおい頂上エリアに入り切れない人が登山道に列をなすことになる。
もしその渋滞にハマると頂上に到達する前に日の出を迎えてしまい、何のために登山したのか分からなくなってしまう。なので渋滞する前には頂上に到達して日の出を待ち構えるくらい余裕を見た出発時間としなければならない。
だが渋滞し始める時間などはさっぱり不明なので、館内にいたガイドを見つけて質問してみた。ガイドによると、
- 八合目に宿泊している登山客が出発し始めるとすぐに渋滞になるので、彼らが山小屋を出る2時~3時よりも前には八合目を通過した方がよい。
- ただし山頂にある山小屋は全て閉鎖されていて寒さを凌げる場所がない。気温は0度くらいまで下がり風が吹いているとさらに寒く感じるので、待機する時間はできるだけ短くした方が良い。
- それを勘案するとここを22時くらいに出るのがベスト。
とのことだった。22時という時間を鵜呑みにしてよいものか。自分のような鈍足がいたらもっと時間がかかるのではないか。そう考えると1時間早めたくらいが丁度良い気もする。1時間ならもしそのまま早く着いてしまったとしても何とか凌げるだろう。それに八合目辺りで早着していたらその辺の山小屋で時間を潰すでもよいだろう。
結果、自分の意見が通って21時に出発となった。それまではあのブロイラーのような寝台での仮眠タイム。今から3時間くらいは寝られそうだが。。。
寝台に入ると既に大イビキをかいて寝てるやつがいる。W氏と横並びでおもむろに布団に包まり暫く悶々とするが、ふとW氏が、アカン、こんなん寝られへん、とこぼした。それを聞いて深々と頷く。睡眠はとれなくとも横になっておいた方がいいか、悶々とするくらいならいっそ起きてた方がいいか・・・、しばし悩んだが、昨晩も出発の準備で充分な睡眠が取れていないので、バテないようできるだけ目を閉じておくことにした。
それでも周囲が気になってしょうがないので、マスクとタオルを被って周りの音をできるだけシャットアウトしてみた。寝息や人の動く音が全く聞こえなくなるわけではないが、それでもだいぶ気にならなくなった。するとすぐさま眠りに落ちてしまった。
準備開始:
だが、それからほどなく物音で目が覚めた。物音はW氏が起床した音だった。時計を見ると20時を回ったところで横になってからまだ2時間ほどしか経っていない。一瞬もうひと眠りしようかとも思ったのだが、寝ちゃったら21時の登山開始に合わせて起きられない気がしたので結局自分もそのまま起床となった。周りのほとんどの人は寝息を立てている。もちろん我々の女子チームもまだ起きてくる気配はなかった。
とりあえず出発の支度を整えるために通路に移動した。通路のすぐ先は玄関になっていて、開け放たれた扉の向こうの登山道を時折登山客が通過していく。ちょっと外に出てみると流石に肌寒い。気温は10度くらい。登ってきたときの格好のまま登ったらちょっと寒そうだが、かといってダウンジャケットを着ると登山中の体温上昇で暑くなりそうな気がする。ということでレインコートを羽織っておくことにした。
レインコートをリュックの中からゴソゴソ取り出していたら山小屋のスタッフのおばちゃんから、今出るのはまだ早いよと声をかけられた。分かりましたと返事をしてさらに支度を続ける。
支度が一段落したところで再び外に出てみた。
上空は雲ひとつない快晴。風もほぼ無風。意外なほど天気が安定している。この分だと明日は綺麗なご来光が拝めそうだ。
下方には薄雲の雲海が広がっていて麓の様子はモヤモヤしている。この写真は長時間露光で撮影した。右下に見える火花みたいな光の筋は登山客のヘッドライトの明かりである。
別の方角を見るとこちらも登山道に延々と続く光の帯。彼らは皆登山者である。いかにご来光狙いの人が多いか。
程なく女子チームが起きてきて、それぞれ準備を開始した。それが終わるまで一服をして過ごしていたら21時になった。リュックを背負って登山開始しようとしたら、さっきのおばちゃんから再びまだ早いよ!と忠告を受けた。
自分のペースがのろいので早めに出発しようと思いますと答えたら、特に何も言われなかったので、消極的賛成と受け取って登山を開始することにした。