富士山に登ろう【8】(2009/09/06)
下山:
自分らが頂上に滞在したのは1時間半ほどだった。もう一頻り火口の周囲を進んでいけば日本の最高所となる剣が峰山頂に行くこともできるが、頭痛は治まったものの、相変わらず体の力がちゃんと入らない感じがあるのでやっぱりお鉢巡りは見送ることにした。この後五合目に集合しなくてはならず、その集合時間が11時頃なのであまりのんびりしていられないという事情もあるのだが。
ただ、せっかく並々ならぬ苦労をしながら丸1日かけて登りつめた山頂なのに、もう下山しなければならないのかと思うと少し名残惜しかった。
吉田口登山道は登山ルートと下山ルートが別々になっている。下山ルートの方が全体的になだらかでつづら折りの少ないルートとなっている。
だが、この下山ルートも気が抜けない道である。
足の負担を軽減するためか足元はサラサラの火山礫が敷いてある(もともとこんなものなのかもしれないが)。確かに着地した時の足への負担感はそれほどでもない。ただ、結構急な傾斜になっているので常にブレーキをかけ続ける必要がある。元気ならなんということもないのだろうが、足腰にあまり力が入らない状態なので気を抜くと止まれなくなってしまいそうだった。
なので加速がつかないようにゆっくり進む必要があり、その分姿勢が前のめりにならないようコントロールし続けなければならず、ことのほか膝がくたびれて来る。。。
ゆっくり下山を続けるが、それでも柔らかい地面に足を取られて滑りそうになる。気が抜けない道である。。。
膝のしんどさもそうだが、下り坂だけに登りよりテンポよく進んでしまうので息も上がりがちになる。なのでコーナーごとに息を整え直す必要がある。立ち止まると膝がガクガク言い始める。。。
始めのうちは自分以外の3人が少し前を進んでカーブで待っている感じだったが、歩みがのろすぎる自分にまどろっこしさを感じているような気がする。カミさんが再び気を利かせて、五合目で合流しようと2人に伝えて再び別行動をとることになった。2人は水を得た魚のように身軽に進んであっという間に視界から消えてしまった。体力があるって羨ましい。
再び自分とカミさんの2人になったのでカミさんには悪いが自分のペースに合わせて下山をしてもらう。カミさんは先に進んでコーナー部分で自分を待機するのを繰り返していた。自分がゆるゆるとカミさんが待機しているコーナーにたどり着きそうになると、カミさんは到着を待たずに先に進み始めてしまう。まるでハンミョウだ。。。
後はひたすらそれの繰り返しでこれといったトピックもなく五合目に下山した。下山開始から3時間半後のことだった。
ようやく気の休まる場所までたどり着くことができた。一時はどうなることかと思ったが救助要請という最悪の結末を回避し、自力(皆には助けてもらったが)で無事下山できたことにひたすら胸をなでおろした。
それから程なくW氏らとも合流でき、これで今回のミッションはクリアとなった。なんだかんだ言ってご来光は山頂でしっかりと拝むことができたのだから上出来だったのではないか。自分がそんなことを言ったら他の3人から怒られそうだが。。。
と、W氏がさっきから足を痛そうにかばっている。なんかケガしたのだろうかと思ったら徐に靴を脱ぎ始めた。その足を見ると大きな水ぶくれが破れた跡があった。さっきから沁みて痛いらしい。いやこれは痛いだろう。。。
Mちゃんと下山競争をしていたらしく、意地を張って無理をした末の結果だそうだ。
温泉と吉田うどんのご褒美:
それから30分ほど腑抜けのようになって休憩していたらバス到着のアナウンスが聞こえてきた。バスの方へ移動しいそいそと乗り込む。フカフカのシート、なんて素晴らしいものでしょうw
さて、今回のツアーは下山後に近隣の温泉施設での入浴タイムがある。そこで長めの休憩となるのでそこで一緒に昼食も済ませることになっている。といっても昼食は各自負担だが。
まずはその温泉施設へと向かうわけだが、次の瞬間温泉にワープしていた。眠っていたらしい。到着した温泉は富士急ハイランドの付近にあるリゾートイン芙蓉という施設。温泉といっても風情のある山あいの湯治場というわけにはいかない。見た目スーパー銭湯のような施設だがちゃんと温泉であるそうだ。
ここで温泉と昼食休憩。集合時間は2時間後の14時。昼食と入浴のタイミングは任意。となると今みんながまず昼食を取りに行っているはずだから先に風呂に入ってしまおうとなった。集合時間は1時間後の13時。浴室は我々の読みどおりまだほとんど混雑していなかった。お風呂はスーパー銭湯風ではあるが、露天風呂もありのんびりくつろぐことができる。W氏が入浴に際してものすごく険しい顔をしながら慎重に湯舟に足を落としていた。痛そう・・・。
湯船でW氏にとっての初登山成功、自分にとっての初登頂成功をそれぞれ喜び合いながら思い出話に花が咲かせた。程なく集合時間が近づいてきたので少し物足りないが風呂から上がることに。
予定どおり全員集合し、お次は昼食だ。昨日山小屋を出て以降お菓子とかはつまんでいるがロクな食事をしていないので腹が減ってしょうがない。あ、腹が減っている。お風呂に入って自律神経もしっかり快復したようだ。
さて、ほとんどの人は館内にある食堂で昼食を済ませるようだが、その食堂ははなの舞だった。ぶっちゃけどこにでもある安居酒屋がランチメニューを提供しているだけなのでさして食べたいものがない。でも館内にはそれしかないのでそこに行くしかないかなと思ったら、W氏がバスを降りた時に道向かいにうどん屋があるのを目ざとく見つけていたらしく、うどん食べたいと言い出した。うどん、いいね、ということで全員賛成となりそのうどん屋に繰り出すことにした。
店の名前は吉田うどん玉喜亭という。当時は知らなかったのだがこの地は吉田うどんというご当地うどんが有名な街だった。それを見つけるとは流石。昼時を過ぎつつあるタイミングだが気軽に食べられるうどんであるせいか、店内はまだ混雑気味だった。注文は食券制で自販機で注文。10分ほど待っていたら席が空いたので着席しそれから程なくうどんが運ばれてきた。
吉田うどんはいわゆる武蔵野うどんの系譜に属するもので歯ごたえが凄い。イメージ的にはすいとんをうどんの形にしたような物、といえばその食感が伝わるだろうか。いかにも農家さんの昼食といった感じの素朴なうどんである。
つゆはあっさり系、薄い色の物で関西風である。テーブルに揚げ玉の入ったタッパーが置かれていてトッピングは自由。讃岐うどんや水沢うどんのようなのど越しの良い物の対極に位置するうどんなので好き嫌いが分かれるかもしれないが、自分は結構おいしく食べることができた。腹が減っていたから美味しさ20%アップというのもあったと思うが。とりわけ女子にはあまりウケが良くなかった。
食後バスに戻ると程なく出発した。もうあとは何も思い残すことはない。
次に気が付いたら石川PAで休憩のため停車するタイミングだった。もう、眠くて仕方ないので休憩で車外に出ることもなくそのまままた眠りに落ちる。メンバー全員が、というか乗客のほとんどがその状態だった。
そして次に気が付いたのは新宿の集合場所に到着した時だった。乗客の大半はここで降りるので車内は一気に閑散とした。帰りのバスはこのまま東京駅まで行ってくれるらしい。だから寝る。
で、東京駅に到着。時間は18時少し前だった。
Mちゃん、W氏とは夫婦ともども仲良くはしているのだが、お互い仕事の都合があったりして気軽に集まることができないので、せっかくだから軽くお茶して解散しようという話になった。だが近所を散策し始めて程なく、W氏がもうご飯にしようよ!と提案。自分は賛成、女子は消極的賛成で食事処を探す。と、牛角があった。すかさずW氏が肉食べよ!と、この店に入ろうコールを始める。
考えてみたら昼にうどんを食べて以降、ただひたすら眠っているだけの状態だったがそれでも腹は減るものだ。体調は完全に戻った。肉、バッチ来いである。そのまま店内へと進みしかるべき席に着席し、めいめいオーダーして肉を焼き、それを頬張る。なんて美味いんだ。。。もちろんそのおかずに今回の登山の四方山話があったことは忘れてはならない。もっぱらいじられっぱなしだったが。
少しした頃、隣のテーブルに我々と同じ登山ルックに身を包んだ一行が着席した。それを見たW氏が軽く会釈した。あれ、知り合い?
ただ、積極的な交流は双方求めていなかったようで話が膨らむこともなく、それぞれのテーブルでそれぞれの会話で盛り上がり2時間ほど楽しんで解散となった。
駅へと戻る道すがら、さっきの誰?とW氏に聞いたら、山小屋でウチらの隣でイビキかいてた人や、とのこと。全く気が付かなかった。環境が強烈すぎて周囲を見渡すということをしなかったせいだろうか。まぁ、もう2度と会うこともないだろうからいいか。
あとがき:
ということで、思いがけずチャレンジすることとなった富士登山は何かと印象深いものとなった。なんといっても片頭痛に苦しめられたことは忘れがたい記憶である。あれがなければみんなに迷惑をかけることもなく、きれいな思い出を残すことができたのだろうかと思うと内心忸怩たる思いだ。
登山中の頭痛といえば高山病だが、あれは下山しないと治らないという。自分の場合標高が上がった時に症状が出て、頂上に着く前に解消しているので症状に当てはまらない。だからいつもの片頭痛だったのではないかと思っているのだが、いつものそれよりもかなりきつかった。登っている最中は人目もはばからずグロッキーな姿を晒していたので、他の登山客から心配されていたかもしれない。でも本当に周りの目なんかどうでもいいと思えるくらい辛いものだったのだ。救助隊を手配することなく下山できたのは本当に奇跡だったと思っている。
まぁ、そういう苦い思い出もあるが、前回チャレンジから24年目にしてついに山頂に足跡を残すことができたし、見事なご来光を拝むこともできた。それがあったからこそ達成感のある良い思い出となったというのは紛れもない事実である。
普段運動不足なので帰宅後に筋肉痛に苛まれることを危惧していたが、幸い全く筋肉痛を感じることはなかった。なんだ、自分の体力もまだまだ見捨てたものじゃないな。この分ならもう一度くらいチャレンジして次こそ剣が峰の頂上を目指してみてもいいかな、なんて気もしている。まったく、のど元過ぎれば何とやらである。
登山を前に各種登山グッズを取り揃えてしまったので、せっかくだから活用していかなければ勿体ない。カミさんからも今後もちょいちょい山登り行くからねと釘を刺されている。まぁ険しい山に登るには、体力のみならず様々な技術も要すると思うのでハイキング向けの低山あたりから徐々にチャレンジさせてもらえれば、と思う今日この頃であるw
(おわり)