富士山に登ろう【6】(2009/09/06)
別行動:
2人が食事している間に回復すれば大団円だったのだが、世の中そんなにうまくはいかない。一向に体調が戻らないので、ちょっとこのまま休ませてくれと伝えてそのまま臥せっていたらようやく痛みのはざまに眠気を感じるようになった。
自分の場合、眠れば復活すると書いたが、眠るまでが大変なのだ。眠気を催してもその眠気に身を委ねようとしたら頭痛がひどくなるのだ。その頭痛によって眠気が途切れてしまいなかなか寝付けない。さっさと眠りたいのに寝付けないので結構苦しい。ただこれを乗り越えて眠ってしまえばゴールなので何とか眠ってしまいたい。
もちろん眠ったら30分程度留まることが確定となるのだが、このまま無理しているよりは思い切って眠った方がトータルで早期解決となる。
と、ここでひとつ問題が生じる。基本的には食事が済んだら速やかに退室しなければならないのだ。別途料金を支払えば休憩のみも可能だが、寒い部屋で座っているだけで1時間1000円もかかるのでみんなを付き合わせるわけにもいかない。自分のことはいいから、皆先に行ってくれと心の中では思うのだが、気持ち悪さで言葉に発することができない。が、ここもカミさんが気を利かせてくれた。
引き留めるのも悪いからこの際別行動にしようと提案し、彼らもそれを受け入れた。待ち合わせは頂上の鳥居近くと決めて2人とは別行動をとることになった。カミさんは自分に付き添ってくれるとのこと。ありがてぇ。ただ、小学生の時の登山の光景がデジャヴした。あの時と違ってバテているのは自分の方だが。
2人が出発した後、カミさんのことを気にかける余裕もなくそのまま机に突っ伏していた。その後少しだけウトウトしていたようだが、またしても物音で目が覚めた。ふと回りを見ると休憩所内に団体さんがぞろぞろと入店してきた所だった。隣を見るとカミさんは忠犬ハチ公状態で自分の横でじっとしていた。ハチ公と違うのは自分を気にかけるわけではなくただじっとしているだけだったが。
残念ながら少々の仮眠では頭痛と吐き気を取り切ることはできなかったが、さっきよりは少しだけ周りを気にする余裕ができてきた。カミさんにずっとそうしていたのか?と聞いたら、小腹が減ったから日の出館でもらった弁当を食べていたとのこと。もらった缶詰が美味かったと言っていたのだったかな。
山小屋の前の登山道は、続々と押し寄せる登山客でだいぶ賑やかになっていた。とうとうこの辺りの山小屋の人が行動を開始したらしい。
そうこうするうち1時間が経過した。ぼちぼち休憩時間を過ぎて追い出される頃合いだ。だが、頑張って登ってやろうという気力は全く沸かなかった。結局、もう下山したいとカミさんに伝えたところ、カミさんから行けるところまで行ってダメだったら下山しようと提案された。
ダメだったらといっても、この先頂上まで山小屋はないので途中でのリタイヤが難しくなる。登山客でごった返す登山道をすごすご引き返すのもなんかみじめだ、というかそもそも押し寄せる登山客をかき分けて反対方向へ歩くことなんてできないかもしれない。
だが、カミさんからどうにか歩けるところまで歩こうと再三にわたって説得され、結局出発することを決意した。どうなっちゃうんだろう。
大渋滞:
そうして再びリュックを背負い、ゆるゆると山小屋の外に出た。山小屋前の登山道はもうすでに渋滞となっていた。その登山客の列に割り込ませてもらう。が、恐ろしく進みが遅い。50センチ進んだら15秒立ち止まるという状態で一向に進んでいかない。これが登山開始前に懸念していた大渋滞である。自分は大自然に抱かれに来たはずなのに、何が悲しくてどこぞの新規オープン直後のショッピングモールにでも来たかのような人ごみに揉まれなければならんのか。これが嫌だから頂上までアテンドがあるツアーを避けて、日の出館からの登山開始を早めたはずなのに、見事に巻き込まれている。。。
だが、今回に限ってはこのどうしようもない渋滞と人混みがこの上なく有難かった。自分らの周囲に人が大勢いるので山に吹く風が幾分遮られて寒さを感じにくかったのがひとつ、そしてもうひとつが進みがゆっくりであること。ゆっくり進むから息が全く上がらない。3000mを越える標高にいるはずなのに息苦しさをほとんど感じない。これが片頭痛を和らげるのに非常に効果的だった。
15分ほど過ぎたころには片頭痛の痛みはすっかり消え失せていた。とはいっても胃はむかつきが続いているし体に力が入らない感じは相変わらずなのだが、とにかく頭が痛くないだけでこの世の春である。少しだけ周囲を見回す余裕も出てきた。この分なら頂上までたどり着くことができそうだ。カミさんには悪いがもはやご来光はどうでもよかった。なんなら登山道の途中から見たっていいじゃないかというくらいの気持ちである。それより山頂の地をこの足で踏みたいというのが大目標となった。
そうして歩いているうちになんか視界に違和感を感じた。あれ、自転車が見える気がするんだけど。。。ここは3000mを越す岩場が続く登山道だ、自転車がこんなところにあるわけがない。体調のせいで幻覚でも見ているのかな?
だが改めて見るとそれはやはり自転車だった。マウンテンバイクだ。それを小脇で押しながら登っている登山者がいた。何してるんだお前w
進みが前後する関係でだんだんとそのマウンテンバイクを押す登山者に近づいてきた。すかさずカミさんが話しかけた。
「なんで自転車を持ってるんですか?」
と聞くとその彼は、これに乗って下山するんですと言った。2人して、へぇと嘆息の声を漏らす。が、凄いですねと言ったきり二の句が継げなかった。まだ頭がぼんやりしていたからというのもあるが、チャリを抱えて富士山を登るという行動が自分の理解を越えていて、どう話を繋げてよいのかさっぱり分からなかったからだ。よく分からんけど頑張れ。
進みはずっとノロいままだ。それから少ししてちょっとした岩登りとなる場所があった。ここで順番待ちが発生していたために渋滞となっていたようだった。
1人乗り越え、また1人乗り越え、という感じで少しずつ進んでいく。件のチャリ男はその渋滞の動かなさに業を煮やして自転車を背中に抱えてコース外の岩場をスルスルと登って沢山の人を追い越して行った。怖い物知らずだな。
振り返ると物凄くレアな光景に遭遇していたわけだが、写真に撮ることをすっかり忘れていた。撮っておけばよかった。