道南散歩【15】(2013/08/16)

微妙な各種展示物のエリアを過ぎると、頑丈そうな隔壁で行きどまる。

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この隔壁は「風門」と呼ばれている。この奥にもう一箇所同じものがあるそうだ。
これも列車火災を想定した設備である。火災の発生時に遠隔操作によって地上の送風機から斜坑へと強風を送り込んで、同時に排煙用の坑道を開放することで、煙や有毒ガスなどを作業坑とは逆方向へ強制的に排煙することが出来るようになっているが、これだけ長いトンネルに送風するためには、相当強力な風を送り込まなければならず、その時の風速は20m/sにもなるという。

20m/sの風といったら、台風の暴風域に入っているときと同じような風速である。普通の人の力では風に逆らって斜坑を登ることなど到底無理である。そこで、乗客をここまで誘導して、風門内に避難させてから強制排煙を行うような仕組みになっているそうだ。

係員が手元のスイッチを操作して風門を解放すると、一瞬強い風が通り抜けて行った。送風機を動かしていない状態でもこれだけの気圧差があるということだ。そして、一行は風門の中に入る。来た方の風門を閉鎖した後、これから行く方の風門を開ける。

二枚の風門を抜けると、その先にも展示物のコーナーが続いている。 パネル展示のほかに、掘削時に使われていた人車などがマネキンとともに展示されていた。

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ここから先は地上にある青函トンネル記念館の体験坑道内の展示物となる。記念館から入場するとここまでは来ることができる。

展示物自体は、トンネル側のくたびれた展示物とは違い、ちゃんと整備された現役の展示物という感じがして見ごたえがあるが、竜飛定点からここまでのトンネル施設を実際に歩いた体験と較べてしまうと、圧倒的に満足度が違う。見学ツアーに参加できたのは本当に貴重なことだったんだな、としみじみ思う。

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ここを過ぎると再びトンネルが二手に分かれる。片方はさっきの人車などが設置されていたレールが曲線を描きながら急勾配で上へと登って行っている。

見学者は分岐を左へと誘導される。が、すぐ右に曲がる。そこにはケーブルカーの「体験坑道駅」があった。

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ここはさっきの分岐の続きの部分である。かつて掘削時に人員や物資を運んだトロッコのレールを流用しているようだ。

さてこのケーブルカー、正式名称は「青函トンネル竜飛斜坑線」と言うそうだ。距離はわずか778mしかない。JRに属した路線ではない為、「日本一短い私鉄」とみなす向きもあるようだ。

あと1m短く作っておけば、ラッキーを求める人がこぞって押し寄せる聖地になったかもしれないのに、と考えるのはゲスいか。。。

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誘導に従い、順次車両に乗り込む。ずっと列の後ろの方を歩いていたので、自分らが乗車した時には席が埋まってしまっていたので、ここは立ち席で。

ほどなく出発する。ケーブルカーの車輪にばねが弱いのか、車体が劣化しているのか、はたまたレールの精度が悪いのか、レールの継ぎ目を超えるたびに車体がビシビシと派手に振動する。シートの色や戸袋窓などの作りに、そこはかとない国鉄っぽさを漂わせる。

斜坑は前述のとおり、本来はトンネルからの避難路なので、レールの脇に階段が並行して設けられている。が、地上まで1316段あるということだ。ひたすら階段を登るといえば香川のこんぴらさんが有名だが、それでも多くの人が行く本宮まで785段である。奥社まで行ってようやく1365段ということなので、単純に比較できるものではないが、いかにばかげた段数かが分かると思う。

前に火災を鎮火した後、車両が使えるなら再び車両に乗って地上を目指す、と書いたが、確かに無条件にこの階段を登らせるよりは、車両に戻った方が乗客の負担が少ないかもしれない。

いやいや、ケーブルカーがあるじゃないか、と思われると思うが、詳しく聞いたわけではないものの、どうも避難時にはこのケーブルカーは動かさないらしい。理由までは聞けなかったが、どうせなら動かした方がいいんじゃないかと思うのは素人考えなのだろうか。

着々と高齢化社会になりつつある昨今、バリアフリー的な検討も必要になるのではないかと思う。

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5分ほどで終点「青函トンネル記念館」駅に到着。
建物のガラスから差し込む外の光を見て、なんだか随分久々に地上戻ってきたような気がした。
ここにいれば、万一の事態になっても安心である。これまで全体的にずっしり、しっとりしたシーンばかりだったので、ふっと心が軽くなったような気分になった。

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緊急避難をする羽目になった自分を想像する。命からがらここまで辿り着き、この風門が閉じたことを確認したら、初めて助かった、と安堵するのだろう。

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記念館までの通路の途中、一瞬だけ外の様子が見えた。轟々と風と雨が吹きつけている。外は結構な荒れ模様のようだ。

記念館のロビーに集合したところで、係員からアナウンス。帰りのケーブルカーの時間まで、40分ほど自由行動だそうだ。館内の見学はもちろん、外へ出ても構わない、とのこと。
15分くらい歩けば竜飛岬まで行けるらしい。有名な階段国道を訪ねてみたいと思ったが、いくらなんでもこの天気で館外を出歩こうという気にはならなかった。

ちなみに集合時間厳守である。列車は厳密なダイヤで運行されているので、それを考えたら当然である。もし集合に遅れてたらどうなるか?そのまま置いてけぼりである。そうなったら出発地まで自力で帰るしかなくなる。

どうやって?ここは本州のどんづまり。最寄りの鉄道駅である三厩(みんまや)駅まで10kmくらい離れている。だが駅までのバスは本数は少ない。更には駅からの列車の本数も少ない。青森駅へ戻るだけでも一苦労。双六をやっているようなもどかしさを味わうことが出来るだろうw
そのうえ、函館駅のロッカーに荷物を置いてきているので、それを取りに行くためだけに函館との間を往復させられるというおまけつき。もはや一日仕事である。当然旅行どころではなくなる。

自分の不注意によって払う代償が大きすぎるので、時間厳守を肝に銘じるべきである。

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ということで、館内をぶらつく。館内にはトンネルに関する各種資料がコンパクトにまとめられていて、一通り見るだけなら40分もの時間は要らない。ホールでトンネル開業までの記録映画が上映されていると聞いて、それを見て時間をつぶすことにしたのだが、ストーリーがどうにも退屈で、結局途中で眠ってしまった。。。

映画が終わるか終らないかくらいの時に集合時間5分前となった。集合場所へと移動し、他の皆と合流。寝過ごさなくてよかった。

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集合後、再度点呼が取られたら、後は戻りのコースである。

Posted by gen_charly