名古屋に拉致られに行った話【1】(1996/09/16)
ある日、中学校時代の同級生から電話がかかってきた。
そいつとは中学時代には付き合いがなかったが、高校生になってから別の友達経由でつるむようになり、たまに遊んでいたやつだったのだが、高校を卒業してからは再び没交渉になっていた。
で、久しぶりに電話がかかってきたと思ったら、開口一番、お前、ポルシェ乗りたくね?ときた。
個人的にはポルシェには全く興味がなかったので、いや、別に。と答えたら、彼にとってそれが意外なレスポンスだったのか、電話口の向こうで少し動揺している。
「い、いや違うんだよ。あのさ、俺最近すぐに稼げる仕事を見つけたんだよ。ちょっとお前にもそれを紹介したいから、話に行っていいか?」
というので、まぁ、来たければくれば、という感じで答えたら、暫くして本当にやってきた。
彼(Tとしておこう)は、そのビジネスモデルを一生懸命説明していた。だが、お前自身があまり信用無いんだよなー。。。
Tが言うには、某通販会社の会員になって、今その商品を売っているのだという。その商品は品質がとても良くて、でも会員になればそれを仕入れ価格で買えるというのだ。
しかもそうして購入した商品は、自分がいいと思ったら知り合いに紹介して利益を載せて販売することが出来るし、その販売先となる人にも会員になって貰って、その人が同様に更にその先に紹介すると、その人が売った利益のうち一部を紹介者という立ち位置で自分の取り分にできる、と言うのだ。
それってアレだろ?と思ったらやっぱりマルチまがい商法で有名な某社だった。
その話に乗るつもりはさらさらなかったが、あまり冷たくするとしつこくなりそうな気もしたので、歯磨き粉とシャンプーだけは付き合いで買ってやった。
で、数日してモノが届いたので試しに使ってみたら、確かにまぁ物は悪くない。悪くはないが、いかんせん高い。安月給の自分がこんな物を普段使いにしたらもうキャパオーバーになってしまう感じだ。
1カ月くらいしてTから再び連絡があった。
Tに感想を聞かれ、そんなことを答えた。ついでにそのビジネスモデルについて疑問に思ったことを投げてみたら、それに全て答えを返してきた。「ああいえばこういう」的な物だが、あの勉強嫌いのTが良くここまで覚えたものだ、と思うとそれはそれで感心した。
詳細なやり取りはもう忘れたが、その会話の流れでTの上流に名古屋で成功している人がいるとかで、たまにパーティなどを開いているらしく、そのパーティが今度あるので一緒に行かないか、と誘われた。
まぁ、どうせ暇だし、タダで名古屋に行けるならそれも面白そうだと思って、付いていくことにしてみた。
1996/09/16
Tが夜中に迎えに来て、Tの車で一路名古屋へ。リアシートに乗っているだけだから楽ちんである。
明け方にTの一つ上流の知り合いの家に到着。そこで朝まで仮眠だそうだ。
ちょっと古い民家で、家の中が埃っぽかったらしく、寝ている間に喘息の発作が起こった。
発作と言っても暫く外の空気を吸っていれば収まるレベルだったので、傍らの窓を開けて、犬が車の窓から顔を出すときのような感じで、暫く外の空気を吸っていた。呼吸を整えながら、おれこんな所で何してるんだろうな、と思った。なぜか薄曇りの早朝の空の印象が残っている。
そんな感じだったので、起床時間になってもほとんど寝た気もしなかった。
それからパーティー会場へと向かった。私服である。ドレスコードはなかったようだ。
パーティが始まり、その上流にいるらしい成功者がスピーチする。流石に口が達者である。そしてプレゼン慣れしている。
自分がそこに立って何かを話している姿は全く想像できなかった。だから憧れにもならないし、自分がこの商売に手をかけることも考えなかった。
パーティは3時間ほどで終わり、Tやその仲間と会場前の道路で屯していたら、真っ白いアルファロメオのオープンカーが自分らの前に停まった。運転していたのはさっきスピーチしていた女性だった。
遠い所を来てくれてありがとう、的な会話の後、乗る?と聞かれた。
何故か周りにいる人は手をあげない。アルファロメオのオープンカーなんてそうそう乗れるものじゃない。自分が手を挙げた。
土地勘がなかったので、どの辺を走ったのかは全く覚えていないが、オープンカーは爽快で楽しかった。
運転しているその女性はそこの販売員をしていることを誇りに思っているそうだ。そして自分にもぜひともそこまで成長してもらって、この幸せを味わってほしい、というようなことを語っていた。
実は興味ありません、などとは口が裂けても言える雰囲気ではなく、ここは開き直って騒いでしまおうと思って、「まじすか!自分もなんか頑張れば〇〇さんみたいになれそうな気がしてきました!」的なことを話した気がする。よくもまぁ、心にもないことを。
30分ほどで一周して戻ってきた。
まぁ、罠、と言ったらなんだけど、シカケだったんだろうな。つまり、会員になりたての奴がいるけど、いまいちノリが悪いので、その気にさせるために華やかなところをいっちょ見せてやってくださいよ、ということだったのだろうと思う。
まぁ、それも体験だな。というか、その辺はどうとでもなると思っていたので、楽しませてもらった。食い物も沢山いただいたしw
で、そこでTとも解散し、晴れて自由の身に。よかった、軟禁とかされなくてw
という訳で、ここからが旅日記であるw
その日は名古屋駅近くのビジネスホテルに一泊した。
昨晩、ほぼ完徹だったので、ベッドに入ったらすぐに眠りに落ちたた。。。のだが。
夜中、ふと誰かに肩を叩かれて目が覚めた。次の瞬間、自分は今ホテルに泊まっているんだから、肩を叩く奴なんかいる訳ないことと気付いた。
もしやこれって・・・アレか?目を開けちゃいけないやつ。。。そう考えて寝たふりを続けた。なんだよこれ、マジこえー。
だが、その誰かは自分の肩を不均等な速さで叩き続ける。ポンポン、と連続して叩いたかと思うと、数秒手が止まる。いかにも自分を起そうとしている叩き方だ。
どこかで書いた気がするが、自分には全く霊感がない。そういう経験もしたことがないから幽霊は信じていないが、だとしたら、今ここで起こっている事象はなんだ。今までないと思っていただけで、本当は霊感があるってことなのか。それを知るタイミングは今じゃなくてよいのに。。。
でも待てよ、仮に本当に誰か生身の人間が枕元に居て、何か理由があって自分を起こそうとしているのなら、一向に起きない自分に向かって何らかの声掛けをするだろうし、叩くだけじゃなく揺さぶったりもしてくるはずだ。ということはやっぱり自分の肩を叩くのは人間ではない、ってことだよな。
そんなことを悶々と考えながら、1分くらい寝たふりを続けたが、一向に収まらない。
もしかしたら悪霊の類ではなく、自分を今起きなければならない何かがあって、それを守護霊的なものが知らせてくれているのかもしれない。だとしたら目を覚ました方が良いのだろうか。
一頻り逡巡したが、結局思い切って目を開けてみることにした。
せーの、で目を開けたら、、、やっぱり誰もいなかった。それと同時に肩を叩かれる動作もぴたりと止まった。
実は、12歳くらいの頃に何度か金縛りにあったことがある。その時はかなり震えたが、ほどなく金縛りはただの寝ぼけであることを知った。それを知って以降、金縛りもぱったりと治まった。これもその類か?でも肩を叩いてくる金縛りなんて聞いたことがない。
この状況をどう解釈してよいか分からず、なんか不気味なので、部屋の電気とテレビを付けて気を紛らわせることにした。
それから暫く、この時の出来事は自分の中で唯一の心霊体験となっていたのだが、数年後に自宅でその肩叩きを再び経験した。その時はすぐに目を開けたがやはり誰もいなかった。これは多分、肩が疲れて痙攣しているんだろうな、と思うようにしたらやっぱりそれ以降発生しなくなった。
なので、この一件は多分心霊現象の類ではないと思うが、まぁ、恐ろしい出来事だった。