紀伊半島と浜松のドライブ【8】(2023/07/26)
発展期のスズキの軽自動車:
この歴史館にはスズキの名車が多数展示されている。いずれもこうして展示されているだけあってその車種の開発に秘められたエピソードや、車両としてのエポックメイキングな特徴など語れることは多いのだが、全て網羅したら紙面がいくらあっても足りないので、自分の思い出に残っている車種に絞って紹介しようと思う。まぁ、実際に足を運んで見学してもらうに越したことはない。
まずはフロンテ。FEA-2と呼ばれる形式のものだ。いよいよ乗用車としての軽自動車が軌道に乗り始める。
この車種で面白いのはリアウィンドウ。2分割されていて前半分が上下開閉出来るようになっている。
2ドア車のリアウィンドウはコストの都合で大抵は固定窓かフラップ式になるのだが、換気能力が低いというデメリットがある。
実際過去にそういう車にのって何度も車酔いを経験している。それだけに開閉可能な窓を設けた工夫が素晴らしいと思った。
こちらはフロンテ360。コークボトルラインと呼ばれたシルエットが特徴的なモデルである。これまでのフロントエンジン方式から一転してリアエンジン方式に変更された。このあたりから各社が360cc軽を発売するようになり、次第に競争が激化し始めた時代だった。
キャリイバンの電気自動車。大阪万博で使用されたものだそうだ。展示車は電気自動車仕様となっているが、通常のガソリンエンジン車も存在した。
特徴的なのは、なんといってもこのサイドシルエットである。いかに沢山の物を積載できるかが至上命題となっている筈のこのクラスの車両において、あるまじきリアハッチの角度である。その角度はフロントと同じような傾斜になっている。
前後のシルエットを対称にするという大胆なデザインだが、現代だったら左右対称を目指するにしてもより長方形なデザインにすることだろう。
同じようなコンセプトは現在でもダイハツのコペンなどで採用されている。だがキミがそれをやっちゃいかんだろう、という気がする。どう考えてもその分荷物が積めなくなるのが目に見えている。
この車の存在を知ったのは、空き地に放棄されている廃車体をコレクションしているWebサイトだった。実物を見たことはない。
そのサイトで見かけてこんなにもチャレンジングなデザインテイストの車があったのか、と衝撃を受けたので印象に残っている。
自分が知っているスズキの軽:
次の車はジムニー。軽規格の4輪駆動車として孤高ポジションを歩み続けている言わずと知れた名車である。
この辺りになると自分が幼いころに街中で見たことがある車となってくる。
当時のジムニーは右のカーキのモデルのようにフロントウィンドウを前倒しにすることが出来た。
よくみるとリアシートが1脚しかない。つまり3人乗り。珍しいフォーメーションだ。
それにしても、この席に乗ってフルオープンで走ったら怖いだろうなぁ。。。なにせジムニーの足回りはバリカタ、いや、ハリガネくらいのハードセッティングなのでちょっとした段差でも盛大に跳ねるのだ。にもかかわらず掴まる所もシートベルトもない。もはやロデオである。
続いてフロンテクーペ。この時期は軽自動車が一番ホットな時代だった。徐々にファーストカーとして車を購入する人が増えて行き、軽自動車といえど走ればよいと言う訳にもいかなくなってきた。何ならリッターカーをカモれるような車が欲しい、と言うことで馬力を極限まで上げたホットモデルが各社から次々と発売された時期である。
室内の装備も当時のリッターカークラスと比べてそん色のないものになっている。デザインへのこだわりもあり、サイズが小さくてエンジンが一回り小さいこと以外に何も我慢しなくて済みそうなレベルまで引き上げられている。
とはいってもこの中に入っているエンジンはサブロクである。特にスズキの2ストロークエンジンは回転数が落ちる時にポンポンポン・・・と焼玉エンジンのような音を立てるので、そこで興ざめするなんて話を聞いたことがあるが自分はあの音が好きw
こうして軽自動車の馬力競争は過熱して行ったのだが、車体の構造がエンジンの性能に全く追いつかなくなってしまい事故が多発するようになった。元々車体も華奢な物になっているので事故発生時の乗員へのダメージが大きく次第に大きな問題に発展していく。
結局、車体の構造をどうすることもできないので、馬力競争は次第に沈静化。以降360cc軽は乗員がゆったりとくつろげるような空間づくりへとシフトしていく。そうなると今度はその寸法がいかんともしがたくなり、最終的に車体の大型化への道を歩むこととなる。
そしてアルトである。スズキと言えばアルト。異論は認める。
当時の貨幣価値としても衝撃的な47万円という価格で登場した軽自動車である。必要な安全装備は省かず装備類を可能な限り簡素化することで求めやすい価格を実現したエポックメイキングな車である。
以前、父が撮りためていた古いビデオテープを漁っていたらこの車のCMが収録されていた。最後のシンセサイザーのベンドアップなど時代を感じさせるCMである。当時はフィルムやカメラのレンズが明るくなかったのか暗めの映像が多い。こういう映像を見ていると、自分が幼い頃、学校から帰ってきたあと夕方くらいに見ていたアニメの再放送を思い出す。日が傾いて部屋が薄暗くなってくるんだけど、まだ電気を点けるほどでもない。でも点けないで見ていると番組が終わる頃には随分暗くなっている。テレビの映像も暗いのでなんだか気分が滅入るような感覚を味わっていた。
それはさておき、その価格が如何に衝撃的だったかを分かりやすくするため、傍らに当時の家電品が販売価格と共に展示されていた。
こうしてみるとパソコンは思ったほど高くないが、ビデオデッキの値段がべらぼうである。
もちろん当時の貨幣価値を考慮したら今以上に高額なものだった筈だ。
実はこの当時、我が家では父がビデオデッキやビデオカメラを販売する仕事に携わっていた。その絡みで親戚からテレビ、ビデオデッキのセットと彼らが乗っている車を交換してほしいと頼まれて実際に交換したことがあった。現在の感覚だとどう考えても釣り合わないが、この価格を見て納得してしまった。
ビデオデッキとテレビを合わせると44万円弱である。まぁ定価で購入することはないかもしれないが、それでも40万円前後にはなったことだろう。そしてアルトが47万円である。親戚が交換の対象として差し出した車はスターレットだったので、当時の中古の販売相場も案外そのくらいだったのかな、という気がしなくもない。
ちなみにこの車が現役で走っていた当時は、ザ・ベーシックカーであり全然興味をそそられなかった。
そして、アルト誕生のベース車となったのがフロンテである。こちらは乗用車登録なので4ドアになっており、後部座席も幾分広くなっている。ルーフに随分と不格好なサンルーフが取り付けられている珍車である。
自分が小学生の頃、学校で発熱してお袋に迎えに来てもらったことがあったのだが、その時なぜか我が家の車ではなくこの車で迎えに来てくれたことを覚えている。何かの事情で借りたらしい、と言ってもそのエピソードしか記憶にないのだが。朦朧としてたしね。
近年のスズキの軽四輪:
だいぶ長くなってきたのでちょっとペースアップする。
マイティボーイ。アルトのリアをオープンデッキにしたパイクカーの一種。なぜか未だに根強いファンがいる車である。
初代ワゴンR。この車が出た時は衝撃だったなぁ。でも今となってはもっとハイトなワゴンが普通になってしまった。
アルト・ワークス、セルボ、スライドドア式のアルト。この頃はバブル末期ぐらいになるのかな。軽自動車も普通車並みの快適性を持たせたいということで、質感の向上や装備の充実を図ったモデルが多くリリースされた時期だった。
カプチーノ。これもまたスズキの名車である。
こちらはスズキ随一の珍車、X-90。コンセプトは悪くなさそうな気がするのだが、何故か鳴かず飛ばずな車だった。
そしてこちらも結構な珍車、Twin。モビリティとしてどこまで割り切れるかにチャレンジした意欲作であるが、時代が早すぎたのかイマイチぱっとしない車だった。
自分はスズキという企業について、売れ線をきっちり抑えていく堅実な企業だと言うぼんやりしたイメージを持っていたが、こうしてみると案外アグレッシブなことをやっているのだな、と再認識させられた。
ちなみにスズキは日本に名だたる2輪メーカーでもある。その展示がなされていない訳がない。こうして沢山のモデルが展示されているのだが、あいにく自分は2輪が全く分からないのでコメントできない。
歴史館2階の展示物:
と言うことで随分と紙幅を割いて趣味の世界に没頭してしまったが、ようやく3階が見終わった所である。そう、まだ1フロアしか見えていないのだ。とは言っても2階は車の制作工程の説明だったり、企業展開の説明がメインなので簡単に触れるにとどめておきたい。
フロアを降りると右手側はスズキの海外拠点と、そのお国柄の説明の展示となっており、その国に関するクイズなどを楽しむことが出来る。
その奥は浜松市のお祭りや航空自衛隊に関する展示エリアだった。
中心にはワールドアドベンチャーと言うスズキの海外拠点について説明した映像が見られるシアターがある。
鈴木君と言うキャラクターが主人公だが、ヒーローのようないでたちをしている。その子が学校で他の級友とあれこれ見学しつつ知識を学んでいく、という10分ほどの内容。世の中にはこんなに一風変わった子供でも何の違和感もなく受け入れてくれる世界があるんだなぁ。
階段から左手側に進むと、車の開発から製造までの行程が見られるエリアになっている。奥の方には今しがた見てきたのとは別に3Dシアターがある。近くの展示を見ていたら間もなく開始するとアナウンスがあったので、先にそちらから見に行ってみることに。
入口で3Dメガネを渡された。大昔は3Dと言えば青と赤のグラスで見たものだが今はそんな時代ではない。見た目は普通のメガネだ。
ただ、自分の目の老化が著しく、このメガネをかけても3Dの画像が結ばれず目が疲れてしまった。
作品は工場での自動車の製造工程を説明するものだった。意外にも座席が振動したり、水しぶきのような物が飛んできたりと臨場感はなかなかだった。こちらも映像は10分ほど。例の鈴木君がこちらでも主人公として大活躍だった。
改めて製造工程を見学した。詳細は省略するが、等身大クレイモデルを見たチビに、これ全部粘土だよと説明しても信じてくれなかった。プロのモデラーさんが作ると粘土でも本物そっくりの物が作れるんだよ、と教えたらしきりに感心していた。
そして最後に。スズキ車の心臓部であるエンジンが展示されていた。なぜかこのひとつのみだが型式にR06Aと書かれている。つまり我がスペーシアに搭載されているものだ。よく見ると下の方にエネチャージ用リチウムイオンバッテリが置いてある。スズキ初のハイブリッドエンジンなので、やはり誇らしいのだろう。
普段なかなか目視することのできない後ろ側とかをよく観察させてもらった。エンジンをばらすつもりは全くないのだが。
こうして1Fに降りて見学終了となった。13時に入館して退館は15時30分、実に2時間半もいたらしい。
展示物の内容も濃く、スズキの車に乗っている人なら一度は訪れておいて損はない博物館だと思った。