ギリギリ北海道【5】(2003/09/14)
カムイワッカ湯の滝:
能取湖から網走市街を通り抜け斜里町へ。カムイワッカ湯の滝は、斜里町から知床五湖方面への道を延々走った行きどまりにある。行きどまりなのでそこから先に道はない。もちろん住んでいる人もいない。
当時カムイワッカ湯の滝は知る人ぞ知る的なスポットであり、滝の周辺は道と駐車スペース以外ほぼ自然のままで、特に整備もなされていなかった。道も途中からダートになり、そこを慎重に走っていくとやがて路駐している車が見えてくる。そこがカムイワッカ湯の滝への入口だ。
停まっている車は10台ほどあって、思ったより賑わっている。到着した時は人が多いのは嫌だなぁなんて思ったが、後にそんな考えは大間違いであることを痛感させられる。あちこち道草しながら来たからというのもあるが、到着した時点で時間は16時を回っていた。暗くなるまでもうあまり時間がない。
そそくさと準備をして滝登りに取り掛かる。滝壺はもちろん男女別なんてことはないので、そこに浸かるなら濡れても良い服装で行く必要がある。水着だと岩場で転倒した時に大けがをする可能性があるので、あくまで濡れても良い服だ。また、滝の周りの岩場は滑りやすいということなので、滑りにくい靴も必須だ。当時の自分は沢登り用の靴なんてものの存在も知らなかったので、一応滑りにくそうなデザインの靴底になっている靴を持ってきた。
ちなみに持参したデジカメは、万一水没させたら大変なので車に置いていくことにした。なのでカムイワッカ湯の滝の写真は1枚もない。事前にそういう下調べができていたら、水中ハウジングとか写ルンですの防水タイプの奴でも買っていったのに。
車内で着替えて準備を済ませて出発。滝の入口に掲げられた看板には殊更に「足場は滑りやすく、万が一の事故にも責任は取れません」なんて書かれている。もしかして舐めてかかったらいけないやつか。
入口に立った時点で、奥の方から滝の流れる音が聞こえてくる。沢に沿った通路を歩くと、ほどなくナメ滝のような川床が現れる。この滝は4段の滝が連なっていて、麓側から1の滝、2の滝、3の滝、4の滝とそれぞれ名前が付いている。1の滝はすぐそこにあった。温度はどのくらいだろうかと足を浸けてみたらほぼ水であった。
ということでまずは1の滝を登ってみた。斜面は事前情報に偽りなしの滑りやすさで、ちょっとバランスを崩したら滝壺まで滑落してしまいそうだ。一番滑りにくそうだと期待した靴でも全く歯が立たない。まぁ、滑りにくそうだといっても、所詮ゴム底の靴だからなぁ。ともかく滑落しないよう、慎重に慎重を期して登った。
ナメ滝は水が流れている部分はツルツルの岩になっているのだが、その両側の水がない部分はややゴツゴツとしている。水の上は滑って歩けたものではないので、必然的に両端の岩場を手掛かり足掛かりにして登っていくわけだが、ここで滑落したらあちこち体を打ち付けて、ただでは済まされなさそう。だがカミさんは滑るね~といいながら、ひょいひょいと登っていく。運動神経がいいのか怖いもの知らずなのか。
どうにか1の滝を登りきると目の前が滝壺で、そのすぐ先に2の滝が流れ落ちている。滝壺では何人かの人が浸かったり泳いだりしていた。ここでも足を浸けてみたらまだぬるい。ということでもうひとつ上の滝壺を目指すことになったのだが、斜面は1の滝よりも更に急傾斜になっている。
1の滝の時以上に慎重に、寿命が縮むような思いをしながら登りきる。登った先はまたしても滝壺で、目の前には3の滝が流れ落ちている。この滝壺は、2の滝の滝壺と比べたら大分温かくはなったが、まだちょっとぬるい。この滝壺にも数人の人が浸かっている。みな一様にぬるいなぁと連呼している。
まぁ入って入れないこともない温度なので、ぬる湯だと思ってのんびり浸かりましょとその滝壺に浸かった。するとほどなく上から人が降りてきた。どうもこの3の滝の滝壺にいる人の仲間らしく、降りて来るなり、上の滝壺は丁度いい温度だったよと話しかけている。それを聞いてカミさんが登ってみない?と聞いてきた。いや無理だわ。
3の滝はこれまでとは比べ物にならないほど急な傾斜だ。これを登るには相当な覚悟がいりそうだった。沢靴でも履いていればまた違ったのかもしれないが、ゴム底の靴で登るのはちょっと危険すぎる。ということでカミさんには悪いが、ここでステイとさせてもらった。
で、暫くぬるいお湯に浸っていたら、周りにいた人たちがぽつぽつ下山していなくなってしまった。空も幾分薄暗くなってきたので、自分らも潮時と思って上がることにした。
傍らに脱いだ上着を着て下降を開始・・・が、そこは典型的な、行きはよいよい帰りは怖い案件だった。下りの方が登りより何倍も怖い。あっちで手を突き、こっちで尻餅をつきながら必死に降りていく。自分の焦りをあざ笑うかのように、空はつるべ落としの勢いでどんどん暗くなっていく。
登る時には下の滝壺で遊んでいる子供たちの姿があったのだが、我々がそこまで降りた時には、神隠しにでもあったかのように人っ子ひとりいなくなっていた。つまりこの周辺にいる人間は自分らだけという状態だ。この状況で自分たちに万一があっても、誰も助けに来てくれない。とにかく怪我をしないように、焦る気持ちを抑えながら慎重に下降した。
怪我をしないことだけがマストで、他はどうでも良いと思っていたので、服が濡れることとかはどうでも良かった。だが、服を濡らす水は下流に行くほど水温が下がってくるし、外気に晒されて放熱されるので、体がどんどん冷えていく。もとから大して温かくないお湯に浸かっていたので、温泉で蓄えた熱量は下山までに完全放出して収支はマイナス。なんのために怖い思いをしてお湯に浸かりに行ったのか。
ようやく麓に降り切った時にはもう憔悴しきっていた。車を停めたところまで歩いていくと、自分らの車以外に1台も停まっていなかった。完全に置き去りである。
どうにか車に戻り、ドアを閉めてようやく生きた心地を取り戻した。だが自分らの周りは野生動物しかいない世界だ。万一ヒグマでも現れたら車の中にいても安心とはいえない。そう思ったらどうしようもなく不安になって、とにかく早くここから離れたい、という気持ちのみに支配された。そんなわけで濡れた服の着替えも雑に済ませて急いで車を出した。
街灯ひとつないダートを再び下ると、鹿の群れがいた。

車に着いてから15分くらいしか経っていないのにこの暗さである。いかにきわどいタイミングだったか。
かわいらしい鹿の姿に、直前までの恐慌状態が少し解きほぐされるのを感じた。停めた車の窓越しに何枚か撮影。暗かったのでみんなブレていた。
この鹿との遭遇を後でS君に話したら、別にこの辺りでは珍しいことでも何でもないよと言われた。
道の駅知床・らうす:
今日は寝床を確保すればおしまいだ。この辺りに道の駅など泊まれる場所がないので、知床半島の羅臼側にある、道の駅知床・らうすへと向かった。羅臼へは知床横断道路を通っていくのだが、舗装された道に出た瞬間何ともいえない安堵の気持ちが押し寄せてきた。自分らは見事生還したのだ!とでも言いたくなるような気分である。
そのせいか分からないが、横断道路を走らせているうちにだんだんと体がだるくなってきた。滝登りの疲れが出ているようだ。道の駅まではもうそれほど離れていないのだが、峠の辺りでカミさんに断ってちょっと小休止させてもらうことにした。どうせもうひとっ走りすれば道の駅なので仮眠である。だが椅子を倒して横になってみると、峠の辺りを吹き抜ける強風が車に当たって、車が揺さぶられて全然落ち着けない。結局、5分くらいで再び起き上がって道の駅まで進んでしまうことにした。
幸いほどなく道の駅に到着。車を停めて近くをブラブラしたら、すぐ裏手にある高島屋旅館で日帰り入浴ができることが分かったので、冷え切った体を温めてくることにした。
ところが、気持ちよい湯温のお風呂に浸かっているのに、冷え切っていた体がなかなか温まらない。アイスパビリオン以来ずっと続いている鼻炎も一向に治まる気配がない。体が温まれば落ち着くだろうと思い、1時間ほどじっくりと浸かったが、あまり状況が変わらない。風邪を引いてしまったかな・・・。
車に戻ったのが20時過ぎくらいだったのかな。出発して以来ずっと寝不足状態でここまでやってきたので、さすがに疲れてきた。体もなんだかだるいので早々に就寝することにした。で、寝床を作るために車内を整理していたら、滝登りの時に履いていた靴が見当たらないことに気づいた。遡って思い出してみると、どうやら現地に置き忘れてきてしまったらしい。あの時は焦ってたからなぁ・・・。
カミさんに、おっちょこちょいだねぇとからかわれたが、なんかどうでもよかった。
21時過ぎには床に就いた。すぐに眠りに落ちたが、その後どの痛みで何度も目を覚ました。せっかく早く就寝したのに、寝ていた時間の割に大して寝た気もしないまま朝を迎えた。