鹿児島へ【3】(2006/08/12)

親戚紹介中の違和感:


思いがけない鉄分補給に満足して家に戻ると、伯母さんから長旅で疲れているだろうから少し休みなさいと促された。
道中まぁまぁ眠ってはいるのだがすっきりしているというほどでもない。だが初めて上がる家で1人眠るのも気が引ける。カミさんの顔を見たら私は寝ないから寝ておいでと言われた。それならばということで少し仮眠を取らせてもらうことに。

奥の和室の開け放たれた窓から、真夏の鹿児島にいるとは思えない涼風が吹き込んできてほどなく眠りに落ちた。

 

大口(大口市は2008年に隣の菱刈町と合併して伊佐市となっているが、このエントリでは当時の自治体名で表記する)は鹿児島県の最北端に位置する自治体だ。市内の標高は200m前後と比較的高い場所にあり更に盆地となっている。

盆地と言えば夏暑く冬寒いというあまりありがたくない気候であることが多いが、大口も例外に漏れず冬場は厳しく雪も良く降るらしい。鹿児島で雪のイメージはなかった。伯母さんはそんな気候を揶揄して、大口は鹿児島の北海道なんて呼ばれているのよと言って笑っていた。言い得て妙である。

 

1時間ほど眠ったらしい。カミさんに起こされ目を覚ますとみんなが出かける準備をしていた。どうも近所に挨拶参りに出かけるらしい。
え?この辺りではご近所さんにも結婚を報告しているの?と身構えたがそうではなく、周辺に親族が多く集まっているからだとのこと。

それらの家々へ行って玄関から中の人に声をかける。暫くすると中から家人が出てくるのだが、奥様が玄関先に出てくると恭しく三つ指をついてようこそお越しくださいましたと頭を下げる。どこの家でもそうした光景が展開され、皆さん随分と丁寧なもんだなと思った。

鹿児島は亭主関白気質の強い所だと聞いたことがある。それゆえこうしたしきたりが今も残っているのだろうか。おれそんな大した人間じゃないっすから、みたいな恐縮した気分になる。

 

それからお義母さんがその家人に自分を紹介する。

「この人が○○(カミさんの名前)のお婿さん。」

と、行く先々で自分を指して婿呼ばわりで紹介した。最初の家では言い間違えたのかと思ったが、ずっとそう言っているのであくまで自分は婿であるらしい。いや婿養子じゃないんだけどなぁ。。。いやでも、そもそも身内であるお義母さんがそこを勘違いする訳がない。変に訂正して水を差すわけにもいかないと思い、微妙な笑顔で自分も婿になり切った。なんかそういうテイにしておきたいみたいな事情ありましたっけ?

そんな感じで近所数軒の家で挨拶を済ませて家に戻ってきた。一息ついてようやくお義母さんにさっきの発言の真意を聞くことが出来た。この辺りでは婿と言っても奥さんの家庭に入るいわゆる婿養子のニュアンスはないそうで、単に娘の夫を指した言葉にすぎないそうだ。そういう文化の違いもあるのだな。

 

奈加夢羅のそうめん流し:


家に戻ると丁度昼時。食事に連れて行ってもらえることになった。店の名は奈加夢羅(なかむら)と言い、この辺りの人たちが来客があった時に連れて行く店の定番だそうだ。

もっぱら炭焼き料理などを出す店であるらしいのだが、流しそうめんも有名とのこと。

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店は雑木林の片隅に建てられていて、すぐ脇には小川がせせらいでいる。

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客席はその小川の上に張り出すように拵えられたデッキになっていて、床がキャットウォークのような金属板になっているので足下に川のせせらぎがシースルーで見えている。鴨川の納涼床みたいなものか。涼を誘うなんとも風流な仕掛けだ。

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テーブルは円卓のようになっていて丸くみんなで腰掛ける。それはよいとして流しそうめんはどこでやるのだろうか?
・・・と思っていたら、テーブルの真ん中に円形に張り巡らされた溝に水が張られ、それがぐるぐると回転し始めた。まさか。

続けてそうめんが運ばれてきた。それをみんなが徐にそのぐるぐる回っている水路に落とし始めた。

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なるほど、そう言う仕組みか。一般に流しそうめんというと半分に割った竹を斜めに置いて、水を流しながら上流からそうめんを落とすものをイメージすると思うが、あれは取りそびれると下まで落ちてしまうので後でざるに集められたそうめんを食べなければならなくなる。だが、こうして円形にぐるぐる回っていればその心配もない。よく考えられているがこれご家庭でやるやつだよな。

後に調べてみたら鹿児島で流しそうめんと言えばこのスタイルらしい。基本どの店でもこの方式の流しそうめんが楽しめるそうだ。

ちなみにここまで「流しそうめん」と表記したが、正しくは「そうめん流し」だそうだ。何の気なしに流しそうめんと発言したら、そうめん流しねと訂正された。意外なところに強いこだわりがある。。。

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七輪の上に載っているのは鶏の炭火焼である。宮崎の名物だがこの辺りは宮崎からも遠くないので、食べる文化が伝わっているそうだ。

 

そして鳥刺しなるものも頼んでくれて、ほどなくそれもテーブルに並んだ。

「鳥の刺身って食べたことある?」

もちろんないです。生で食べられるんですか?と思ったら、新鮮な鳥であれば慎重に捌くことで生食が出来るのだそうだ。南九州では定番の料理でありにんにく醤油に付けて食べる。鳥ならではのしっかりとした歯ごたえと共に、お魚のお刺身のようなトロっとした食感が楽しめる。意外にも癖になりそうな味だった。

ニンニク醤油の醤油には甘いものが使われていた。これも南九州では一般的な醤油だそうだ。甘いと言ってもしょっぱさのランクを表したものではなくガチで甘い。

実は自分が子供の頃、我が家で出される食べ物は基本なんでも甘く味付けされていた。トマトは砂糖をかけて食べるし、ご飯は桜でんぶと砂糖とか、きなこと砂糖とかで食べる。納豆ですら醤油と砂糖だった。それが変わった食べ方だと知ったのは大きくなってからだった。その納豆に混ぜた砂糖醤油の味を思い出した。

・・・何の参考にもならんな。分かりやすい例えでいうと団子のみたらしあんだろうか。そういうレベルの甘さである。

 

昼食を済ませたら再び家に戻ってあとは夕方まで時折やって来るご近所さんの相手をして過ごした。夕食の支度をしてもらっている間、お義父さんのお母様(煩わしいので以下、おばあさん)の話し相手になったのだが、

「山野まで汽車に乗って(学校の?)先生がやってきた時、こんな猿が出るような田舎によくお越しになったと言ったものだ(意訳)」

これを繰り返し聞かされた。多分10回くらいw
どうも昼間に山野線の線路跡を見に行ったことがおばあさんにも伝わったせいらしい。

おばあさんはもう90歳を過ぎた御大である。年齢相応の認知の衰えはあるようだが仕草がおちゃめなおばあさんだった。

 

夕食後続々とお義父さん側のご兄弟が集結した。その中の1人がエステティシャンであるそうでカミさんにも特別に無料施術して貰えることになった。オイルで念入りにマッサージされた後にパック。素人が端で見てもビフォーアフターで全然肌のキメが違うつや肌になっていた。もちろんカミさんもご満悦。

そして程よき所で就寝となった。

Posted by gen_charly