小笠原上陸【15】(2008/09/13)

小笠原担当のおじさんの話:


食事を済ませてテレビを眺めていたら、早々に晩酌を楽しんでいたさっきのおじさんが話しかけてきた。
やはりおじさんも公共事業の関係者で小笠原周辺の道路設計に携わっているらしい。20年ほど前に小笠原の専属担当になり、以来この島には30回以上訪島しているそうだ。

小笠原は前述のとおり、おがさわら丸で6日間の旅程を強いられる。おじさんはそれを逆手にとって滞在中必ず1日以上現地で観光の時間を作ってあちこち観光して回っているらしい。なんだその羨ましすぎる仕事は。既にそれだけの回数島に来ているので、南島やドルフィンスイム、ホエールウォッチングなどももちろん体験済みとのこと。しかもその経費は会社持ちらしい。けしからん、けしからん、うらやまけしからん!w

 

ドルフィンスイムは明後日我々も体験する予定である。事前にどういうものなのか知りたくなってツアーの様子を聞いてみた。

「まぁ、イルカがいれば一緒に泳げるよ。イルカを見つけたら船で近くに行って『はい、海入って!』って合図があるので、海に入って上手く見れなかったら一旦船に上がって来て、またイルカを見つけたらその近くに行って、で、また『海入って!』の合図で海に飛び込んで、って繰り返す感じ。結構疲れるよ。」

自分はどんな風にイルカと泳ぐのかまるでイメージが沸いていなかった。いい感じにイルカと戯れながら泳ぐような漠然としたイメージを持っていたが、そんなヌルい物ではないらしい。考えてみたら相手は野生のイルカなのだから人間に足並みを合わせてくれる訳がない。イルカと同じスピードで泳ぐことなど土台無理なのでイルカと一緒に泳ぐと言うよりは海中でイルカの姿を見る、と言う方が正しいのかもしれない。

問題は船酔いしやすい自分がそんなアクティビティに耐えられるかどうかだ。一応当日も酔い止めは飲んでおくつもりだが、これまでのフェリーとは次元の異なる揺れ方が予想されるわけで薬が役に立たない可能性もある。そうなったら釣り上げられたマグロのようにデッキに転がる羽目になるだろう。。。

 

他にも色々話をした。自分らが興味深く相槌を打っていたせいか上機嫌にあれこれ話してくれた。
一頻り話してそろそろ部屋へ戻ろうか、となった時におじさんから明日の予定を聞かれた。父島に戻ることを話したらおじさんも同じ船で戻るらしく、じゃあ父島で飲みに行きませんか?と誘われた。

明日は夜にナイトツアーを入れており、飲みに行く時間が確保できるか今の段階で何とも言えなかったので、もし時間合えば是非ということでお互いが宿泊する宿の名前を交換して解散となった。

 

食堂を出る前に明日北港方面に行って帰って来るのに何時ぐらいに出たらよいか主人に聞いてみた。
主人は、どこ見て来るかにもよるのですがまぁ7時半くらいに出れば大体見てこられると思いますとのこと。ついでに朝食の時間を聞いたら7時半からだという。じゃあ早々に朝食を済ませて出ても8時からか。。。なんてぶつぶつ言っていたら、じゃあ朝食は7時に出しますよと言ってくれた。

折角のお申し出、有難く頂戴します。と言うことで明日は7時半出発となった。
カミさんが南崎で海に入りそびれたことを根に持っていて、母島にいる間に一度はどこかで入りたいと言っている。良い感じのビーチがあるかどうかなんとも言えないが、北港の辺りで海に入れそうなら少しだけ海と戯れる時間を作ることにした。

 

食堂から一旦部屋に戻り、その足ですぐに風呂に向かった。宿の浴室は民家に毛が生えたような風呂場なので貸し切り制にしているらしく、空いているタイミングで順次入るルールだそうだ。それなら出遅れて順番待ちになる前にさっさと入ってしまおうという魂胆である。

浴室に行くと丁度空いていたのでそのまま借用。浴室は2人がゆったり入れるくらいの湯舟と洗い場が2つ。確かにこれだと複数人での入浴は厳しそうだ、というかカミさんが宿唯一の女性客なので仮に大きな風呂が1つだけなんて話になったらもう入ることが出来ない。

湯舟はまだお湯が溜められていなかったので自分らが一番乗りだったらしい。湯船にお湯を貯めている間に体を流す。洗い場のシャワーは意外にも勢いよくお湯が出てきた。離島は大抵水の確保に苦労しているので水道の水圧が低いと思っていたのだ。この島は割と水が豊富なのだろうか。

 

頭や体を流している時にふと体が下に落ちるような感覚に襲われた。最初何が起きたのか理解できなかったのだが、ほどなく陸酔いであるらしいことに気づいた。これが噂の。。。

陸酔いというのは長時間船に乗って揺れに体が慣れた頃に船を降りると、その後も船に乗っている時のようなゆらゆらとした感覚が続く現象だ。自分がいる場所は全く揺れない大地の上であるのは頭ではわかっているのだが、断続的にふらつくような感覚に襲われて気持ちが悪い。というかもう船を降りて5時間も経っているのに今頃襲われるなんて。。。

こんな気持ちの悪い感触だとは思わなかった。なるべく意識しないようにしておこう。
体を洗い終わる頃に湯舟もお湯が溜まったので、それに浸かって2日ぶりに極楽気分を味わった。

 

母島散策 - 沖村の夜:


風呂から上がったあと湯冷ましを兼ねて近所の散歩に出かけることにした。散歩と言っても外はほぼ真っ暗なのであちこちほっつき歩くことはできない。唯一明かりが煌々と灯っている港の周囲に行ってみることに。

宿に到着した時にも書いたが、宿から港までは裏道を歩くと1、2分で出られる。その道の至る所にオオヒキガエルが居座っている。オオが付くだけに巨大だ。軽く10cmくらいある。人間をあまり恐れないらしく結構な至近距離まで近づいてやっとひと飛びするくらいのんびりしている。こんな生き物がカジュアルにその辺にいるというのがこの島の魅力。ただしカミさんはカエルが苦手らしく体を強ばらせて怖がっている。

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海岸に出たところから向こうの方に停泊中のははじま丸が見えた。港の明かりもあってそれほど暗くないように見えるが、この写真は夜景モードで10秒くらい露光させたものなので実際にはもっと暗い。

少し先で島のメインストリートが分岐するが道沿いの店は全て閉まっていた。全てと言っても店は全部で3軒しかない。もちろんチェーン店なんかない。そしてその3軒の店は夕方には早々に閉店してしまうので夜はひと気がない。夜といってまだ21時半である。まだというのは都会にいる感覚だろうか。そんな集落を徘徊している物好きは自分らだけだった。

 

閑散とした雰囲気は自分が子供の頃に見た地元の風景とを思い出させた。自分の地元にコンビニが初めて開店したのは確か1989年だったと記憶している。それ以前は中心街のスーパーマーケットですら19時には閉店してしまうのでそれ以降頼れる物は自販機のみしかなかった。今思えば不便な環境だったなと思うが、当時はそんなものと思っていたので別に不自由を感じていたわけじゃない。店が閉まるから19時を過ぎると出歩いている人もめっきり少なくなる。

だが自分は当時から徘徊癖があったので、しょっちゅうその自販機まで飲み物を買いに出かけていた。目の前に広がる景色が当時の地元の光景とダブって妙に懐かしくなるような不思議な感覚になった。と言っても地元はここまで暗くはなかったが。

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宿には酒以外の飲み物が売っていないので途中の自販機でコーラを購入。それから港の観光案内所のところまで行ってみたら、建物の脇にデカいクジラのオブジェが置かれていた。島に上陸した時には気が付かなかった。

丁度良い位置に柵があったので、そこにカメラを置いて長時間露光で撮影したのが上の写真である。クジラは動かないが背後の船は揺れるので、船だけぶれている。

誰もいないのをいいことにオブジェと戯れている写真を撮ったりしてから宿に戻った。

 

部屋に戻ってとりあえずテレビをつけて、今しがた買ってきたコーラに手を付ける。
テレビの番組は東京で普段見ている物と全く同じなので一瞬自宅のリビングにいるような感じになる。

いやいや、今いる場所は東京から1000キロ以上彼方の離島、母島だ。TVから流れてくる番組やCMはこの島には殆ど縁のないものばかりである。神楽坂に美味しい店があると言われたって、じゃあ週末に行ってみるかとは絶対にならないし、コンビニのCMが流れてもこの島にはコンビニがないのだ。

島に暮らす人たちはどんな気持ちでテレビを見ているのだろうか、と愚にもつかないことを考えてしまった。

さて明日もあるのでぼちぼち就寝だ。明日は6時起きである。

Posted by gen_charly