岡山出張【4】(2023/09/17)
鹿忍の水没ペンション:
で、歩くこと20分あまり、予定時刻の15分ほど前に到着。車は準備されていてつつがなく手続きを済ませた。返却は21時までなので戻り道は日が暮れてからゆっくり帰って来ればよい。日没までのおよそ半日が行動時間と言う感じだ。
その半日でどこへ行くかは出発前にリストアップしてある。今日は岡山市の南東にある瀬戸内市と備前市の見どころを点々と回ってみたい。
あ、そうそう、まずはホテルにデポしてある荷物を回収しないと。ということでホテルに立ち寄ってから瀬戸内市方面に向けて出発。
まず初めにやってきたのは牛窓と言う地区。オリーブ栽培が盛んでその風景から日本のエーゲ海なんて呼ばれているらしいが、自分が目指すのはそういう風光明媚な場所ではない。
鹿忍(かしの)と言う集落を入っていくとやがて水辺が見えてくる。その水辺は季節柄か藪に覆われていて、その向こうの様子が良く見えなかったが、近づくにつれ何やら様子が変なことに気が付く。
あれ?水上コテージ?
池の中に点々と浮かぶ小屋が見える。屋根が1Fまで回り込む合掌造りのような凝ったデザインだが、なんか見るからにみすぼらしい・・・。
まぁ知らないふりをするのもわざとらしいので先に答え合わせだが、これはペンションの廃墟である。自分がこの存在を知ったのが何年前だったか忘れたけどネットのニュースサイトで記事を読んだことがきっかけだ。当時その記事を読んでちょっと興味が沸かないでもなかったが、岡山に行くことがあってもわざわざ水没したペンションの廃墟なんて見に行くことはないだろうな、と思っていたのでやがて記憶の奥底に仕舞われてしまった。
今回、岡山散策をするにあたりグーグルマップで見どころをチェックしている時に、この後行く予定の場所からほど近い所にこの牛窓の水没ペンション村がわざわざマーキングされているのを見つけた。それを見てそう言えばと思い出したのだ。
この異様な姿をさらすペンション(というかバンガローか)は、鹿忍グリーンファームという40年ほど前に塩田の跡地に建てられたレジャー施設のものだそうだ。塩田一帯の海抜は海水面よりも低いらしく、グリーンファームが健在だった当時は敷地に溜る水をポンプで常時排水することで施設を維持していたらしいのだが、グリーンファームの経営破綻後2014年の台風の高波によってポンプが故障してしまい、それから徐々に水が溜まって現在の状態に至っているとのことだ。
廃墟というあまり一般ウケしない施設がグーグルマップにマーキングされていることには驚いたが、自分が現地に到着した時は1台の車が停まっていたものの人の姿は見当たらず閑散としていた。まぁやっぱり廃墟なんだからそんなもんだよな、と思いつつ少し道幅の広がった場所に車を停めた。
道路に立つと遠景として全体が見晴らせるが、ひとつひとつの建物はよく見えない。道路の3mほど向こうに幅1m程度の通路が見えるのだが、その間に幅2m位の水路が横たわっていて行くことが出来ない。どこかに橋でも架かっていないだろうかと道路沿いに少し歩いてみることにした。
100mほど戻った所に1か所通路と道路が接続している場所があった。特に立入禁止を示すようなものは何もなかったのでそこから通路に進入してみた。
その通路の上からより間近に建物が見えた。こうしてみると1階の床面すれすれ位の水位に見える。基礎の高さがどれほどか分からないが、高床式と言うこともなさそうなので水深は1m前後だと思う。深さはないので覚悟を決めれば水の中を歩いて近づくことも出来そうだが、どう見ても水質の悪そうな水なので体中臭くなることを覚悟しなければならない。ネットで検索するとドローンで近寄っている動画もあったので、まぁ現実的にはそれが正解だろう。ただし、近づいた所で屋内の様子が見られる訳でもないので、ここから見たのと大差ない情報しか得られないと思うが。
あちこちに立ち枯れになった木立が見える。営業していた頃にここに宿泊したり遊んだことがあるという人もいるのだろうか。これもネットの画像検索をしてみたが、当時の写真は航空写真があるくらいで敷地内の様子を掲載している人は見つからなかった。まぁだから潰れるんだよな。
バンガローの奥にあるビジターセンター的な建物の脇に軽トラックが2台水没している。この辺りはさっきのバンガローよりも深いらしく、胸の高さくらいまで水没している、あの軽トラのエンジンやフレームなどはもうボロボロだろう。
バンガローを別の角度から。手前の街灯が虚しさを誘う。
いま自分が歩いている通路はグリーンファームの敷地を囲うように続いている。そして水路も通路の脇を平行して流れている。水路には水が満たされているのでどこかから流れてきた川の放水路なのだと思うが、同時に敷地の排水を処理する水路も兼ねているようだ。こちらも流れが淀んでいて水質はあまり良くなさそうだった。
さっき車を停めたところの辺りまで来た。ここからだとペンション群が良く見える。ベストアングルだから車が停められるように道を整備したのか、車を停めやすい場所なので藪を刈り払ったのか不明だが(多分後者)、いずれにしてもここを観光スポットとして活用しようと考えている人がいるような気がしないでもない。
さっき自分が到着した時は誰もいなかったが、通路を歩いている時は2分に1台くらいのペースで車が通り過ぎていった。その際、皆一様にこの場所で車を停めるか速度を落とすかして、しげしげと見物しているらしかった。と言っても眺めるだけで降りて来る人はいなかったが。さっき通りかかったライダーの集団がこちらを向きながら、あれかぁ!なんて言っているのも聞こえた。まぁ見た目のインパクトが強烈な物件なので、散策するほどでもないがちょっと見ていこうと思う人は案外多いのかもしれない。
ただ、こちらに足を踏み入れようとする人は流石に1人もいなかった。自分が物好きすぎるのか。
更に進んでいくと水路に沿って通路が左へ向きを変え、並行していた道路が徐々に離れて行った。
ここまで立ち入る人はあまりいないのか、この辺りは背丈ほどに育った藪に視界を遮られて向こう側の景色は良く見えなかった。
めげずに歩いていくとやがて視界の先に青い海が見えてきた。さっきまでの淀んだ風景から一転、爽やかな風景である。やっぱり水は循環していないと悪くなるのだなぁ。
ここで通路は再び左に折れて塩田の湾口を塞ぐ堤防に沿ってまっすぐ対岸の方まで続いている。
堤防の上に登ってみたら藪の向こうの様子が良く見えた。
海に面した方から見るバンガローはこんなデザインだった。なんだか白川郷の合掌造りを連想させられるが、よく見ると全然違う。
真ん中の小さな建物は何だろうか。
堤防の奥の方にもう一軒建物が見える。さらに歩いて見に行ってみた。
他のバンガローの建物と比べてひときわ大きい。レストハウスか何かだったのだろうか。もちろん陸地側からもこの建物はよく目立っている。
よく見るとこの建物の傍らにも車が1台水没している。水が少なかったころに撮影された写真を見るとスズキのジムニーらしい。無残だなぁ。
建物はこんな感じ。ちょっと足を踏み入れようにも藪が凄すぎて近寄りがたい。
窓ガラスなど一部破損しているところもあるが、全体的にはそれほど傷んでいないようにも見える。まぁ、実際にはこのままじゃ使えない程度には傷んでいるのだろうが。
奥の方には倒壊した建物が見える。ここはゴルフ練習場だったそうだ。力なく張られているネットはその名残らしい。
水が溜まっているせいで蚊などの害虫や悪臭などの発生が問題になっているらしく、近隣住民から早期の撤去を求められているそうだが、これらを撤去するためにはとにもかくにも水を抜かなければならない。そのためにはポンプの修理や交換が不可欠となるが、経営者と連絡が取れないのでこれと言った対策が取れないまま今に至っているらしい。
とはいえ仮に水を抜いて更地にすることが出来たとしても塩田の跡地など使い道がない気もする。そんなところに積極的にお金をかけるとも思えないので当面ここはこのままとなることだろう。というか暫定対策として堤防に穴を開けて海水を入れ込んだら水質自体は改善しそうな気がする。もちろん建物の残骸を撤去しなければならないので、いずれにしても費用のかかることだとは思うが。
なんとも無残な光景だが、救いはここが人が住んでいた家でないことだ。ここが民家だったらそこに暮らしていた人の日常に思いを馳せてしまってどうにも重たい気分にさせられそうな気がするが、定住していた建物ではなのでつぶれた店とかその程度の感覚で野次馬が出来る。
車のあるところまで戻ったら数分前に通過していったバイクの集団が折り返して再び戻ってきていた。この後自分が歩いた通路を歩いて散策しそうな感じだ。
さて、ぼちぼち先に進もう。水没ペンションはさらっと見学して先に進むつもりだったのだが、思いがけず長居してしまった。そのせいで時間が押し始めた。