岡山出張【9】(2023/09/17)

園内散策 - 東側居住エリア:


教室は島の集落(という表現が適切かどうか分からないが)の東端にある。と言っても2分割された島のうち利用されているのは西側の3分の1ほどで残りは山林になっている。その辺りには道も建物も一切ないようなので、ここで折り返す形で今度は住居エリアを見学しに行くことにした。

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海岸沿いに出ると更に東の方へ海岸沿いに延びる道がある。その先にもかつて利用されていた施設(と言ってもため池など)が有るらしいのだが、入口のところで通行止めになっていた。路上に石が転がっているのが見えるのでがけ崩れかなんかがあったのかもしれない。

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そこから振り返った所に見える海岸もまたひと気がなく、うららかな陽光を浴びて長閑な空気で満たされていた。

途中の路地を曲がって再び山側に進んで山手側の通りを歩いてみた。

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程なく見えてくるのが望ヶ丘団地と呼ばれるエリア。園内の住居は全て平屋建てで数戸が連なった長屋が十棟ほどの単位で島内いくつかの場所に分かれてまとまって建てられている。

入所者たちが日々を過ごす場所であるにもかかわらず、ここにもひと気がなかった。まぁ猛暑の昼下がりなのでわざわざこんな時間に外をほっつき歩く人はいないのだろう。

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山手の通りから住宅地へと入っていく路地が何カ所かで枝分かれしていた。どんな雰囲気の場所なのだろうかと視線を向けたがやはりひと気はない。ひと気がないのだからカメラを向けて咎められることもないだろうが、もしかしたら屋内から様子を窺っているかもしれない(田舎の過疎集落などに行くとよくそういう場面に遭遇する)。

入所者をいたずらに刺激して不愉快な思いをさせるのは本意ではないので、丁度路地に置かれていたカーブミラー越しに通路を撮影してみた。と言っても何の変哲もない通路である。静かなものだ。

 

ここに入所している(していた)人は皆様々な困難や苦労を乗り越えてきた人ばかりである。現在はらい予防法も撤廃され日常生活において何ら差別を受けることなく暮らせるようになった訳だが、とは言っても本当に自由を謳歌できるようになったのかと言えば怪しい。実際には表面化しない様々な足かせが未だに残っているのではないだろうか。

歴史館ではハンセン病にまつわる国の政策の理不尽と戦ってきた歴史については多く語られているが、その後どうなったのかについての情報が薄い気がした。

今入所者がこのような暮らしをしているのは、過去に様々な苦難があってそれを乗り越えた結果なのだ、の「このような暮らし」の部分をもっと知りたい。胸に迫るエピソードは沢山あったが、自分はハンセン病患者受難の時代をリアルで知らないので今現在と繋がる話がないとどうにもピンとこない。

というわけで施設「内」の見学はどうだろうか。特に住居は入所者が日々を暮らす場所であり、そこには日常の不便を解消するための独特な工夫があるのではないかと思う。そうしたものに目を向けることで歴史館が解説するものへのリアルを補強できるのではないだろうか。

島には建物が80棟以上あるそうだが、入所者は2018年の時点で164人とあるので既に空き家になっている部屋もそこそこありそうだ。
そうした空き家をいくつか開放して見学できるようにすれば良いのではないだろうか。もちろん入所者の生活エリアのすぐ近くを見学者が無遠慮にウロウロすることを快く思わない人もいると思うので配慮はしなければならないが。

 

話が逸れた。いやでもインフラの見学はやってみたいな。

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そのカーブミラーの背後に映り込んでいる建物は共同浴場だそうだ。望ヶ丘浴場と言う看板が掲げられている。入口の扉にはカーテンが架かっていて閉鎖しているような雰囲気だったが、窓に貼られたポスターはそれほど古くなかったので今も時間限定で開放されるのかもしれない。

というか共同浴場があると言うことは各部屋には風呂が付いていないのだろうか。現在の入所者は皆高齢になっているので、家からここまでわざわざ入浴しに来られるくらいかくしゃくした人ばかりではないと思う。家風呂が望まれるのではないだろうか。
あるいは介護施設的に要介護者を入浴させる施設なのかもしれないが、こんにちの園内についての情報が殆どないのでどのようになっているのかがよく分からない。

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更に進んでいくとなんか妙な建物があった。車庫のような施設だが車庫として使っている訳ではないような感じだ。何かしらの用途で一時的に車を停めるための施設に見えるが特に何も書かれていない。

サイズからして小型トラックや大型のバンなどが停まれるような感じである。

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そしてこちらが総合診療棟。ここが園内の医療の中核を担っている。

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島の北側の海岸に出てきた。

 

園内散策 - センター地区:


続けてセンター地区へと進む。この通路が園のメインストリートになっていて、居住エリアと諸施設が集まっている。

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入口はこんな感じ。左のレンガタイルの建物が総合医療棟である。ここをまっすぐ歩いて行くと散策の冒頭で紹介した総合案内のある場所に繋がっている。

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先ほど見てきた望ヶ丘団地は木造モルタルの建物だったが、こちらはコンクリート造の建物が並んでいる。近年建て替えられたのかもしれない。コンクリート造りの平屋ということで公団の団地内にある商業エリアのような雰囲気を醸し出しているが、看板がないので地域の作業場とか集会場と言ったような雰囲気もある。そして相変わらずひと気は全くなかった。部屋の中からテレビの音が聞こえて来たりすることもなかったし、洗濯物が干されている部屋も見当たらなかった。

ここをまっすぐ抜けていくと南側の海岸沿いの道に出る手前にショッピングセンターと呼ばれる売店がある。炎天下を歩き続けてきたのでちょっとアイスクリームでも買って食べようと思ったのだが、、、

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休みだった。アイスはともかく店内にどんな品揃えがあるのか見てみたいと思っていたのだが、残念。せめて隣の自販機で缶コーヒーでも買ってグイっと空けようかと思ったのだが自販機の方も殆どが売り切れだった。

休日に休みなんて急遽買い物がしたくなった時に困るのではないだろうか、なんて思うのは都会暮らしの人間の思い込みか。

 

さて、時計を見ると15時半近い時間だった。散策のリミットはざっくりと16時くらいと考えたのでまだ30分ばかりある。暑さにはうんざりしつつあるが、まだ東側エリアの施設などが見学できていないので時間一杯までもう少し見てみよう。
ここで一旦立ち止まって歴史館で貰ったパンフレットを広げた。この先に十坪(とつぼ)住宅と書かれた場所があるのが目についた。

ここが今のような小奇麗な住宅になる前、入所者によって建てられたという入所者向けの住宅を十坪住宅と称していたそうだ。その由来は建物の大きさからきているらしい。何棟か当時の建物が残されているらしいので、ちょっと見に行ってみることにした。

パンフの地図では一旦海側に出て総合案内の建物の所から入っていく道順になっていたが、ショッピングセンター裏に見える路地からの方が近道のように見える。

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じゃあそこから行ってみよう、と思ってショッピングセンターの建物を回り込んだら急坂が待ち構えていた。

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少し登っただけでこの見晴らしである。右側の建物がショッピングセンター、奥に見える白い建物が総合医療棟である。他の建物も割と新しいが、これらの建物はひときわ新しい。恐らくまだ建てられて数年しか経っていないような感じだ。こうして徐々に新陳代謝を繰り返しているのだな。ただ、そう遠くない時期にここの入所者数が施設を維持可能な限界を下回る日が訪れるはずだ。その時これだけの建物群はどのようになるのだろう。

坂の入口にあったラジオのスピーカーからDJがイントロクイズのようなものをやっている番組が聞こえた。屋外に何らかの放送が聞こえるとなんか商店街かなんかを歩いている時のような感じがする。だが相も変わらずひと気がない。それがとにもかくにも違和感だ。なんだか活気のある街から人だけがいなくなってしまったような感じだ。

Posted by gen_charly