奄美皆既日食観測ツアー【23】(2009/07/23)
与論島:
それから程なく与論島の島影が近づいてきた。アクアブルーの海とコントラストの高い緑、全てが夏の島だ。
与論島は鹿児島県の最南端に位置する島で、これまでの奄美群島の島々とは異なり隆起サンゴの島となっている。そのため海岸にはいかにも南国という感じの白砂のビーチが広がっている。
そして着岸。港の周囲の海まで綺麗な色をしている。この島も多くの乗客が下船していった。
80年代のリゾートブームの時には、この島は沖縄と肩を並べる程の人気の島だった。当時は与論島ではなくヨロン島とカタカナで表記されていたような気がする。カタカナで書くことによって海外の島であるような印象を持たせたかったのだろうか。今ではリゾートブームがひと段落したので一時期と比べたら落ち着いているようだが、それでも綺麗なビーチが広がるのどかな離島ということで相変わらず人気の島である。
こうして見ても、港の周囲からしてこれまで寄港してきた島々とは異なるのんびりとしたムードを漂わせている。このまま下船して島の中をゆっくりと散策してみたい。目の前に島が広がっているのに下船できないこのお預け感。もどかしい。。。
与論島と沖縄本島の間はわずか二十数キロしか離れていない。なのでここからでも沖縄本島の姿がはっきりと見える。
米軍による沖縄占領時代はこの海峡に国境が引かれていた。国境は引かれているがこちらと向こうに暮らす人は共に日本人であり、かつ琉球の民である。沖縄では祖国復帰運動が盛んにおこなわれ、本土がこんなに近くにあることをアピールするため、沖縄本島北端の辺戸岬と与論島の間でのろしを上げて絆を確かめ合ったりしたそうだ。
20分ほどの停泊のあと出港。あとは沖縄本島に沿って南下するのみだが、意外にもこれで全行程の半分強である。いかに沖縄本島が大きいか。
いよいよ昼下がりを迎えて太陽が本気を出してきた。流石に熱くなってきたので日陰に移動した。昨日この太陽が欲しかった。
本部港:
それから1時間ほどまどろんだ。進行方向左手側は一面に沖縄本島北部のやんばるが屏風のような山襞を見せている。これまで通過してきた島々は港から島の両端が見渡せる程度の大きさだったことを考えると、やはり本島を名乗るだけあってスケールが大きい。
そのまままどろんでいたら、デッキの向こうの方からエンジンの音に混じるように、ビュオーというかミョエーというか、何とも形容しがたい音が聞こえてきた。断続的に聞こえてくるその音を最初は何かが共鳴している音だと思った。その後も絶え間なく聞こえてくるので何が共鳴しているのか気になって音の出元の方へと歩いていくと、出港時にデッキで談笑していたレゲエ風のグループがまたデッキに出てきていて、そのうちの1人がディジュリドゥを吹いていた。音の出元はそれだった。
ディジュリドゥというのは聞き慣れない楽器だが、オーストラリアのアボリジニが使う民族楽器である。ここ数年、路上ミュージシャンが吹いていたり、アーティストのコンサートで使われたりするようになった。
長いパイプのような形状をしていて、地声を管の中で共鳴させるようにして音を出す。だからビュオーみたいな表現しがたい音が鳴る。それにしても彼らはいったい何者なのだろう。
右側に伊是名(いぜな)島、伊平屋(いへや)島が見えた。沖縄で最も北に位置する島で鄙びた小離島であるそうだ。といっても瀬戸内の限界集落になってしまったような島と違って、ちゃんと共同体としての営みが続けられているので定期航路もある。行こうと思えば自分の思いひとつで訪ねることができるのにそれが出来ないもどかしさ。1カ月くらい休んで沖縄の離島を散策して回りたい。職場の席がなくなること請け合いだが。でも夢だなぁ。
ずっと外にいたせいか流石に肌がひりついてきた。一旦ロビーに避難して冷たい飲み物を買った。冷房の効いた船内でそれをグビグビ飲んで、それから一度自席に戻ってみた。自席のある船室はこれまで寄港した島々で下船した人が多いのかいつの間にだいぶ閑散としていた。
その割に自分の両隣りはまだしっかりとご着席している。やっぱり席に戻る気にはならなかったので程よく体をクールダウンさせてから再びデッキに移動。肌がヒリヒリするなら中に居りゃいいのにという話だが、デッキから見える様々な島影を見逃したくないのだ。
やがて本部港のある本部半島が近づいてきた。沖縄本島の中央部付近にある北側にポコッと出っ張っている所が本部半島である。本部港は半島の南部にあるので船は本部半島を回り込むように進む。すると右手側に特徴的なシルエットの島影が見えてくる。
伊江島である。その特徴的なシルエットを形作っているのがタッチュー(城山)と呼ばれる山だ。とんがり帽子のようなというか、ディズニーランドのビックサンダー・マウンテンのようなというかそんな形状をしている。このタッチューも一度間近で見てみたいもののひとつだ。
・・・と自分がその島陰に思いを馳せている横に写真撮影をしている初老の夫婦がいる。カメラを手にしているのが奥さんで旦那が奥さんにあれこれ指図している。伊江島の方角はあっちだの、瀬底島はこっちだの、写真を取り逃したら大変!だの。口をとがらせながら事細かに指示して、奥さんは戸惑いながら右に左にカメラを向けていた。面白い人がいるもんだ。そんなに撮りたいなら自分で撮ればいいのに。そもそも船は遅い乗り物なんだからそんな焦らなくても写真は撮れるよ。
本部半島には有名な美ら海水族館がある。上の写真は多分その辺を写したもの。美ら海水族館は2005年の社員旅行で訪問し、雑な見学をしている。
そして、今度は左側に瀬底(せそこ)島が見えてくる。この島は2006年の社員旅行の際に訪れている。この時は現地でカミさんの上司と遭遇して観光気分が萎えたせいで、ろくに楽しめずに立ち去った苦い思い出の島である。
瀬底島には県内随一の有名なビーチである瀬底ビーチがある。船の上からでもその白砂の砂浜の姿が良く見えた。
間もなく入港する本部港は瀬底島と海峡を挟んで向き合う場所にある。本島と瀬底島の間は架橋されているので最短ルートでの入港が出来ず、瀬底島の周囲をぐるっと回り込むコースを取る。
そして本部港に到着。既に16:30を回っていて幾分日が傾いてきた。朝6時から乗っているので既に10時間あまり乗船していることになる。なかなかの長旅である。
この港で下船する人は少なかった。数人が下船して程なく出港。この長い船旅も次の那覇新港が終点となる。