北東北の旅【8】(2010/08/16)

南部縦貫鉄道 3両のキハ10形:


というわけで非公開の格納庫に案内してもらえることになった。ダメ元でも声をかけてみるものだね。職員の先導で車両が保管されている格納庫へと入室する。格納庫は雪国の過酷な気候に耐えるため、全体的に窓が少なく中は薄暗い。だが、庫内の2線分の空間にかつて南部縦貫線で活躍していた車両がぎっしりと詰めて停められているのがすぐに分かった。そして、

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その存在を知って以来20年、いつかこの目で実物を見てみたいと思っていたレールバスも停められていた。形式はキハ10形という。

鉄道車両は様々な保安上の要請から、自動車と比べてかなり頑丈に作る必要があり、製造コストが高額になる。そんな費用を地方のローカル鉄道が工面することは容易ではなく、ゆえに古い車両を使い続けなければならなくなりがちだ。そうなると乗客へのサービスも低下するし、現代と比べて効率の悪い機関は燃費など面でも負担になる。さらに年数を経れば経るほどあちこちが壊れてその修理代も嵩む。まさに八方塞がりの状態になってしまうのだ。

それなら構造がより簡単なバスをベースに鉄道車両を作って、安価に車両を提供すれば地方鉄道の救世主となるのではないか、という思想で作られたのがこのレールバスと呼ばれる車両である。

上の写真だと背後に旧国鉄のキハ10形が見えるが、その大きさと比べたらだいぶ小ぢんまりとしていることが分かると思う。車体やドアなどの造りも一般的な鉄道車両と比較するとだいぶ簡易的になっている。

 

安価な鉄道車両として誕生した画期的な車両だが、様々な箇所でコストダウンが図られた車両は当然その耐久性も低くなる。大抵20年程度がその寿命とされていた(とはいってもバスなどは20年未満で更新されることがほとんどなので、それと比べたら長いといえば長いのだが)。だが、幸か不幸か経営難に喘ぐ南部縦貫鉄道においてはこれしきの車両でも更新が容易ではなく、大切に使い続けざるを得なかったので、結果的に製造して50年弱を経た現在もこうして生き残っている。

当時としてはコストダウンを徹底した車両ではあるのだが、デザインにはさりげないこだわりも感じられてなんだか愛嬌がある。小ぢんまりとしたレトロなレールバスはまさにオンリーワンの存在だ。そのかわいらしさが堪らず近所の模型店でこの車両のNゲージ模型を見つけた時には即買いしてしまったほどだw

案内してくれた職員によると、この車両は有志により維持されていて年に1度の公開日以外はこの車庫で保管しているそうだ。少し前まで公開日以外は一切非公開だったのだが、最近見学を希望する人への案内が許可されたのでこうして案内することができるようになったということだ。なんと絶妙なタイミングの訪問であるか。

 

外観を愛でるように眺めていたら、中も見てくださいと言われた。えっ!中も見れるの!?マジ最高!

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ああ、これがあのレールバスの車内か・・・。いや、いいなぁこの雰囲気。車内はロングシートのみでシンプルな構造になっている。そのシートはビニール製でどう考えても長時間乗るためのものになっていない。といってもこの車両が長距離列車になることはあり得ないのでこれでよいのだろう。

エアコンなんてもちろん付いていないが扇風機すらも付いていない。暑かったら窓を開けてねという割り切り設計。

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運転席部分。シンプルイズベストな運転席である。両側に乗降扉があるので、乗務中の運転手は幾分窮屈さを感じながら乗務していたのかもしれない。それはさておき、この車両の一番の特徴が床面にある。ひとつは運転席の脇に設けられた突起、そしてもうひとつが運転席の足元部分にあるペダルである。

運転席脇の突起はシフトレバーを接続するためのコネクタになっている。そう、この車両にはシフトレバーがあるのだ。ほぼ全ての鉄道車両にはシフトレバーというものがない。ギヤチェンジは自動的に行われるかマスコンのコントロールによって行うので不要なのだ。だが、この車両はバスの設計がもとになっているせいか、車でいうところのMT車とよく似た作りになっている。ただし車と違って前後に運転台があるので、誤操作防止のためシフトレバーが脱着可能になっている。

なので、運転手はブレーキハンドルとシフトレバーを持ち込んで所定の場所に装着してから運転を開始することになる。そしてMTなのでクラッチペダルも付いている。それが足元のペダルである。

 

この車両は富士重工が製作したものだが、当時の設計書が既に散逸しているらしく、今となってはどういう経緯によってこうした構造が採用されたのかもう分からなくなってしまっているそうだ。もっとも、樽見鉄道などに導入されたLEカーと呼ばれる後世のレールバスも富士重工が手掛けている。この車両の製作ノウハウが生かされたのだろう。

現存するMTの鉄道車両は自分の知る限り国内ではこの車両しかない。ギヤチェンジしながら加速していく列車というのはどのようなものだったのだろうか。それを一度体験したかったなぁ。

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先ほども写真に写り込んでいたが、キハ10形の後ろに停まっている車両は旧国鉄のキハ10形である。偶然どちらもキハ10形であるが、もちろん構造から何から全く違う車両である。

ただ、南部縦貫鉄道において旅客車両は自社オリジナルの2両と既に廃車済みの1両、それにこの旧国鉄車両の計4両しかないので、特に区別する必要もなかったのだろう。

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なので車番もレールバス3両の続番になっていてキハ104を名乗る。元々の車番が偶然キハ10 45だったので末尾の5をペンキで雑に消しただけのお手軽アレンジとなっている。

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車内は旧国鉄時代のままの姿である。シートは濃紺のモケットになっているので、レールバスの方より乗り心地は良かったかもしれない。

この車両はレールバスでは乗客が捌き切れない通勤通学時間帯用に導入されたものだそうだ。あまり使用頻度が高くなかったのかもしれないが、鉄道博物館で展示されているレベルの骨董品なのに、思いのほか綺麗に維持されている。

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車内放送のスピーカーは埋め込みではなく天吊り式になっていた。

そのほか機関車なども保管されていて軒並み保存状態は良好であった。ひととおり撮影したが長くなるので省略。

こうして車両の見学会は終了となった。お礼を述べて駅を後にした。しかしほぼ諦めていたところからの逆転劇。見ることができて本当に良かった。

 

じっくりあちこち見学させてもらったこともあり、車に戻ったら時刻は既に16時を回っていた。当初はこの後恐山に行ってみようと考えていたのだが、今から向かっても着く頃には日が暮れてしまう。かといってこの近辺で見ておきたい見どころもあまりない。だったら先に進もうということで、青森市街を経由して十三湖の方を目指すことにした。これによって明日は津軽側の見どころを回ろうという思惑である。

Posted by gen_charly