宮古島社員旅行【9】(2003/07/21)

ミャークフツ:


さて、ここで少し方言の話をさせてくれ。サバ沖井戸の項でも少し触れているが、沖縄の方言は島言葉(すまくとぅば)と呼ばれ、本土の人がこれらの言葉に触れてもほとんど意味が理解できないほど、独特な言い回しがある。

そんな島言葉を島言葉たらしめている特徴のひとつに母音の少なさがある。島言葉の母音は基本的に「あ、い、う」の3音しかない。ただし本土から伝わった言葉も多く、そうした言葉は島言葉に置き換えられる際に、「え」は「い」に、「お」は「う」にそれぞれ置き換えられて取り込まれた(現代では標準語そのままの発音もなされている)。例えば、きーうるすバナタの「うるす」は「おろす」が語源となる。

宮古島の方言であるミャークフツ(宮古口)はさらに独特だ。なんといっても特徴的なのが「ん」から始まる単語(例:「んみゃーち(いらっしゃい、の意)」、「んなま(今、の意)」)があったり、「す」や「き」や「り」に鼻濁音が付いたりする発音があったりするのだ。

「す」とか「き」とか「り」に鼻濁音(「ぱ」のように丸が付く文字)なんて想像もつかない。どのように発音するのか。前出の下地勇氏のアルバムを買うと、歌詞カードにこうした文字が描かれている。そして彼の歌でその発音を聞くことができる。

うまく表現できるか自信がないが、それによると「す゜」は「ズ」と「ツ」の間のような音(「ズ」の音がやや乾いた響きになる)、「き゜」は「クス」と「ツ」の間のような発音(英語のxを発音する時に似ている感じ?)、「り゜」は「イウ」と「イル」の中間のような発音になるらしい。

といってもそれが島の話者にどのくらい共通するものなのか、現地でこうした表記が日常的に行われていたかまではよく分からない。下地勇氏と会話する機会があったら聞いてみたいものである。

余談だが、彼の曲は意外にもカラオケに入っている。当然上記鼻濁音もテロップに表記しなければならないわけだが、元々日本語入力用の文字として登録されていないので、その表現に苦労している様子が画面から伝わってくる。そしてそれを歌って見せると、同席する人がみな目を丸くするのが面白い。島出身の人間でもないのにねw

ちなみに下地勇氏はネイティブに島言葉を話すことができる貴重な話者でもある。ぜひ聞いてみてほしい。

更に余談。自分は高校在学中に放送部に在籍していた。放送部に入ったからといって、アナウンスや朗読がやりたかったわけではないのだが、部活動のメニューとしてはあったので発声練習なんかもやった。で、その時に鼻濁音の練習として「か゜」、「き゜」、「く゜」、「け゜」、「こ゜」という発音練習をさせられている。

「か゜」の発音は「が」とは異なり、「nga(鼻にかける感じ)」のように発音する。こうして書くと耳慣れない発音のように思うが、実は多くの日本人は無意識にこれを使い分けているのだ。例えば「がっこう」は「gakkou」と発音するが、「しょうがっこう」だったら「syou-ngakkou」のように「が」の音が少し鼻に抜けた感じになると思う。現在はこうした区別はだんだんと廃れてきているらしいのだが、自分が高校生の頃は、この辺の発音がアナウンスの世界では厳密に分けられているとかで、練習させられたという次第。

自分、やらかす:


長々余談を続けてしまったのでこの辺で旅の話に戻りたい。とりあえずフナウサギバナダを見学して港に戻る。あと15分くらいで船の時間だ。だが港にフェリーが停まっていない。乗船待ちの車も見当たらない。まさか乗り遅れた!?

慌てて時刻表を再確認すると船の時間は間違っていなかった。だがよく見ると、その便はカーフェリーではなかった。宮古島と伊良部島を結ぶフェリーはカーフェリーと人のみが乗船できるフェリーの2種類が運行されていたのだった。次のカーフェリーは、15:20・・・。どう頑張っても集合に間に合わない。やべぇ。

女子3人を引き連れて集合に間に合わなかったなんて、いよいよ周りから何を言われるか分からない。どうするか・・・頭をフル回転させて考える。同行者に確認すると、ラッキーなことに全員荷物は全て車に積み込んでいて、ホテル置き忘れているものはないとのこと。だったら空港集合なら間に合いそうだ。

だとすればなんと言い訳して空港集合を申し出るか。しばし思案したあと幹事の携帯に電話。

「すみません。今、伊良部島に来ているんですが、こっちの島は風が強くて船が遅れてて。ホテルの集合時間までに戻れなくなってしまったので、空港に直接集合させてください。ホテルに荷物はありません。」

どうだ、嘘くさいか・・・?いや言ったもん勝ちである。同行者にきっちりと口裏合わせをしておくことも忘れずに。

電話口の幹事は呆れていたが、伊良部島の存在は良く知らないようで、空港集合は間に合わせてねと釘を刺されたが、了承はもらうことができた。ついでにレンタカー会社にも空港乗り捨て旨の連絡を入れておく。

よし、これで隠ぺい工作はバッチリである。とりあえず致命的な事態に陥らずに済みそうだ。


次の便まで小1時間ほど余裕ができた。まだ咄嗟に考えたでたらめな言い訳に抜けがないかとか、次のカーフェリーが本当に時間どおりに出発してくれるのかといった不安が拭いきれないままではあるが、どうせどうあがいてもここまで来たらなるようにしかならない。

ぼんやりしてても勿体ないので港の周辺を散策してみることにした。港前の道にスーパーがあったので立ち寄ってアイスを買ったり、土産物屋らしき店に入って商品がほとんど置かれていなくて面食らったり。みんなでワイワイやっていると案外気が紛れた。

そして時間どおりにカーフェリーは入港してきた。そそくさと乗り込み再び宮古島へ。そこから空港まで急いで向かって、飛行機の離陸には無事間に合った。

あとがき:


なんだか最後はバタバタだったが、初めての社員旅行、無事に帰ってくることができた。

タッチアンドゴーが見れたのが一番の収穫。そして、島を観光する面白さに気づかされた旅だった。

今回本文中にミャークフツの蘊蓄を語ったが、実は訪問当時はそこまで島言葉に興味を持っていなかった。数年後沖縄を旅行した折に入ったレコード店で島言葉で歌う人のCDを買おうと思ったら、たまたま宮古の方言で歌うシンガーとして下地勇氏がレコメンドされていて、それを買ったことがきっかけで、ミャークフツに興味を持ったのだ。

つまり、もし社員旅行の行先が石垣島だったり久米島だったりしたら、氏のレコードを手にすることもなかったかもしれないし、方言にもそれほどハマらなかったかもしれない。そう考えると自分にとってまたとない貴重な体験と気づきが得られた旅だったのだなと思う。

(おわり)

Posted by gen_charly