九州初日の出 - 15(2013/01/04)

— ついに上陸 —

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船は島の北東側から接近していくので、まず最初に目に入るのが端島小中学校の建物。
建物は7階建てで、1~4階が小学校、5、7階が中学校、6階に体育館と講堂がありました。

今でこそ都市近郊の小学校などで中層建築になっている物は数多くありますが、この学校が初めてのものかもしれません。

上の写真左側の端整な建物がそれです。
右側の同じくらいの高さの建物が65号棟、手前の中層建築物が端島病院です。
また、端島小中学校の背後に端島神社の本殿が見えます。

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その背後の岩山の上には3号棟(幹部住宅)が見えています。
右側の見切れた小さい建物が2号棟の職員住宅。

崖の麓に万里の長城よろしく張り巡らされているのが島を一周する通路です。

ちなみに、この険しい岩山が端島の元々の部分。
島の発展に合わせて6回に渡って拡張工事が行われ、現在の形になったのですが、外洋に面していて普段から波の影響を受けるので、島の周囲は高さ10mの堤防に囲まれています。

島の東岸は炭鉱の施設が中心で、今では余り目立つ施設は残っていません。
炭鉱は24時間、三交代制で操業が続けられたので、夜などは対岸の長崎半島から不夜城の如く燦然と光り輝く島の姿を見ることが出来たそうです。

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端島小中学校の裏手に回ると、資材倉庫の建物(手前の低い建物)とレンガ造りの変電所の残骸が見えます。

堤防の背後にわずかにベルトコンベヤーの橋脚も見えました。
7年前に陸からおぼろげに見ていた建物の一つ一つがそのディティールも繊細に眼前に広がりはじめました。

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程なく、島への上陸地点となるドルフィン桟橋が近づいてきました。

ドルフィン桟橋とは、陸地から離れた所に設けた係船施設で、本来は石油タンカーなど陸に接岸する必要が無いような船を係留するために設けられる桟橋ですが、端島の場合は、前述の通り周囲を高い防波堤に囲まれたうえ、外洋に面していて陸地から直接桟橋を架ける事が出来なかったので採用されたものとの事です。

このドルフィン桟橋に接岸できるかどうかが、島に上陸できるかどうかのカギとなります。
外洋に面した桟橋なので、波の影響を受けやすいのです。

島に上陸できる条件は、

  1. 伊王島沖に設置され波高計の測定値が、0.5メートル以下のとき
  2. 許可事業者の船舶に設置された風速計の測定値が、5メートル以下のとき
  3. 視程が、端島周辺海域において500メートル以上のとき
    あっとながさきより抜粋)

となっていて、今日の場合(2)と(3)は心配なさそうですが、(1)については、言い換えればわずか50cmの波でも上陸できない事になり、少し心配です。

ちなみに上陸不能だった場合には、施設利用料の300円とツアー代金の一割(400円)を返金した上で、島の周りを一周して港に戻るツアーに変更になるとの事ですが、上陸出来るのと出来ないのとでは、達成感が段違いなので是非とも上陸したい所です。

船全体に緊張感が漂い始めます。
それは小笠原の南島に上陸する時と同じような感覚でした。

ゆっくりとドルフィン桟橋に船を近づけ、先に飛び移った係員がロープを受け取り、船が横付けされました。

どうやら無事上陸できるようです。

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乗客を2グループに分けて最初のグループは奥の方から、もう一つのグループは手前の方からそれぞれ見学していきます。

島の見学が終了した後、船は島の反対側を回って長崎港へ戻るため、今いるこちら側のデッキが人気になるらしく、良い場所を確保するには、最初のグループで回った方が良い、とアドバイスしているサイトがあったのですが、グループ分けを兼ねた上陸許可証は、島に向かう途中で係員から選択の余地無く手渡されたので、ここは運次第という事になりそうです。

原付に渡された許可証は後のグループのものでした。
接岸後、程なく見学者が下船し始め、原付たちはどうせ後のグループなんだからと、最後に下船する事にしました。

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連絡橋を渡り、堤防に空けられた通用口のような入口から堤防の中を潜り抜けて、出てきた場所から見えた景色がまず衝撃的でした。

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視界に映るもののうち、今立っている通路と、島の元々の岩肌以外の場所は、全てが破壊し尽くされた空間・・・。
これは何ですか。

戦争かなにかで徹底的に破壊しつくされた中東かどこかの国にでもワープしてしまったかのような、日本の日常生活の中ではまず目にする事の出来なさそうな異様な光景に息を飲みます。

少し前までこの場所には古い防波堤があって、中の様子は余り見通せなかったそうなのですが、倒壊してしまったとのこと。
足元に見える古いレンガ積の遺構などは、かつて作業場の地下に埋まっていたものです。

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そこからすぐ最初の見学場所となる第一見学広場に着き、そこで元の島民の方がボランティアで島のあらましや、かつての島の様子などを教えてくれました。

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写真の最上部に見える建物が、貯水タンクの建物。
本土から海底の送水管で送られた水が、崖の脇に見えるパイプを通り貯水タンクに溜められていました。

正面下側に見える塞がれたトンネルの坑口のような構造物は炭鉱で排出されたズリを島の反対側へ送るためのベルトコンベアーが通っていたトンネルとのこと。

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選炭機の有った建物?ですかね??

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崖越しに鉱員住宅(30号棟)が見えました。

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正面が端島小中学校の建物、右に見える橋脚のようなものはベルトコンベアーの残骸です。

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引きで見るとこんな位置関係です。

殆どの社宅が風呂なし2間という間取りのなか、岩山の頂上に建つ幹部社宅だけは3間あって内風呂が付いていたとのこと。

説明が終わると、順路を抜けて今度は第二見学広場へ向かいます。

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クレーンの台座部分。

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第二見学広場では別のボランティアの女性が説明してくれました。

左端に見えるレンガ造りの建物(倉庫の残骸)の裏に総合事務所があり、中央右寄りの階段が見える建物の先に第二立坑があったそうです。

炭鉱内は、温度は30度以上、湿度は実に95%にも達し、ヘッドライトが照らす範囲の他は真っ暗な上、粉塵が舞い、常に轟音が響き渡る中での作業であり、環境は非常に劣悪なものであったとのことです。

落盤や爆発、酸欠などの事故が起こることもあり、坑内へと向かう鉱夫たちはみな緊張の面持ちでこの階段を登って行ったそうです。
そして一仕事を終え、炭鉱内から戻ってきた鉱夫たちはみな一様に安堵の表情を浮かべていたと言います。

粉塵などで真っ黒になって戻ってきた鉱夫たちは、総合事務所の1Fにある共同浴場で汚れを洗い流してそれぞれの自宅へと戻って行きます。
この共同浴場は3つの湯船からなり、最初の湯船は服のまま入って大まかに汚れを落とし、次の湯船で体を洗ってから、最後の湯船で仕上げをしていました。
水が貴重だったので、最後の湯船以外は海水を使ったお湯だったそうです。

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かつては前述の通り24時間フル稼働だったので、島は夜でも煌々と明るく灯台が要らなかったそうなのですが、無人となったことで明かりが一切なくなってしまい、新たにソーラーで動く灯台を設置しています。

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この無残すぎる光景を見た見学者から、最後に爆破でもしたのかと聞かれることがあるそうですが、廃坑を法律に従って埋め戻した以外は放置されていて、全て台風などの自然災害によって破壊されてしまったものとのこと。

原付の手元にある「軍艦島 海上産業都市に住む」という本にあった、島に台風が襲来したときの写真には、アパートの屋上をゆうに超える猛烈な高波が容赦なく打ち付ける様子が写されていて、確かに人の手が入らない状態で、そんな波に年中襲われていればこんな状態になってしまうのも仕方ないのかもしれません。

実際、かつては台風の襲来の度に島の人たちに手によって修復が繰り返されていたそうで、その手が入らなくなれば後は破壊される一方になってしまうわけです。

ボランティアの説明が終わり、続いて更に先にある第三見学広場へ。

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通路の脇から見えた南部プール跡。
島の周りは潮流が早く泳げないので、海水をくみ上げてプールにしていたそうですが、水を抜いている冬場は、子供たちがここで野球をしていたらしいです。

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第三見学広場へ向かう途中、堤防の上で仁王立ちになっているオッサンの姿が見えました。
言うまでも無く、彼は釣ん人(つりんちゅ)。

・・・って、なんでこんな所で釣りしてるんだ!?

同じグループで回っていた小太りの外人が急にテンションを上げて「ツーリ!ツーリ!!HAHAHA!!」と指差して笑い出しました。

いや、笑う事も無いんだけど。。。
外人のツボは分からんw

というか、ここで釣りをしているという事は船宿の渡し舟で渡してもらっているのだと思うのですが、それなら釣り客として来れば今でも見学場所の制限無く好きな所に立ち入れるんじゃないかと妄想が頭をもたげます。

まぁ、見つかったら大目玉を食らう事になるので無理なんでしょうが、島の中はかくれんぼをしたら永遠に見つからずにいられるような場所だらけなので、上手いことすれば。

もっとも、本当に見つからなくなってしまう可能性も無きにしも非ずなのでそこら辺は妄想に留めて置いたほうが良いのかも知れませんが、モヤモヤしますなぁ。。。w

Posted by gen_charly