道南散歩【12】(2013/08/16)
土産物の手配も無事済んで、後顧の憂いなし。ぼちぼちツアーの時間が近づいてきたので、レンタカーを返却しに函館港へ戻る。
車を返却して、店員に函館駅まで行く方法を聞くと、津軽海峡フェリーの乗り場と函館駅を結ぶシャトルバスがあると教えてくれた。ついでにそこまで送って貰うことが出来た。
津軽海峡フェリーのターミナルは青函フェリーのそれと異なり、かなり立派な建物だった。
確かにこれだけ差があれば、レンタカー屋の店員が首をかしげていた理由も分かろうというもの。
シャトルバスのバス停を見つけて時間をチェックすると、次のバスは12時20分だった。それでは列車の時間に間に合わない。やむを得ずタクシーで移動することにした。
タクシーのドライバーはかなり歳の行ったじいさんで、出発するなり陽気に話しかけてくる。まぁ、自分の半生のお話しだったりするので、これと言って面白い話でもないのだが。。。
「あ、メーター起こすの忘れた!」
出発して5分ぐらい経った頃、思い出したようにそう言ってメーターを起こす。
「都会だったら、こういうのすぐに報告しなくちゃならないんだけど、まぁ、ここは田舎だから。」
とおどけるように言う。お、ちょっとぐらい安くなるか。。。?
やがて、函館駅方面へ曲がる交差点が近づいてくる。駅に行くにはここを右折するのだが、右折待ちの車が長い列を作っている。
「ありゃ~、こりゃ時間かかっちゃうね。少しだけ遠回りだけど、空いている道を行きますよ。」
と言って近場の細い路地を入って、駅のまわりを反対周りにぐるりと回るように進む。確かにこちらは車も少なくスイスイ進んでいける。
「やっぱりこっちの道の方が空いてますよ。あの道の混み方だとそのまま行っていたら大変でしたよ。」
要約するとそれだけなのだが、その成果を交差点を過ぎるごとくらいのペースで、ホラ、ホラ!と言わんばかりの勢いでしつこく自慢してくる。。。
最初はお上りさんのフリをして適当に相槌を打っていたが、あまり繰り返すのでだんだんうっとおしくなる。というか、さっき起こし忘れた分の料金のつじつま合わせで、わざと遠回りしているだけのような気もする。
まぁ、案外、爺さんの言っていることも本当かもしれないので、早く駅に着くのなら、という一心で我慢。
ところが、駅前まで来てロータリーに右折で入るところを、混んでもいないのにわざわざ左折しようとした。もう駅はそこに見えているのに、である。ウチらを土地勘のないよそ者だと思って、わざとやってるな、この爺さん。。。
疑念が確信に変わった以上、もうすぐに降りるべきだ。料金が余分にかかるのは目をつぶるとしても、電車に乗り遅れたら今回の旅が台無しになる。
爺さんに、ここで降ろしてくれ、と伝える。案の定、え?ここで降りるの?という顔をしていたが、意に介さず。粛々と下車した。
食えない爺さんだな。。。
ということで、どうにか函館駅に到着。
見学が済んだら戻ってくるので、邪魔な荷物はコインロッカーに押し込んでおくことに。
列車は12時04分発のスーパー白鳥30号。あと20分、まぁ、間に合うだろう。
ホームに上がると、その列車はすでに入線していた。
これが、我々を最初で最後の青函トンネル見学ツアーに誘ってくれる列車だ。
出発すると戻るのは17時過ぎである。それまで飲食できるところがない。まだ朝食を食べてからあまり時間が経っていないので、空腹ということもないが、夕方までには流石に腹も減るだろうと思い、軽食を手配することに。
ところが、ホームの売店の品ぞろえが少ない。助六みたいな簡単にパクつける弁当が欲しかったのだが、全然売ってないので、仕方なしに菓子パンとおにぎりを購入・・・したら、その先に駅弁屋があった。
まぁ、朝食でいいもの食べたのだから、ここは我慢しなさい、ということなのだろう。。。
座席は横並びで取ることができなかったので、やむなく前後で押さえた。カミさんが前、自分が後ろの残念フォーメーションである。これではトンネルにまつわる四方山話をカミさんに伝えることが出来ない。
カミさん的にはホッと一息タイムなのかもしれないがw
席に着くとほどなく出発。
ちょうど昼時の列車なので、周りの席から弁当やハンバーガーのいい匂いが漂ってくる。手元には潰れた菓子パンとおにぎり。そこはかとない侘しさよ。。。
これから向かう竜飛海底駅はここから1時間10分程。
座席のテーブルのところに青函トンネルの模式図と、トンネルの出入り時間も含めた通過予定時刻が書かれたシールが貼られている。JR北海道随一の観光資源だけに、力が入っている。が、これも見納めか。
このところ、JR北海道の管内では、列車が脱線したり、ディーゼルカーが出火したりと、事故や不祥事が相次いでいる。その対策として大幅な減便を実施するという報道があったので、ちゃんと運行されるのか心配だったが、この列車は影響なかったようだ。
ただし、全く無いわけでもなく、途中駅で臨時の行き違いを行ったりしているようで、都度アナウンスが流れる。こんな泥縄運用をして、さらなる大事故を誘発しなければいいのだが。。。というか、この記事をまとめている最中にも、続々とJR北海道の不祥事報道が入ってくる。経営側と労組との間がぎくしゃくしている、というような報道も聞くし、企業統治の難しさを感じる。
流石に睡眠不足が続いているので、食事を済ませたら途端に眠くなってしまった。でも出来るだけ景色を見ておきたい。。。が、気がつくと列車が青函トンネルへと差し掛かる直前だった。
扉の上の案内表示に駅とトンネルと列車の位置の模式図が表示されており、現在位置が分かりやすくなっている。まもなくトンネルに進入するようだ。
青函トンネルに入る前にも何本かのトンネルがあるが、表示板にそのトンネル名が都度都度表示される。他の路線では見られない特徴だが、確かに手前のトンネルに一喜一憂しているうちに、いつの間にか本番が始まっていた、なんて切ないことにならずに済むので、良いアイディアだと思う。
そしていよいよ、青函トンネル進入。他のトンネルと何も違いはない。それはもうしれっと進入する。表示板を見れば、今入ったな、というのが分かるが、1、2分経っても全然トンネルが終わらないので、ああ、これが青函トンネルなんだな。。。とワンテンポ遅れて実感するような感じである。
前述の通り、自分が青函トンネルを通るのは初めて。瀬戸大橋は開業した年に訪れることが出来たが、こっちの方は訪ねるまでに25年を要してしまった。北海道新幹線が開業すると在来線の旅客列車は運行終了となるようなので、在来線としての通過はこれが最初で最後になるだろう。
出来れば青森県側の明かりを見るところまで乗り通したかったが、そこは止むをえない。チケットを押さえられただけ上等だと思わないと。
トンネルの中は車両が走行するモーターの音だけが響き渡る。ガタゴトと言った音もなく、淡々としている。やがて列車は海底の一番深い部分を通過し、対岸側へ向けて登り始める。
案内表示で中心部分を通過したことは事前に分かったが、モーターが唸り始めたので、あ、本当に登りになったんだな、と改めて実感する。この案内表示がなければ、トンネル走行の感想ももっとのっぺりしたものになった気がする。何せ、窓の外はひたすらトンネルの壁しか見えないのだから。
それからまもなく、案内表示に、「次は 竜飛海底」の表示が出る。と同時にアナウンスも流れる。
あれ?まだトンネル中央を通過したばかりだぞ。早くないか?と思ったら、ドアが2号車しか開かないらしく、到着前に2号車に移動しておく必要があるらしい。
そこで、荷物をまとめて2号車のデッキに移動。既に我々と共に下車する見学者が集まっている。トンネル見学のツアーがあることを知らないのか、一部の乗客が我々に怪訝なまなざしを向ける。