道南散歩【14】(2013/08/16)
おいて行かないでー、といった具合で集団とつかず離れずで歩いていくと、程なく「竜飛海底ワールド」と銘打たれた場所に出た。
ここはトンネルのあらましについて、各種展示されているエリアだ。
上の写真のイラストは、竜飛海底駅付近の構造と、どのような保安設備があるのかについて解説している。トンネルを掘ると言っても、一本掘るだけではない。大抵こうして何本もの導坑や作業抗などを掘らなければならない。その手間暇を考えると恐れ入る。自分なんか根気がないから途中で諦めてしまいそうだ。
さて、前回、この竜飛定点にどのような機能が設けられているか後述すると書いたが、ここで少し解説する。
トンネル内で列車にトラブルが発生したとする。どこでどんな障害が発生したかによっていくつものシナリオがあるが、ここでは火災が発生した場合について説明する。
まず、火災が起こった列車が走行可能だった場合、列車をここか吉岡定点まで移動して停車させ、乗客を降ろして安全な退避抗に避難させるが、列車は燃えているわけで、一酸化炭素などの有害なガスが発生しているかもしれない。
トンネル内には強力な送風機が設置されていて、常時3800立方メートル(毎時?)もの空気を地上から送り込んでいるそうだ。同時に立坑も開放してガスをトンネル外に速やかに逃がすように工夫されているとのこと。
そして、乗客の避難が完了したら、次は消火である。消防車が来て、というわけにもいかないので、スプリンクラーで消火する。定点の天井とホーム下とレールの間にそれぞれスプリンクラーが設けられていて、地上から真水を毎分7t、連続40分間放水でき、確実に消火が行えるようになっているとのこと。
で、無事消火が終わり、車両がまだ走れるようならその車両に再び乗り込んで(!)、地上へと戻る想定だそうだ。びしょびしょになった焦げ臭い列車にまた乗って戻るなんて、ご遠慮願いたいところだが。。。
車両がもう動かない状態だったら、このあと見学する斜坑を歩いて地上へと避難するという段取りになっている。
普通に考えて、列車が動く動かないに関わらずそのまま地上へ出た方が何かと安心できる気もするが、そういうシナリオになっていない理由は追って説明する。
さて、立ち往生してしまって、定点まで列車を移動できない場合はどうするか。
まず、トンネルの地下区間(=まだ地面の下)で火災が発生したときは、途中に設けられている山へ抜ける斜坑を通って避難する。斜坑のある所までは線路上を歩いて避難するそうだ。
一方、海底区間で障害が発生した場合は、斜坑で、というわけにはいかないので、本坑に平行して設けられている作業坑へまず避難し、そこから各定点まで移動した後、斜坑を通って避難するそうだ。
口で言うのは簡単だが、青函トンネルは日本最長のトンネルであることを、忘れていませんか?
海底区間だけでも23キロあり、竜飛か吉岡の定点の近い方へ移動することになるから、その半分で11.5キロ。最大値ではあるが、誰もが歩き通せる距離ではない。
まぁ、基本的に車外に避難しなければならないほどの事態であれば、それはよほどのことである。サバイバルと思ってやるしかないのだろう。
ちなみに、通常の車両故障などでの立ち往生の場合は、基本的に救援の機関車などがやってきて、地上まで引き上げてくれるようになっている。
さて、海底ワールドの話に戻そう。
二つ上の写真のスクリーンの脇に、スクリーンモニターとコンソールのようなものの残骸が置かれていた。
この場所にいながら地上の様子を見ることが出来るシミュレータだと案内板に書かれていたが、だいぶ前から使われていないようだ。
それにしても、なぜこんな長居を遠慮したくなるような通路に置いてあるのだろう。。。
そこから更に進むと、トイレがあった。手前にも簡易トイレが置かれていたが、そちらは非常用で使用禁止とのこと。
このトイレもトンネルの一画に後付で設置されたような感じだが、駅にあるそれと同じ程度にはしっかりと作られている。もちろん、使用可能である。ただし排水設備がないため、定期的なくみ取りが必要になるらしく、その費用が年間8000万円くらいかかっている、とは係員の弁である。
暗に、今日は使うなよ、と言われているような気がしてならないw
で、なんでこんな場所にトイレがあるのか。もちろん、避難者が使うというのが大前提だが、我々のような見学者が使ったり、青函トンネルウォークというトンネル内の二つの海底駅の間をひたすら歩くという、エクストリームなイベントがあって、その参加者が利用したりするそうだ。それ用にトイレの隣には仮設の更衣室も設けられている。
ちなみに、それやってみたい!という猛者向けに。吉岡海底駅はすでに立入禁止であり、竜飛海底駅も執筆時点で見学を終了しているので、来年以降開催されるかどうかは不明なのでご注意を。
(※2022年現在、開催の情報はなく、もう歩くことも叶わないようだ)
その奥にはジオラマや水槽などが展示されていた。ジオラマはサビだらけでほとんど動かないし、水槽は藻で覆いつくされて、中の様子すら見られない。やる気のない展示は、もうすぐ公開を終了するからということだろうか。
当時は相当力の入った展示物だったのだろうが、かつての栄華を見せたいという意図でないなら、片づければいいのに。
壁に飾られていた色紙に面白いことが書かれていた。どこかで見た絵だなぁ、と思って調べたら、青森出身のローカルタレントである伊奈かっぺいさんだった。けど、どこで見た絵かは未だに思い出せない。。。そこが知りたい、だったか?
その先でいったん集合がかかる。青函地域の地図を前に係員からトンネルの位置選定の話を聞く。
青森県は津軽半島と下北半島の二つの半島が北海道の方向へ腕を伸ばしているような形をしている。北海道側も同様に渡島半島の先端部分が函館を中心に松前半島と亀田半島の二股に別れて、それぞれ青森側に腕を伸ばしたような格好になっている。
必然、それぞれの距離が一番短い所がトンネル掘削の候補地となる。即ち津軽半島(竜飛岬)と松前半島(白神崎付近)か、下北半島(大間崎)と亀田半島(概ね函館市付近)のどちらかである。
距離でいうと下北半島側の方が距離は短いうえ、函館が最寄りとなるにも関わらず、開通したのは津軽半島側だ。なぜそちらに建設したのかというと、まず水深の問題で、津軽半島側が最深部で140mであるのに対し、下北半島側は260mもの深さがあり、当時の技術では水圧でトンネルを維持することができなかったことがある。
また、地質の問題もある。下北半島側のほうが軟弱な地盤が多く、また青森側に恐山、北海道側に駒ケ岳などの火山があるため掘削に適さなかった、ということだ。
もっとも、津軽半島側にも地盤が緩い所は何箇所もあって、工事中に大量出水したり、掘削機が自身の重さで沈下したりと、かなりの難工事だったそうだ。軟弱地盤には、事前に水ガラスと呼ばれる物質を注入して、周辺の地盤を固めてから掘り進めるという工法を開発して対応したとのこと。この工法はその後各地のトンネル工事でも多用されている。
そうして開通にこぎつけた訳だが、出水が止まったわけではなく、未だにそれなりの水量がトンネル内に侵入してきているそうだ。
そのままではトンネル内が水没してしまうので、先進導坑(作業抗)は本坑の最深部を中心として、竜飛・吉岡の各定点までトンネルとは逆の勾配で掘られている(つまり各定点が最深部となる)。本坑トンネル内に流入した水は、作業抗へと導かれ、各定点に設けられた強力なポンプで吸い上げて地上へ排出しているそうだ。
その話を聞いて、東海道線の丹那トンネルを思い出した。あそこもトンネルを掘っているうちに地下水脈を抜いてしまい、大量に出水した。これにより、その地下水で田畑を潤していた丹那盆地の水が枯れてしまったが、まさに覆水盆に返らずで、盆地へ水を戻すことが出来ずに、未だにその地下水はトンネル外へと排出され、川に流しているそうだ。
排水を制するものがトンネルを制すという言葉を思い浮かべる。
トイレの脇には唐突に公衆電話の電話ボックスも置かれている。ここからどうしても電話しなければならないシチュエーションはそうないと思うが、地上と同じものが何でもあるんだぞ、というアピールだろうか。
しかも世界初の海底公衆電話ということだが、それって他の国の海底では公衆電話がいらないからじゃないの?という気がしなくもない。が、それを言うのはヤボということなんだろう。
いや、そこじゃない。中に置かれている電話がピンク電話なのだ。ピンクの電話ではない(古い)。
ピンク電話は、私設の公衆電話である。NTTが設置したものではなく、(多分)JRが設置して利用料金を回収して支払っている筈である。
当然テレホンカードも使えない。きょうび持っている人もあまり見かけなくなったが。。。
電話をかけようと思ったら、10円玉が必要である。
ここで電話をかけるのは、青函トンネルにいるよ記念でなければ、緊急通話がその主な用途になるだろう。だがこの電話には緊急通報ボタンがないので、119にかけるときも10円玉が必要になる(通話終了後に返却される)。
ほうほうの体でここにたどり着き、10円玉の持ち合わせがないことが分かると万事休すである。
そんなことでいいのだろうか。。。
まぁ、体験用、ということなんだと思うが、家の固定電話もないこのご時世、10円を入れて携帯電話に電話をかけたら何秒話せるのか知らない人も多いんじゃないだろうか。
ちゃんとタウンページとハローページが両方置かれているのがご愛嬌wここで見る奴いるのか?