道南散歩【16】(2013/08/16)

一行は再びケーブルカーに乗り、140m下の海底駅へと降りてゆく。

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帰りは行きのコースを戻るだけなので、目新しいものは特にない。だが、歩いている最中にトンネルの電気が消えて非常灯のみとなるアクシデントに遭遇した。

見学者の間に、これは何のアトラクション?という雰囲気が漂う。すかさず係員が、

「これは非常に珍しい体験しましたね。瞬停(瞬間停電)です。」

と言うので、まさに偶然のハプニングであるらしい。係員が悠長な口調で言うので、みんなもそんなものかなぁ、と悠長に構えていたが、ことと次第によっては、恐れていた火災発生の可能性だってあるわけで、そんな悠長に構えてていいの?と、少し身構えてしまった。

幸い、電気は30秒ほどで復旧し、それでおしまいだったが。まあ、なかなかない体験をした。そしてこの貴重な瞬間をなぜ写真なり動画なりに収めなかったのかと自分に小一時間。。。

湿った通路をひたすら戻り、やがて下車したホームとは反対側のホームにたどり着く。

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そのホームから壁面に掲げられた「たっぴかいてい」の駅名票が見えた。ここで撮影したのか。
なぜこれを撮影したかったのかというと、本来駅じゃない場所なのに、普通の駅みたいな正式なフォームの駅名標(しかも駅名が通称)を掲示しているのが面白いな、と思ったからだ。後にも先にも駅だったことがない場所に駅名標が出ているところなんて、ここくらいしかないのではないだろうか。

戻りの電車が来るまでの間、係員がホームの端を指さして、

このトンネルは本来新幹線用に設計したものなので、在来線を走らせるにあたってホームの隙間を埋めるためにゴムを継ぎ足しています。」

と教えてくれた。

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ホーム先端部分の黒いゴムがそれである。新幹線と在来線は車両の幅も異なるので、隙間が空かないように付け加えているのである。

新幹線が通るようになったら、当然邪魔になるので、これは撤去されてしまうのだろう。

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5分ほどしたら、トンネルの奥の方から列車が近づいてくる音がトンネル内にこだまし始めた。
ほどなく、白鳥23号が入線し、我々の目の前で停車する。ホームから見ているとこんな風に見えるのか。

この原稿を執筆している時点で既にこの見学ツアーは終了している。このホームに在来線特急列車が止まる風景ももはや過去のものである。次にここに列車が止まるのは、何か良からぬことが起こってしまった時なので、ここに一般客が降り立つことは、もうない、はず。

 

さて、ここで豆知識をもう一つ。
列車が走るときのオノマトペは「ガタンコトン」が一般的であろう。この音はレールの継ぎ目を車両が通過する際に発生する。昔はある程度の長さ以上のレールを運ぶことが出来なかったので、こうして継ぎ目を作りながら並べていくことで、線路を形作っていた。

だが、雰囲気の問題はさておき、高速で列車が走行するようになった昨今においては、継ぎ目が沢山あると乗り心地に少なからず影響を与えることになる。そこで、レールを溶接して繋げちゃえば乗り心地良くなるよね。という話になるわけだが、当然そう単純な話ではない。

レールは鉄でできている。鉄は熱すると膨張するので、全部繋げちゃうと膨張で伸びた分を吸収することが出来なくなって、どこかがゆがんでしまう。鉄が延びるといえば、製鉄所のそれのように真っ赤に熱せられた状態を思い浮かべるが、夏の炎天下に一日さらしているだけでも、列車を走らせるのに障害になる程度の伸縮はしてしまうらしい。

これを防ぐために、今でもレールにはところどころ継ぎ目を残すようにしてある。継ぎ目の間を伸縮分を吸収できる程度に開けておくことで、対処しているというわけだ。

翻って、青函トンネルはどうか。トンネルというのは一般に温度が年中一定である。ということは伸縮を考慮する必要がない。じゃあ、継ぎ目いらないよね、ということで、トンネル総延長と同じ54kmに渡って、一切継ぎ目のないレールになっているそうだ。こんな長さのレールは世界一とも言われている。

というか、どうやって54kmものレールを作るのか。作ってどうやって運ぶのか。考えたら一晩中寝られない、というコントが大昔にあったが、現実的な話としては、地上で25mのレール8本をつなぎ合わせて200mのレールにしてからトンネル内に運び込み、現地で並べた後、トンネル内で溶接してつなげているそうだ。

青函トンネルのレールの継ぎ目は高度な加工ができる溶接機が使われており、見た目で溶接された箇所は全く分からないようになっているとのこと。

で、なぜこんな豆知識をここで披露したかというと、継ぎ目のないレールの特徴はなんと言っても走行音が静かになることであることは論を俟たないと思うが、今入線してきた485系は国鉄時代からある旧式な車両なので、車両のモーターがうるさくて、折角の静音性を全力でスポイルしているな、と思ったからだw

この話を書いていて、埼京線の103系の話を思い出したが、本筋と関係ないので割愛する。

 

来た時と同様、車掌が手動でドアを開ける。係員にお礼を言って列車に乗り込むとほどなく発車。
帰りは二人並んだ席が確保できたので、思い出話に花を咲かせていたら、十数分で再び北海道側の地表へと戻ってきた。

トンネルの開業以降、長いこと一度行って見たいと思っていた場所に、滑り込みセーフで訪ねることが出来た。実に貴重な経験であった。

木古内駅に停車したとき、ホームの向こうに新幹線の駅が建設されているのが見えた。

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今走っている江差線は、木古内から先、終点の江差までの区間は新幹線の開業に合わせて廃止されてしまうそうだ。そのうえ、木古内から函館の間も並行在来線ということで、第三セクター移管されるとのこと。

なんか、ここ20年ほど、新幹線の開業と引き換えに在来線を第三セクター移管することが既定路線になっている。第三セクター移管をするということは、その路線を廃止するかどうかは自分らで決めてくださいね、という話である。

新幹線が通れば地元の土地の資産価値が上がる、とか、街が活性化される、などという話がどこでも通用する話でないことは、既存の新幹線が証明しているような気もするのだが、なぜ未だに新幹線を通すことが地元の悲願なのだろう。

JRは都市間速達のため新幹線を走らせたい、地元は東京までいち早く出られる利便性や、地域の活性化が期待できるから新幹線を走らせたい。新幹線を建設することについて双方意見は一致しているように見えるが、JRが期待するところは基本的に儲かる都市間輸送だけであり、儲からないエリアの面倒まで見たくはない。だから、並行在来線は第三セクターで、などという条件を付ける。面倒を見る気がないから、列車は速達タイプばかりで、駅が出来ても列車は半分以上が通過となる。それは地元の意向なのだろうか。

新幹線開業に伴うわずかな活性化と引き換えに在来線の負担という重荷を背負うことは、地元は折り込み済なのだろうか。

新幹線が夢の超特急と言われたのはもはや半世紀前である。ストロー効果で地方が寂れて移動需要がー、などという話ですら昔の話になりつつある。都市間を特急列車でモーレツに移動するサラリーマンも絶滅危惧種ではないだろうか。

そんな昨今、新幹線でござい、という態度は今後も通用するのだろうか。ぼちぼち疲弊した地方からNoを突き付けられるのではないか、という気がしなくもないがどうなのだろう。

 

閑話休題。。。

在来線の旅客列車が廃止になることは既に述べたとおりだが、訪問の時点では寝台列車をどうするかがまだはっきり決まっていなかった。新幹線が走らない夜中の通過なのだから、そのままでもよいのでは?という意見もあったようだが、結局他の旅客列車と足並みを揃えて廃止となるようだ。

かつて青函トンネルの開業に合わせ、従来の寝台列車にはなかった豪華な設備をウリに鳴り物入りで登場した北斗星、これも一度は乗ってみたいと思っていた列車なのだが、乗らずじまいとなりそうだ。

実は過去に一度だけ乗るチャンスがあった。十数年前、当時付き合っていた人と北海道へ旅行に行こうとしたときの話だ。彼女の方から北斗星の高級な個室に乗ってみたい、という話が出た。そんな話、多分一度きりのチャンスだろう。

ということで、「ロイヤル」という最高級の個室に乗ろうと思ったのだが、これは一人部屋で17,180円もの寝台料金が必要(他に運賃と特急料金も必要)になる。エクストラベッドを使うことで2人でも利用可能だが、2人目には追加料金が必要になる。この値段はその辺のシティホテルに泊まってもおつりがくるような値段である。その割、設備でいえば、食事もなければお風呂もなく、貧弱と言っても差し支えないレベルの設備なのだ(シャワーはあるし、別料金で食堂車でディナーを食べることが出来るが・・・)。

この辺、別に乗ってくれなくてもいいんですよ、という態度が見え隠れするのは考えすぎか。まぁ、とにかく、若い自分たちには身分不相応、というか、割に合わないなと思い、次に高級な二人用個室の「ツインデラックス」を狙おう、という話になった。

当時、これらの個室を押さえるのは至難の業だった。一編成に数室しかない部屋なので、発売開始とほぼ同時に売り切れてしまう。チケットを抑えるためのテクニックとして、予約開始日の朝、窓口が開く10分前くらいにみどりの窓口へ行って係員に事情を伝えて、予め全ての条件を端末に入力してもらったうえで、10時のオンライン開始を待つ。

10時になったらすかさずエイヤ!と申し込んでチケットを取る、というのが、良く知られたテクニックだった。だが、それでも取れるか取れないか、というレベルである。

これを2度チャレンジして駄目で、3度目のチャレンジでゲットできた。そりゃもう小躍りである。出発の日を首を長くして待っていたら、あろうことに彼女側の都合が悪くなってしまった。
一人で行くわけにもいかず、折角取れたプレミアチケットを泣く泣く手放す羽目になったのだった。

次のチャンスに期待したが、その後ほどなく別れてしまったので、未だに乗れていないというわけだ。

 

また脱線である。話を戻そう。
列車内でカミさんと晩御飯をどうするか相談する。流石に行きの電車で軽食を食べたきりなので腹が減ってきた。函館グルメでまだ食べてないのは、ラッキーピエロかジンギスカンあたりだろうか。

どちらがいいかな、などと話しているうちに函館駅に到着。

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Posted by gen_charly