程なくゲートに道を阻まれる。ここから先、さっき旗城の御洞に行こうとして突き当たった反対側のゲートまでの区間が通行止めとなっている。手前に羽伏浦港へ行くための分岐が左に延びていて、そちらへ進むと少し先で再びゲートに封鎖された道が右に分岐していた。
この道は件の地震で崩壊した場所を避けて生き残った旧新島トンネルへショートカットするために設置された仮設道路だそうで、仮設だけに恐ろしく急な角度で一気に上へ登っている。
その斜面を目で追うと、旧道に設置されていた洞門が見える。
そしてその背後に見える宮塚山は若郷の集落で見た新島山すら凌駕するほどの高い崖になってそそり立っている。
確かにこんな崖があると再び地震が起きたら元の木阿弥になると考えるのも頷ける。
その分岐のすぐ先が羽伏浦展望台だ。
地震だのトンネルだの固い話題が続いたので、ここらですばらしい景色を楽しんでいただきたい。
羽伏浦海岸は、白砂の海岸線が7キロ余りの長さに渡って続くこの島きっての観光スポットだ。
南の島などのビーチが白くて海水がアクアブルーになっているのはサンゴが元になった石灰岩によるものであるが、ここの海岸は流紋岩と言う岩石によるものなので同じような白さでも生い立ちが異なっている。
南の島はサンゴ礁によるリーフが発達し、遠浅な海岸が多いことから、アクアブルーの海がどこまでも広がっているが、伊豆諸島や小笠原諸島の島々は海底からそそり立つ海底火山の頂上部分が一部分陸上に顔を出しているもののため、海の周囲はすぐに水深が深くなっている。
そのため、浅いところと深いところのコントラストがはっきりとしていて、他では見られない独特な色合いとなって見える。
雄大な景色を見ていたらおなかが空いてきた。時計に目をやるとお昼を10分ほどまわっていた。お昼は本村のどこかで買おうと思っているが、折角なのでもう少し羽伏浦を堪能してからにしよう。
キャンプ場近くまで戻り羽伏浦海岸にやってきた。
道が海岸にぶつかる所に青い海と空にとてもよく映える真っ白な建物があって、メインゲートと呼ばれているらしい。
この海岸には黒潮が直にぶつかり、また沖合がすぐ深くなっているのでサーファー好みの波が出るということでサーフィンのメッカとして知られている。国際大会も開催されるらしく、外人が多いのもこの海岸の知名度が影響しているのかもしれない。
この時もサーフィンを楽しんでいる人が多くいて、海の色がアクアブルーからマリンブルーに変わるあたりに転々と浮かんで波を待っていた。
こちらでも暫く眺めていたら、うまく波に乗れた人を激写できた。撮ったときは分からなかったがよく見たら外人だ。
なんでこんなに絵になるんだろう。
ガイドマップを見ると、近くに「シークレット」とだけ記載された場所があり、何がどう「秘密」なのか全く書かれていない何とも不親切な場所だ。ポイントが記された場所から、ビュースポットかなんかがありそうな気がしたので行ってみることにした。
農道のような道を海岸沿いに南下していくと、路肩に車が何台か停められた場所が見えてきて、「シークレット入口」の看板が出ていた。
ウチらも車を置いて、藪の中の道を歩き始めたら、ほどなくサーフボードを抱えた人とすれ違った。その姿を見てこの先に何があるのか想像がついてしまったが、せっかくなのでこの目で確かめることに。
奥の方に車が数台停まれる広場があったが、ぎっちりと埋まっていて停められるところがなく、うっかり車で入り込んでいたら鬼バックをさせられる羽目になる所だった。危ない危ない。。。
藪が開けて海岸が見えてくると、沢の流路工に沿って階段がある。
両脇には流紋岩の斜面がアリゾナの砂漠の岩山のようにそびえたっていて、目の前の相変わらず青い海と相まって日本にいるような気がしない。
島の南部にある大峯の斜面は大きく崩れて白い地肌をむき出しにしている。
この部分を「白ママ断崖(”ママ”とは崖を指す言葉)」といい、全貌を見るためには海上に出なければならないのだが、この場所からもその一部を望むことが出来た。
この砂浜を歩いていけば断崖の真下まで行けると思うが、靴が砂だらけになるのが目に見えているのでそれはよしておいた。流紋岩の斜面は見た目どおりに非常に脆く、日々さらされる強風や波浪によって少しずつ浸食され、足元の海岸へ白砂を供給し続けている様子がよくわかる。
砂はさらさらとしており、肌に付いても払うだけで簡単に落ちてしまうほど。海には予想通りサーファーたちが転々と浮いていて、1173wを今かと待ちわびていた。
やはりここはサーフィンの隠れスポット、という意味でシークレットという名前がついているのだろう。
白砂の上をジープがハンドルをゴリゴリとられながら進んでいくのを見ていると、よいスポットを求めて海岸を移動するサーファーたちが、海岸を歩かずにアクセスするために流路工に設置された階段を利用しているようである。
そう考えるとお散歩スタイルの二人の姿は、サーファーたちからさぞかし奇異に映ったと思う。
でも折角来たので海岸まで降りて波打ち際で少し遊んでから戻ることにした。
ふと遠くからプロペラの音が聞こえ、音のする方に目をやると、羽伏浦の上空から島の中ほどの平地にある空港に向けて調布から飛んできた新中央航空の飛行機が着陸するところだった。
中ほどの平地は航空写真などで見ると殆ど標高がないように見えるが、それでも海岸から10mほどの崖で立ち上がっていて、着陸する飛行機がその崖に向かって突っ込んできたように見えて、一瞬ひやりとした。